浦和・興梠慎三が8年連続二桁得点。佐藤寿人が語る2人の意外な共通点。

浦和・興梠慎三が8年連続二桁得点。佐藤寿人が語る2人の意外な共通点。

 大きな故障はほとんどなく、勤続疲労も見えない。肝心の生産効率も高水準をキープ。良質すぎるゴールマシンである。浦和レッズの興梠慎三は9月1日の湘南ベルマーレ戦で今季10点目をマークし、J1史上初となる8年間連続での二桁得点を達成した。

「歴史に名を刻めたことはうれしいけど、僕は個人の記録よりもチームで優勝するために戦っている。Jリーグは厳しい順位にいるけど、ひとつでも上にいきたい」

 試合終了間際に追いつかれて引き分けた後味の悪さもあったのだろう。笑みを浮かべたのは一瞬だけ。喜びに浸ることはなく、すぐに気持ちを切り替えていた。

「慎三の話ね。いいですよ」

 鹿島アントラーズに在籍していた2012年の11得点に始まり、浦和に移籍加入した'13年以降も途切れることなく、10点以上記録。何よりも試合に出続けることが大事だという。ケガをしない秘訣はない。特別なことはしておらず、好きな物を好きなときに食べている。「体が丈夫なのは親に感謝」と笑うばかり。かつてJ1で7年連続二桁ゴールを挙げたストライカーもこの偉業を称えている。

「僕が言うのもなんですが、相当、大変なことですよ。ケガなくやり続けている慎三(興梠)のタフさがあってこそ。どの監督にも使われるには、それに応じた戦術的な役割もこなさないといけない。鹿島で結果を残し、移籍した浦和でも自分で地位を勝ち取って点を取り続けている」

 声の主はJ1通算歴代2位の161ゴールを挙げている、ジェフユナイテッド千葉の佐藤寿人だ。8月のある日、うだる暑さの中で練習試合をこなし、クラブハウスに引き揚げる途中に足を止めてもらった。

 大粒の汗をかき、顔には疲労も見えたが、「興梠選手の話を聞きたいのですが」と伝えると、「慎三の話ね。いいですよ」とすぐに相好を崩した。

2人に影響を与えた指導者。

「寿人さんはJ1で7年連続で二桁ゴールを……」と水を向けると、すぐに訂正が入った。

「僕はJ2を1年はさんでいますが、10年連続ですよね?」と半分冗談まじりの口調でも目は真剣だった。言葉には点取り屋の矜持がにじむ。J1・J2通算では12年連続で二桁得点をマークしている。その希代のゴールハンターにとって、興梠はただの同業者ではない。同じ“門下生”として、通じるものがある。

「僕と慎三が共通しているのは、ミシャ(ペトロヴィッチ監督/コンサドーレ札幌)の指導を受けているということ。僕もミシャの下でFWとしての幅が広がったので。慎三も、浦和でミシャに教わった影響は大きいと思いますよ」

 ペトロヴィッチ監督が浦和から離れるときに、佐藤から興梠へ連絡を取り、恩師とともに食卓を囲んだ。そこで、あらためて佐藤は感じた。2人とも監督を超えた存在としてミシャを慕い、感謝の思いを持っていると――。

群を抜く興梠の決定率の高さ。

 興梠は浦和に加入した当初、ペトロヴィッチ監督が採用する1トップ2シャドーの形にスムーズに順応するために、広島時代に同じポジションで活躍した佐藤のプレーも参考にした。背番号を「13」から「30」に変えて心機一転したストライカーは、移籍1年目の壁を物ともしなかった。巧みなポストプレーで周囲を生かし、シャドーと連係して点を取った。アウトサイドからのクロスも巧みにゴールに変えてみせた。

'13年当時は「裏に抜けて点を取るのが持ち味」と語り、クロスに合わせる形には少し首をひねっていた。「俺、シュートはヘタくそだから」と照れ笑いを浮かべていた昔の姿が嘘のようである。

 J1通算得点は145に伸ばし、歴代6位に。上位6人の中でも、決定率の高さは随一。シュート4.15本につき1点の計算だ。鹿島時代にお手本としてきたマルキーニョスは通算152点を決めているが、シュート7.03本に1点の割合である。

 堀孝史監督、オズワルド・オリヴェイラ監督、大槻毅監督と指揮官が次から次に交代し、サッカーのスタイルが変化しても得点力を落とすことはなく、信頼を勝ち取ってきた。

寿人も絶賛するワンタッチゴール。

 ワンタッチでネットを揺らすパターンには磨きをかけ続けている。シーズン連続得点記録を更新した湘南戦のゴールも得意の形だった。その手の職人である佐藤は舌を巻く。

「駆け引きがうまい。それができているから、あれだけのワンタッチゴールが生まれるんだと思います」

 興梠は点を取って報道陣に囲まれるたびに、口にすることがある。

「パスを出してくれたチームメイトのおかげ。俺はひとりで点を取れない。周囲に生かしてもらうタイプだから」

 ただの謙遜ではない。むしろ、パスを引き出す術に長けているのだ。同じような手法でゴールを重ねてきた佐藤には、分かるのだろう。

「慎三は相性のいい味方をつくるのがうまいと思う。僕と同じかな。見ていると、(柏木)陽介しかり、武藤(雄樹)らとの関係性がいい。周りを生かしながら自分も生きている。特徴を知ってもらい、味方の特徴を理解している。頭のいい選手だと思います」

忘れない先人への敬意。

 今年33歳を迎えて、シュート技術も円熟味が増してきた。ゴール前での落ち着きは目を見張る。

「ペナ(ペナルティーエリア)の中では遊び心が必要。余裕がないと点は決められない。FWはペナ中でいかに仕事をするか」

 7月6日のベガルタ仙台戦で決めた、日本代表GKシュミット・ダニエル(現シント・トロイデン/ベルギー)の頭上を抜くループシュートは圧巻だった。この記憶に残るゴールで、「ミスターレッズ」こと福田正博さんの数字も塗り替えた。浦和だけでJ1通算92点目とし、クラブのJ1最多得点記録を更新。名実ともにレッズ史に残るエースとなっているが、本人は先人への敬意を忘れない。

「(浦和の)サポーターからすれば、福田さんは頂点の存在。10点、20点、30点くらいは得点差をつけないと。浦和レッズといえば、興梠慎三と言ってもらえるようにしたい」

タイトルを「いまいるメンバーと」。

 浦和の象徴へのこだわりを見せている一方で、普段は欲をほとんど出すことはない。日本代表や海外移籍に執着せず、'17年に得点王争いをしているときも、周囲の喧騒をよそにマイペースを貫いた。かつて佐藤が「一緒に得点王争いをしよう」と声をかけても、返ってくる答えはいつも同じ。

「俺なんて、無理ですよ」

 それでも、J1で得点王に輝いた実績を持つ佐藤は、いまあらためて言う。

「これだけコンスタントに数字を重ねているのだから、やっぱり、慎三はそういう称号を勝ち取るべき選手ですよ。そこに欲がないんだろうけど、取ってほしい」

 25節時点で得点ランクトップを走る13点のディエゴ・オリヴェイラらとは3点差。十分に射程圏内にある。

「個人の賞もほしいけど、一番手にしたいのはJリーグのタイトル。浦和ではルヴァン杯、ACL、天皇杯で優勝した。残る1つはJリーグだけ。いまいるメンバーたちで取りたい」

 欲張らない男である。それでも、いつか個人の栄冠を手にする日もくるはずだ。継続は力なり――。

文=杉園昌之

photograph by Getty Images


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