脇坂泰斗は「とにかく、やりやすい」川崎で評判高い、心配りと泥臭さ。

脇坂泰斗は「とにかく、やりやすい」川崎で評判高い、心配りと泥臭さ。

 とにかく、やりやすい。

 王者・川崎フロンターレの同僚たちに聞くと、皆がそんなフレーズを口にする選手がいる。

 プロ2年目の脇坂泰斗である。

 主戦場は主にトップ下だが、司令塔タイプではない。動きながらプレーできる機動力を備えており、どちらかといえば、シャドーストライカーに近いタイプだ。ゴール前でのフィニッシュワークも特筆すべきものがある。

 川崎フロンターレU-18時代には10番を背負った。

「止める・蹴る」の技術が高く、プレーにも非凡なセンスを感じさせるが、中盤のテクニシャンにありがちな王様タイプではない。周囲と呼吸を合わせながらプレーするセッションに長けており、周りを生かしながら自分を生かすことができるプレーヤーだ。それでいて、守備でハードワークすることを厭わない泥臭さもある。

 だからこそ、味方からは「やりやすい」との声が上がるのである。

下田のゴールをお膳立て。

 ルヴァンカップ準々決勝2ndレグ・名古屋グランパスvs.川崎フロンターレ。

 53分、ボールをトラップした下田北斗が力強く踏み込んで左足を一閃すると、次の瞬間、約30m先のゴールマウスを守るGK武田洋平の手をすり抜けてゴールネットに突き刺さっていた。「感触的には良かったし、入るかなと思った」と、打った瞬間に下田本人が手応えを感じたミドルシュートは、ホームでの第1戦を2−0で勝利していた川崎にとって、勝ち上がりを決定づけるに等しいアウェイゴールとなった。

 下田が決めたこの一撃をお膳立てしたのは脇坂の仕事だ。

 右サイドで家長昭博とのコンビネーションによる崩しの意志を見せながら、相手のエドゥアルド・ネットを中央の持ち場からサイドに引っ張り出した。もちろん、狙いがあっての駆け引きである。

「アキさん(家長昭博)とのワンツーも行けたと思うんですけど、僕のマークについていた選手が左に動いた。ターンして打とうと思ったら、ネットも食いついてきていたので、北斗くんがフリーでした。自分も打って欲しいと思っていたので、トラップにストレスのかからないようなパスを心がけて出しました」(脇坂)

受け手に届く、脇坂の心配り。

 相手をうまくサイドに引きつけたことで、中央でフリーになっている下田の姿を脇坂は見逃さなかった。さらに心憎いまでに丁寧なボールを足元に届けている。この心配りこそが、脇坂の魅力だ。

 シュートの体勢に入る時間を生み出す計算されたメッセージは、受け手にも伝わっていた。

「間に守田(英正)がいたと思うんですけど、そこを一個飛ばしてくれたことによって、自分が打ちやすい状況をつくってくれましたね。そこはすごく良かったです」(下田)

 こうして下田の一撃が鮮やかな軌道を描き、直後の歓喜を呼び込んだのである。

 この準々決勝第1戦ではカウンターから自ら追加点を決め、第2戦でも1アシストと躍動。試合後は、爽やかな笑顔で今後を見据えた。

「連戦という中で2試合ともスタメンで出て、自分のできることが明確になりましたし、もっともっとやらなくてはいけないものも出ました。これからのトレーニングでそこをしっかりとやって、そして勝ち進んだことをプラスに捉えて頑張りたいと思います」(脇坂)

板倉と三好の先輩。苦しんだ1年目。

 川崎の下部組織出身で、今年、日本代表デビューを果たした板倉滉や三好康児の1学年先輩にあたる。高卒でのトップチーム昇格は果たせなかったが、阪南大学に進学し、2018年にフロンターレに入団した。

 ただプロ1年目の昨シーズンは出場機会に恵まれずに苦しんだ。

 リーグ戦の出場はゼロ。ACLの蔚山現代戦で途中交代でプロデビューを果たし、唯一のスタメン出場も、天皇杯2回戦・ソニー仙台戦のみである。

 だがこの初スタメンでは、自身のパスミスがきっかけで失点につながり、チームも2失点。思わぬビハインドを負う展開になったことで鬼木達監督も動かざるを得ず、前半途中で交代となった。試合は逆転勝ちしたものの、脇坂にとってプロ初スタメンは、わずか38分で終わる苦い経験となっている。この試合後は自分への悔しさから涙も見せていたと聞くが、ミックスゾーンでは前向きな言葉を口にしていた。

「1失点目のシーンは僕のパスミスから始まっている。中を閉められていても、中から行けるのがウチだと思っていますし、そこも自分が通せるようにしないといけない。チームが勝てたことは嬉しいですけど、個人としては悔しい気持ちもあります。それを次に生かさないと意味がないと思っています」

代表まで駆け上がる同期の存在。

 脇坂が出場機会を得られない一方で、同じ大卒新人である守田は、驚くべき速さで駆け上がっていった。

 レギュラーの一角として中盤を担うだけではなく、秋には日本代表デビュー。そんなスピード出世を果たした同期を、脇坂はどんな思いで見ていたのだろうか。

「いや、すごいなと思っていましたよ。悔しいというよりは、すごいな、ですね。ヒデ(守田英正)もそうですが、同世代の活躍は意識はしないといけないし、多少の焦りもありました。

 でも、一緒にやってきたメンバーが結果を出しているということは、自分も絶対にやれると思った。自分のやるべきことは何かと、逆に自分に矢印を向けることができました。足りないところもあるので、そこを伸ばす。うちは攻撃陣の層が厚いので、そこに割って入っていけるようにトレーニングしていました」

「お互いを補える」と信頼する守田。

 一方の守田はどう感じていたのか。

「アドバイスでもなんでもないですけど」と苦笑いした上で、試合に出れなかった去年の時期を我慢強く積み上げたことが今の脇坂につながっていると守田は話す。

「去年、自分がずっと試合に出続けた時に、ヤストは苦しい思いをしていた。チームの流れとか順位もあって出る機会がなかった中でも、努力し続けてきた。そこはすごいなとは感じてました」

 最近の川崎では、両者が中盤のスタメンに名を連ねる機会も多くなってきた。守田は脇坂への信頼を口にする。

「居てくれると心強いし、やりやすいです。良さも知っているし、ウィークポイントもわかるからこそ、お互いを補えるとも思ってます。それに自分が何をしないといけないのか。何を求められて、監督が試合に出しているのか。それがちゃんとわかっているんだと思います。その上でアタッカーとして結果も出せる。結果を残して終わるというところがすごいと思います」

 川崎の中盤を担う両者による成長の競い合いは、注目しておくと面白いかもしれない。

「去年とは違う成長を実感」

 脇坂は今季、公式戦16試合に出場し5得点を記録している。やるべきことをやり続けて来た自負が、この結果と自信につながっていると言う。

「去年の終わりから調子自体は良かったんですが、リーグ戦開幕してから5試合ぐらいベンチにも入らなくて……最初はどうなるかなと思いました(笑)。もちろん、出たらやれるとは思ってましたが、なかなか試合に絡めなくて、去年(のこと)がよぎりました。でも、やり続けるしかない。こうやって試合に絡めて、また去年とは違う成長を実感できているし、自信も生まれてきています」

 雄飛のときは、やって来た。

 自分の軸をぶれさせずに積み上げて来た自負が、脇坂泰斗の背中を強く押し続けている

文=いしかわごう

photograph by J.LEAGUE


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