イグアインにジェコ、ディバラ……。放出要員、窓際族の逆襲が見たい。

イグアインにジェコ、ディバラ……。放出要員、窓際族の逆襲が見たい。

「●●ポッ! すごい試合だった。まるでジェットコースターみたいだっただろ!?」

 第一声は、南イタリアの方言で男性器を表わす放送禁止用語だった。

 今季、再び白黒の縦縞ユニホームを着ることになったユベントスのFWゴンサロ・イグアインは、セリエA第2節ナポリ戦直後のインタビューにアドレナリン全開で臨んだ。

 強豪ナポリをホームに迎えた大一番は壮絶な乱打戦だった。ユーベは62分までに3点をリードしたが、後半20分過ぎから15分間で同点に追いつかれ、92分のオウンゴールで何とか辛勝、開幕2連勝をあげた。

 怒涛の試合展開にあって、イグアインの働きぶりは誰よりも際立っていた。

 19分に左サイドからボールを受けたイグアインの背中にはリーグ最強のCBカリドゥ・クリバリーが張り付いていた。しかし、イグアインは一瞬左向きにフェイントを入れて逆をつくと、流れるように右足アウトサイドで放り込んだ。

クリロナ加入で今や“窓際族”。

 圧巻のゴールにクリスティアーノ・ロナウドをはじめとするチームメイトたちが駆け寄り、祝福する。イグアインは胸のエンブレムを激しく叩いて、常勝ユーベのFWである誇りを満天下に示す。そんな彼の試合後の失言を、僚友たちが咎めたはずもない。

 開幕前、イグアインは試合出場どころか、チームにいられるかどうかも怪しかった。2019年の夏が始まったとき、彼はユベントス株式会社の“窓際族”だった。

 ミランとチェルシーを渡り歩いた昨季のレンタル生活を終えたイグアインは、保有元であるユベントスでキャンプインした。

 現在のユーベは“クリロナ”という恒星を中心に回っている。新監督サッリは4-3-3信者だから3トップの左サイドはC・ロナウドの専用席。残る2つの先発枠にイグアインとマリオ・マンジュキッチ、ドウグラス・コスタにパウロ・ディバラ、そしてフェデリコ・ベルナルデスキの5人がひしめき合う。

背番号9剥奪の屈辱にも移籍を拒否!

 31歳で出戻りのイグアインは余剰戦力扱いで、フロントはローマやウェストハム等からのオファーを示しながら彼の肩を叩いた。ユーベの補強を取り仕切るパラティチSDは、どんなに強力な布陣を抱えていても血の入れ替えを画策する野心家だ。

 今夏にもロメル・ルカク(マンU→インテル)、マウロ・イカルディ(インテル→パリSG)の獲得をあの手この手で実現しようとした。

 そして、背番号9をイグアインから剥奪している。

 3季前の夏から2季にわたってエースを務めた功労者に何と理不尽な仕打ちか。イグアインはそう思ったに違いない。

 それがこの世界のルールであることを承知しながらも、彼は自分への移籍オファーに対して、首を横に振った。

 新監督は新しく就任したチームの選手たちと信頼関係をイチから築かなければならない。だが、ナポリ時代に親分と舎弟の契りを交わしたサッリ新監督とイグアインの間に言葉は要らなかった。

 サッリはキャンプの早い段階で愛弟子イグアインと絶対エースC・ロナウドを組ませた。レアル・マドリー時代以来6年ぶりに2人が攻撃フェーズで連続ワンツーを成功させると、親分は「おお、いいぞ! ワシ好みだ!」と歓声を上げた。

恩師サッリのお陰でアシストマンに。

 新戦術とチーム全体のフィッティングが遅れるなかサッリが必要としていたのは、左に固定しているC・ロナウドと右の先発を勝ち取ったD・コスタとの間でバランスを取れるセンターFWの存在だった。

 親分は肺炎で開幕2試合を欠場したが、代行監督マルトゥシエッロはパルマとの開幕戦の先発リストにイグアインの名を書き入れた。元エースの役割は現エースの黒子役だった。チームが1−0でしぶとく白星を挙げるなか、枠内シュートはゼロで無得点に終わったが、イグアインは誰よりもアシストプレーをこなし、仲間にシュートを打たせた。

 4シーズン前に歴代最多得点記録を達成した点取り屋が、アシストマンとして転生した。レアル時代のカリム・ベンゼマがそうだったように、C・ロナウドはエリア中央に陣取ってくれるセンターFWとのプレーを好む。

「3トップの中央にイグアインを先発させたのは、彼には生粋のセンターFWとしての経験があるからだ。きちんと鍛えられたパルマ相手に、ゴールの真ん前でプレーすることに不慣れなFWを先発させるのはリスキーだった。開幕前の2日間の動きで確信させてくれた」(マルトゥシエッロ監督代行)

