大久保からの喝と麻也の期待を胸に。橋本拳人はハイブリッドMFに変身中。

大久保からの喝と麻也の期待を胸に。橋本拳人はハイブリッドMFに変身中。

 先発11人中、10人が欧州で戦う選手たち。ただ1人、Jリーグ組としてピッチに立った橋本拳人が堂々たるプレーを見せた。

 9月5日に茨城・カシマスタジアムで行われた、日本対パラグアイの一戦。スタメンは今冬のアジアカップで主力だった選手たち。唯一、ダブルボランチの位置には、柴崎岳の相棒として初めて橋本が入った。今年3月に代表デビューを果たしたばかり。3月、6月の招集時に安定したプレーを示し、継続して今回も選ばれた。

 現在、J1リーグで首位を快走するFC東京の中心選手。球際での強度の高い守備とボール奪取、そこからのパス配給で好調のチームを常に下支えする。10代の頃は攻撃的MFでプレーしていたが、ここまでプロの世界では守備に長けたボランチだった。本人も一番の武器は「ボール奪取力」と疑わない。中盤で相手に襲いかかる“狩人”だ。

 ただ、そこからのパス出しには大きな課題があることは、自他ともに認めるところだった。

大久保嘉人からの「前だよ!」

 2017年のことだった。そのシーズン、川崎FからFC東京に移籍してきた大久保嘉人は、チームの稚拙なパスワークに常に異を唱えていた。

「もっとリズムよく回さないと!」

 そんな声が練習中から頻繁に聞こえてきた。特に多くの注文をつけられていたのが、橋本だった。ボランチの位置からリズムよく縦方向にパスが出てくるか否か。それは攻撃の生命線の1つでもある。相手のプレッシャーを受けると、横方向や後方へのパスを繰り返す橋本に、大久保は「ケント! 前だよ!」「何度言ったらわかるんだよ!」と叱咤を続けた。

 悔しそうな表情をしながらも、うまく前にパスをつなげられない自分がいたのも事実。そこからチームの練習後も、コーチや味方につきあってもらいながら、ボールを受けては前にターン、さらには敵に寄せられてもうまく回避して前にパスを配るプレーを繰り返していく。

自分の理想とは逆の役割。

 それが少しずつ開花したのが、昨年のシーズンだった。

 橋本は元々イングランド・プレミアリーグで躍動するMFが大好きだった。スティーブン・ジェラードやフランク・ランパードに代表されるような、自陣の深い位置から敵のゴール前まで幅広く動いては、攻守に躍動するプレー。それこそが、自らが目指すべき姿だと思ってきた。

 昨季、新たに長谷川健太監督が就任し、指揮官が橋本に最初に与えた司令は「動きすぎるな」だった。自分の理想とは、ある意味逆の役割。初めは「少し窮屈さも感じた」という。

 もうひとりのボランチ高萩洋次郎は、以前はテクニカルな10番タイプだったが、いまでは運動量豊富にピッチを駆け回るファイタータイプに変貌した。そんな高萩とのバランスを考え、橋本はチーム全体の重心役となって、攻守でバランスを取る仕事を司ることに。これまでは相手ボールに襲いかかることで自分の存在感を発揮しようとしていた。

 ただ、これからは運動量や激しさだけではなく、全体を見渡した上で適所に位置し、組織を循環させていくプレーが求められる。それはポジショニングや読みなど、ボランチとして高い質が要求されることを意味していた。

FC東京で求められるパスの質。

 同時に、継続して取り組んできたパス配球の質も、より高いものが問われていく。相手ゴールに素早く、スピーディに迫っていくのが現在のFC東京の攻撃スタイル。その中で橋本は、攻撃の第一歩となる縦パスを供給していく。

 かつての消極的なパス選択ではなく、「たとえミスをしても、すぐに守備でハードワークしてもう1度奪い返せばいい。それぐらいの強い気持ちでボールを出したい」と、自分の変容を周囲に示した。

忘れられない最悪のプレー。

 2018年のJ1第33節。すでに優勝を決めた川崎Fをホームに迎えた試合の終了間際に、橋本は大きなミスをした。

 自陣でDFからボールを受ける。自らは攻撃方向を背中にし、敵からプレッシャーをかけられている。2人、3人とさらに囲まれる中、右足アウトサイドで横パス。するとこれを相手にカットされてしまった。そのままゴールを決められる始末。シーズン終盤で、最悪のプレーをしてしまった。

