「変わらずやり切る」湘南らしさを。梅崎司は監督不在でも走り続ける。

「変わらずやり切る」湘南らしさを。梅崎司は監督不在でも走り続ける。

 このチームを絶対に下に落としてはいけない――。

 加入2年目ながらチーム最年長である湘南ベルマーレの梅崎司は今、難しい立場の中で強烈な主張を見せている。

 湘南には逆風が吹いている。長きに渡り指揮をとり、相手より競り勝ち、走り勝ち、ハードワークし続ける。そんな「湘南スタイル」を確立させたチョウ・キジェ監督にパワーハラスメントの疑惑が持ち上がり、8月13日をもってチームの指揮及び指導を控えることが発表された。今も高橋健二コーチが監督を代行し、指揮を執っている状況が続いている。

「もしJ2に落としてしまったら、チョウさんのこれまでやってきたことを水の泡にしてしまいかねない。もちろん、どんな理由だとしても、当然チームを落としてはいけないです。ただ、僕はチョウさんのことを素晴らしい監督だと思っているし、心から尊敬できる監督です。ここまで気を使ってくれるというか、選手のことを想ってくれる監督はなかなかいない。そんなチョウさんが作ったチームを落とすわけにはいかない」

 調査結果がまだ出ていない以上、今後の去就がどうなるかは全く分からない。その中で選手ができるのは、勝ち点を積み重ねて、J1に残留することであり、1つでも上の順位に導くことである。チームに最もプラスになることは結果。結果を出し、残留すれば、明るい未来につながる。

「これまでと変わらずやっていく」

 それを梅崎はよく理解している。梅崎はチョウ監督が口説き落とし、重用されてきた人物であるだけに、その想いの深さは容易に想像できる。だが、梅崎は冷静さも持ち合わせている。自分がチョウ監督を心から信頼し、影響を受けているからこそ、自分の言動の重要性を深く理解している。

「個人としても、チームとしても、これまでと変わらずやる。それがこの苦しい状況で必要なことでした」

 チーム最年長であり、J1リーグを15年も戦い抜いてきた経験豊富なベテランが与える影響力は大きい。それはいい意味でも、悪い意味でも、である。

最初はちょっと困惑したが。

 8月13日の報道後、クラブは練習を急遽非公開にしたが、その時も多くのメディアが梅崎に話を聞きに行き、彼のコメントはどの記事にも記載された。

「正直、こんなシチュエーションは今まで味わったことがないので、最初は僕もちょっと困惑しました。でも冷静に考えた時、こういう状況になると、絶対に自分の言葉が報道されるし、影響力を持ってしまう。メディアに対する言葉もそうですが、それ以上にチーム内で広がっている動揺にどう対処すべきか考えた時、自分が個人的な感情で動いてはいけない、と。

 最初は選手ミーティングを開こうかと思っていましたが、それが果たして今のチームにとってプラスになるか。それを考えて『ちょっと待て』と思ったんです。必ずしも全員が同じことを考えているわけではありません。集まって話すことが時としてマイナスに働いてしまうこともある。自分の思いつきで動くのは違うと思った」

練習から100%で戦うことを大事に。

 自分の立場を把握して、立ち振る舞いを考える。初めての経験の中で、彼が導き出した答えはシンプルなものだった。

「ピッチの中で示すしかない、と。練習から100%で戦い、気を引き締める。それは湘南に移籍してきた時から大切にしてきた信念です。ピッチ外で何が起ころうが、ピッチ内では常に緊張感を持っていく。球際を激しくいき、要求すべきところは遠慮なく要求し合う。

 それはチョウさんが作り上げてきた、ベルマーレのスタイルであるからこそ、チョウさんがいないからと言って、おろそかになっては意味がないんです。『変わらず、やり切る』。これこそがチョウさんに教わったことだと思っている。僕がそれを100%表現できなかったら、今僕がここにいる意味がない」

 プロサッカー選手である以上、自分の意思はピッチで放つ。取ってつけたようなリーダーシップではなく、パッションを持って先頭に立つ。怪我を抱えながらも、梅崎はこの難局の乗り越え方を自らの背中で示そうとしている。