 イグアインはポストプレーヤーであるだけでなく、ナポリ戦で証明したように超一流のフィニッシャーでもある。悩ましかった夏を越え、イグアインはスタメンという花形へと返り咲いた。

ローマのジェコも逆境にある。

 ローマのエースFWエディン・ジェコも、この夏は同じように“窓際”にいた。

 昨季終了後は放出間違いなし、インテルと合意済みとの噂も流れた。ところが、事態が変わる。インテルFWイカルディの移籍先探しは遅々として進まず、ジェコの去就も宙に浮いたままフォンセカが新監督に。昨季チーム得点王のステファン・エルシャーラウィは中国へ去った。フォンセカとしては、フロントの思惑はどうであれ、高さも決定力もあるボスニア人ストライカー抜きのチーム作りは考えられない。

 ジェコは沈黙を守りながら"お別れ試合"と目されていた8月11日のR・マドリーとの親善試合で、1-2の劣勢で迎えた試合終盤に同点ゴールを決めた。試合後、フォンセカはジェコを称賛して「うちの選手だ」と明言した。

 5日後、フロントから三顧の礼で2022年夏までの契約延長オファーを受けたジェコは快くサインに応じた。

「チームメイトたちにずっと『残れ、残れ』と言われてきた。(新主将アレッサンドロ・)フロレンツィは『契約延長したら俺のキャプテンマークをやる』とまで言ってくれた」

 かつてトッティやデロッシが巻いた“ローマのキャプテンマーク”は決して軽くない。後継者たるフロレンツィは約束を守り、本当にジェコへ渡そうとしたらしい。

愚痴を言わずにゴールを決める。

 しかし、ボスニアの巨人は気持ちだけで十分と固辞した。「ローマはもう自分の家だ」と仲間たちとの5年目の開幕戦に臨み、ジェノアと3点ずつを取り合う激闘できっちりとゴールを奪ってみせた。

「元ローマの選手たちのクラブ批判を耳にするけど、それはおかしいと思う。出て行った後なら何とでも言える。言うべきことがあるならチームにいる間にぶつけるべきだ」

 一度は自分を放出しようとしたクラブに、本心では含むところがあるのかもしれない。しかし、それを口にするのではなく、ゴールという結果で示すのがジェコの流儀らしい。

 近年の移籍市場は相場の高騰と過剰戦力のアンバランスが問題になりつつある。70〜80億円規模の移籍が頻発するなかで、収支バランスをとるための売却プランも市場戦略上、重要な位置を占めるようになってきた。

必要とされていないチームで戦う。

 わずか3年前に約117億円を積まれてユーベに加入したイグアインや、ローマ歴代5位の得点数を誇るジェコは、実力とネームバリューがあるがゆえにクラブ経営陣にとっては格好の売却要員になりうる。

 自身の売却益がクラブ経営に役立つことは、助っ人外国人として百も承知のはずだ。もはや望まれていないのなら、新天地でやり直した方がクラブと選手、双方のためになるケースも多い。

 インテルから戦力外通告を受けたあと、クラブへの損害賠償請求など揉めに揉めた挙句、最終期限ギリギリでパリSG移籍が決まったイカルディの場合は、皆が万々歳で終わった例だろう。しかし、イグアインもジェコも踏みとどまった。必要とされていなかったはずのチームで戦い続けることを選んだ。

ディバラはイグアインと勝負。

“窓際族”は他にもいる。

 イグアインと定位置を争うディバラは、フロントに「売らない」と伝えられていたのに、コパ・アメリカとバカンスの後で合流したら、自分自身もショーウインドーに並べられているのを知って愕然としたに違いない。

 マンチェスター・Uやトッテナムとの交渉は成立寸前までいっていた。結局残留したが、ネイマールの去就次第ではパリSG行きの可能性は市場最終日まであった。ただし今季は、“偽9番”としてイグアインやマンジュキッチと勝負する宿命を背負う。

 そんな彼らの叫びを止めることはできない。

「俺はユーベに帰ってきた。別のチームではなく、ここに残ってプレーしたいんだ」

 ナポリ戦の生中継で流れたイグアインの放送禁止用語は、数時間後のダイジェスト番組や翌日の新聞記事では巧妙に編集され、カットされていた。それでもファンやライバルはイグアインの決意を感じ取っている。

 2019-20シーズンは始まったばかり。序盤は新加入の選手たちに目が向けられがちだが、望まれなかった男たちの逆襲にも注目したい。

文=弓削高志

photograph by Uniphoto Press


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