「このミスを絶対に忘れてはいけない。自分の中で、どこかで取り返さないといけない」

 新たなプレーに挑戦している最中で起きた、ショッキングな出来事。そのまま、橋本の2018年は終わった。

掲げた「リーグ優勝と代表入り」。

 2019年1月。沖縄キャンプで会った橋本の表情はスッキリとしていた。掲げた目標は、2つ。

「FC東京のリーグ優勝。そして日本代表入り」

 至極シンプルに言い切った姿勢が、とても清々しかった。

「とにかく自分が育ってきたこのチームで勝ちたい。首位を走り、優勝するということは、そこで自分が貢献するということ。そうすれば、自ずと代表入りの道も開けてくる」

 こう話していたのも束の間、日本代表の扉は思いの外に早く開かれた。3月に初めて招集され、ボリビア戦で先発デビュー。安定感あるプレーを見せ、上々の出だしだった。

 リーグ戦では日を経るごとに著しく成長していくようだった。昨年、最終盤でミスをしたあのプレーを引きずることなく、今季はさらに堂々と縦パスを入れていく。

「ボールを奪うだけでは相手にとっては怖くない。常に頭にそう言い聞かせている」

 自分のミスにも打ち克った。相手のプレッシャーを前に、リスク回避するようなプレー選択をしていた彼など、もう今はいない。

バランス、ボール奪取、積極性。

 パラグアイ戦。そこには日本代表のピッチでもチーム全体の動きを俯瞰するかのように、ボランチとして適所にポジションを取る橋本がいた。柴崎が前に出ると、スッと後ろに下がり、チームの重心を取る。相手の縦パスには持ち前の球際の激しさで、ボールを奪いに行く。

 攻撃のビルドアップではDFからボールを引き出し、小気味よく周囲にパスを配る。チーム2点目につながるシーンでは、左サイド前に空いたスペースに自らドリブルで運び、敵をひきつけたところで中央寄りにいた元FC東京のチームメイト、中島翔哉に巧みにパス。敵陣を崩すきっかけになった、非常に“効くプレー”だった。

 初めて代表の主力勢に混ざってプレーした。周囲の評価は上々。ただ、試合後の本人は「手応えと課題、半々です」と表情を引き締めた。

「縦パスを入れるところや攻撃に関わるところなど、できたところは良かった。それは常に自分が意識してきたことなので、代表でもそれを出していかないといけないと思っている。ただ……」

 むしろ自ら痛感した課題の方に、意識を傾けたいように見えた。

吉田麻也が求める「残り15分」。

 気になるシーンがあった。試合終盤、チーム全体で動きの量も質も落ち、イージーミスからパラグアイに攻められる場面があった。最終ラインでは、主将の吉田麻也が中盤に向けて大きなアクションで声を上げている。橋本が引っかかっていたのは、そこだった。

 吉田に、橋本の印象について聞いた。すると、あの場面の背景を明かした。

「非常にボール奪取能力が高い。パスコースに顔を出して、相手に隠れることもない。さらに前にボールを付けられれば、もっといい選手になる。ただ、75分を過ぎてから強度が落ちたと僕は感じた。最後の時間帯に本人にも言ったし、彼も自分でわかっていた。

 たぶん、今のFC東京は勝つ試合が多いこともあってか、楽に試合の終盤を迎えることもあるのかもしれない。そこの強度は代表戦ではまた違ったものになる。現状は、それを練習やJリーグの中で、自分で意識して補っていかないといけない。でもそれは(板倉)滉にしても(久保)建英にしても足りない。残り15分のプレーの質の低さはいただけなかった」

 実際に吉田からその声をピッチで聞いた橋本は、こう感じていた。

「指示の質も常に高くて的確。内容も今まであまり聞いたことのないような指示だった。やっぱりJリーグの試合よりも、序盤からみんなプレー強度が高かった。スライドしたり、ボールに出ていく動きも激しいし、ボールを奪ってからの押し上げも速い。付いていくのに大変。それが終盤の疲労につながってしまった」

橋本が目指すべきボランチ像。

 一方で、吉田は決して厳しい言葉だけを残したわけではない。彼は以前からCBとボランチとの関係性を、最も大切にしている。吉田がボランチ論を語ると、これまでのプレー経験を含め、ありとあらゆるタイプについて多彩な表現をするところがいつも面白い。

 そんな、ボランチにこだわりを持つ選手だからこそ、橋本への言及が気になった。

「まだ日本には、ボールを奪えて、パスも供給できるというハイブリッドのボランチがなかなかいない。プレミアのボランチは、今や守備・攻撃のどちらかが得意という感じでもない。それを目指せば、拳人は頭1つ抜けるんじゃないかなと思います。

 たとえば、若いデクラン・ライス(ウェストハム)とか、モルガン・シュネイデルラン(エバートン)みたいなタイプ。ヨーロッパの選手でも、最初は足元のプレーが伴っていなくても、身体能力を生かしてプロになって、技術が後から伸びてくるケースが意外と多い。だから可能性は大きい。何より、ボールも扱えて、奪えてというボランチが出てくると、CBの僕としてはめちゃくちゃ楽になりますから(笑)」

黒子の男の確かな成長。

 良さも至らなさも出た試合。橋本にとって、本格的な代表デビュー戦がそうなったことは良かったのではないだろうか。何より本人がそう噛み締めている。

「やれたところも、まだまだなところも。とにかく本当に刺激的な試合だった。さらに上の景色を見たいという欲も出てきた」

 足りないことを突きつけられ、進むべき道を見つけてはミスをしながらも地道に歩んできた。そして少々遅咲きながら、ようやく飛躍のきっかけをつかもうとしている。

 黒子の男、橋本拳人。スター候補の久保や派手な攻撃陣に隠れて、1人のMFが確かな成長を遂げつつある。

文=西川結城

photograph by Takuya Sugiyama


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