古巣・浦和戦で気迫のプレー。

「コンディションが万全ではないので、自分が持っている100%を出すことはできていなかった。その難しさはあったけど、だからこそ要求をし合ったり、声を出したり、雰囲気を作ることに努めました。

 ダメなプレーには厳しく言ったり叱咤します。声ひとつでチームの空気や色が変わると思っているので、それは意識づけていました。“試合のための練習”という緊張感を持って積み重ねることが、チームの明確な基準。チョウさんが築き上げた基準を大切にする。それを最年長である僕が先頭を切って取り組むことが大事だと思っています」

 この言葉通りのプレーを見せたのは、J1第25節の浦和レッズ戦だった。

 梅崎は1点ビハインドの58分にMF松田天馬に代わって投入された。「絶対に逆転するつもりでピッチに入ったし、準備段階でイメージしていた。どうゴールを奪うか、どう(勝利に)結びつけるかを表現するだけだった」と、シャドーで気迫あふれるプレーを見せた。

 69分には左サイドの絶好の位置で FKを獲得。キッカーとして正確なボールを蹴って、チャンスを作り出した。またこぼれ球を拾われてカウンターを受けそうになったシーンでも、スライディングでフィードをブロックした。

冷静に、サポーターを鼓舞して。

 また、81分にはこんなシーンもあった。

 杉岡大暉のシュートがDFに当たって、左CKになると、梅崎はキッカーとしてコーナーに向かう。その際、梅崎は首を回してスタンド全体を見つめてから、両手を使って「もっと声を出してくれ!」と言わんばかりにサポーターを鼓舞した。

「実は、かなり冷静でした。チームに流れがきていると感じていて、『スタジアムの力がもっと欲しいな』という時にコーナーになった。『ここはサポーターに呼びかけるタイミングだな』と。そういう行動をすれば、より相手への圧力が増すと思って狙ってやりました」

 梅崎に呼応するようにスタジアムの声援が一段と上がると、梅崎のクロスから決定機が生まれた。ゴールにこそ結びつかなかったが、サポーターの後押しを受けて湘南と梅崎はさらに攻撃の圧力を強めた。

チームメイトに感じる頼もしさ。

「(浦和の)ボランチやDFラインのマークの受け渡しがあやふやだった。なので『パス、ドリブルどちらもいけるよ』と(ボールを)さらして、どちらも冷静に選択をした」と存在感を放ち続けた梅崎は、88分にビッグプレーを見せる。

 杉岡のスローインを山崎凌吾がペナルティーエリア内左で受けた。ここで落としたボールを梅崎が受けるとDFに囲まれながらも中に仕掛け、エヴェルトンに倒されてPKを獲得したのだ。自らキッカーに名乗り出ると、浦和GK西川周作との駆け引きを制して、ゴール右隅に突き刺した。

 その後も湘南は浦和を押し込んだが、1−1のドロー。結果自体は満足できるものではないだろう。とはいえチョウ監督不在の中で2戦連続で追いつく形での2引き分けと、勝ち点を積み重ねている。

「ものすごく成長を感じている。以前は先制されると苦しい展開に陥ってしまいがちだったけど、今は落ち着いて『自分たちのサッカーを続ければゴールを奪える』という意識が選手間で共有できているのは間違いない。チームメイトが頼もしくなっていると思います」

 試合後、梅崎はこう胸を張った。

「一体感もまた、湘南の価値」

 悲観することはない。今、自分たちの状況は間違いなく苦しいが、屈してしまっては湘南ベルマーレという財産に傷がついてしまう。

「若い選手はもちろん、選手ひとりひとりの責任感がどんどん強くなっているのを感じる。僕はそれを大切にするだけ。練習や試合中の厳しい声は僕にも届くし、こういう関係性こそ、チョウさんが作ってきた証。

 それにね、今の湘南はスタジアムの雰囲気が良いんですよ。なんというか……選手とサポーターが呼応し合う雰囲気になってきましたよね。相手にはプレッシャーになり、僕らには『いけるぞ!』という空気を作ってくれています。メインスタンドもバックスタンドも一緒になって、一体感が凄い。これもまた湘南の価値だと思います」

 俺たちは屈しない――。

 残留はもちろん、1つでも上の順位に押し上げるべく。矜持を示すチーム最年長は、難局にあるチームを力強く牽引している。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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