セリーナvs.ヒンギスの構図に似た、大坂なおみとベンチッチの宿敵関係。

セリーナvs.ヒンギスの構図に似た、大坂なおみとベンチッチの宿敵関係。

 大坂なおみの全米オープン連覇の夢は4回戦で散った。インディアンウェルズ、マドリードと今年2連敗中だった同世代のライバル、ベリンダ・ベンチッチに三たび敗れて……。

「今、何がいけなかったかということをあれこれ答えたくない。もっと前向きに考えたい」

 勝敗を分けたものを聞かれて大坂はそう答えたが、大坂が負けたという以上に、ベンチッチが勝った試合だった。

 アンフォーストエラーの少なさはベンチッチの強みで、加えて正確かつ多彩なショットで大坂の強打に対抗する。

 立ち上がりのサービスをいきなりブレークされた大坂は、第4ゲームでブレークバックに成功したものの、5-5で再びブレークを許した。第12ゲームではふたつのダブルフォルトをもらいながらもそれ以外にポイントを奪えなかった。

 第2セットもベンチッチの安定感は変わらず、第5ゲームをラブゲームでブレークされた大坂は、その後ブレークチャンスすら握ることもできなかった。

相手は明確なプランを持っていた。

「ベリンダ(ベンチッチ)はしっかりとプレーしていた。やるべきことの明確なプランを持っていたんだと思う」と言ったが、その通りだった。

 ベンチッチはこう明かしている。

「私は相手のテニスに応じたプレーをするのが得意なの。すごいパワーがあるわけじゃないし、ウィナーもエースもたくさんとれないけど、相手が嫌がるプレーをするようにしている。なおみに対してだけじゃないけど、ボールを早くとらえて、相手の動きを予測するという私のプレーが彼女に対してうまくいっている」

 それは、試合直後のオンコート・インタビューでの「私はチェスをするような感じでプレーしている」というたとえの補足でもあった。

大坂はチェス的なタイプが苦手?

 テニスには<チェス>を使った表現がよく出てくる。ベンチッチの姉貴分であるマルチナ・ヒンギスは、究極に巧い組み立てとすぐれた予測能力から<テニス・チェスプレーヤー>と呼ばれたりもした。そのヒンギスを育てた母親でコーチのメラニー・モリターのもとで、ベンチッチは腕を磨いたのだ。

 また、全仏オープンを制して大坂から世界1位の座を奪ったアシュリー・バーティは、「球種やコース、高低に深さに緩急——あらゆる選択肢の中から的確なものを選んで組み立てていくテニスというゲームは、難解なパズルのようでチェスにも似ている」と語った。

 今大会の1回戦で苦戦した相手、アンナ・ブリンコワはチェスが趣味で、テニスプレーヤーになるかチェスプレーヤーになるか迷ったほどの実力の持ち主だそうだ。そう言われれば、随所に賢いプレーを見せていた印象だ。

 この手のプレーヤーを大坂が苦手としているように思えるのは、気のせいだろうか。バーティには昨年の全豪オープンで勝利したものの、直近の対戦となる昨年の芝のノッティンガムではストレートで敗れている。

 また、大坂が今のところ勝ち星のないまま3敗以上を喫している唯一の相手が、ウィンブルドンの1回戦で対戦したカザフスタンのユリア・プティンツェワなのだが、この身長163cmと小柄な24歳の趣味がまたチェスなのだ。余談だが、数独も好きらしい。

セリーナもヒンギスとはほぼ互角。

 チェスが趣味――つまり頭脳派と括ろう。頭脳プレーをより有効にするためには技巧的でなければならず、頭脳派と呼ばれるプレーヤーは同時に技巧派であることが多い。

 パワープレーヤーにとっての難敵はこの頭脳派・技巧派であるケースが多く、たとえばセリーナ・ウィリアムズが長いキャリアの中でほぼ互角の対戦成績を強いられた数少ない相手はヒンギス(7勝6敗)だ。

 この先、大坂を苦しめ続ける敵も同じタイプのプレーヤーなのだろうか。脅威だが、特にベンチッチとのライバル物語の行方は同時に楽しみでもある。

 同じ1997年生まれ。女子テニスのゴールデンエイジと呼ばれた世代である。今は伸び悩んでいるが、一昨年の全仏オープンを20歳で制したエレナ・オスタペンコも同い年だ。

21歳のドラマはもっと奥深くなる。

 ベンチッチは、この世代に才能豊かなプレーヤーが多くいることが認識されるはるか前から特別な存在だった。

 16歳のときの全豪オープンでグランドスラム・デビューを果たし、同年、17歳になった全米オープンでベスト8に進出。19歳になる直前に自己最高の7位に到達。大坂はぶっちぎりで同世代のトップを走るベンチッチに追いつくことが目標だと、かつて話していたものだ。

 そんなトップランナーが、2017年に左手首の手術で5カ月間戦列を離脱。ランキングは300位以下に落ちた。ベンチッチが復活の階段を上るのに必死だった2018年に、大坂はグランドスラム・チャンピオンへと上り詰めた。

「本物のアスリートはいろんな障害やケガや、苦しいときを乗り越えないといけない。そうやって、私もより強い人間、より強い選手になってきた」と言うベンチッチにとって、あの17歳のときの全米オープン以来となるグランドスラムの準々決勝進出が、大坂からの勝利によって果たされたことには大きな意味があるのではないだろうか。

 大坂にとって、連覇がかかっていたこの大会と3月のインディアンウェルズの両方がベンチッチに阻まれたという事実もまた……。

 連覇という目標には遠く届かなかったが、少なくとも「人として成長できた」という21歳のドラマがもっと奥深く、よりおもしろくなるのは多分これからだ。

文=山口奈緒美

photograph by Getty Images


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる

あわせて読む

主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索