大坂なおみ、喧騒から1年後の凱旋。「大阪で勝つのイイんじゃないかな」

大坂なおみ、喧騒から1年後の凱旋。「大阪で勝つのイイんじゃないかな」

「大阪で大坂フィーバー!」と書くつもりだったが、期待したほどでも、恐れたほどでもない。

 大坂なおみが生まれ故郷である大阪でプレーするのは5年ぶり。東レパンパシフィック・オープンは東京で開催される大会だが、会場の有明コロシアムが来年のオリンピックに備えた改修工事中のため、今年は大阪市の靭テニスセンターでの開催だ。

 おかげで大坂の<帰省>が叶ったのだが、初戦となる2回戦が行なわれた水曜日の練習には300人近いファンが詰めかけたものの、前の人の頭しか見えないというような状況ではなかった。

 練習時間とコートのスケジュールを告知していたわけではないからかもしれないが、夕方に行なわれた実際の試合でも5000人を収容するセンターコートは埋まらなかった。もちろん、大坂でなければ平日にこれだけの人が集まらないことも確かなのだが……。

 記者会見で、「今朝食べたコンビニのおにぎりの具は何でしたか」とか「カツ丼は食べましたか」とか、毎回の「ファンに向けてのメッセージを日本語でお願いします」といったリクエストも出ない。

 好きなお好み焼きの具とか、家にたこ焼きプレートはあるかとか、知っている関西弁は? とか、そういった大阪色満載の質問のオンパレードを聞く覚悟はできていたので、ちょっと拍子抜けするくらいだ。

喧騒の中で決勝に進んだ1年前。

 全米オープン制覇直後の凱旋となった昨年のこの時期とは明らかに違う。意外に大阪の人々のほうが控えめなのか、なおみ人気もやや下火になったのか――。ただ、騒がれ方のレベルとか地域性とかファンの性質とかそういったものは、自分が感じるプレッシャーとは無関係だと大坂は言う。

 現に1年前はあの喧騒の中で、優勝はできなくとも決勝まで勝ち進んでみせた。

「プレッシャーはもちろんあります。でもそれは私自身のポジションからくるものであって、私がどこにいるかというロケーションの問題じゃない」

 こう話したのは、2回戦で世界ランク181位のビクトリヤ・トモバに7-5、6-3で勝利したあとだった。

コーチと別れただけで世界中が騒ぐ。

 ロケーションではなくポジション、とはうまいことを言う。

 この1年で大坂のポジションは随分変化した。1年前の大フィーバーぶりの頃は、まだ追われる立場の本当の怖さを知らなかった。

 全豪オープンでグランドスラム連覇を遂げ、世界1位になって初めて追われるだけのポジションに立つ重圧を味わった。コーチと別れただけで世界中が騒ぎ、飛び交う憶測にさらされる存在であることを思い知った。

 3月のインディアンウェルズで初めてディフェンディング・チャンピオンという立場を経験した。経験済みだからと自信を持って全米オープンに臨んだはずが、グランドスラムのディフェンディング・チャンピオンというプレッシャーはまた別物ということに気付かされた。

「いろいろな状況を経験して……」

「いろいろな状況を経験して、自分を慣れさせてきたと思う」

 おそらく、必要なときはバリアを張って自分を守ることも学んだのだろう。

 来日後初の記者会見が行なわれた日曜日、大坂はかなり不機嫌に見えた。コーチ解任とSNSでの恋人公開について質問が及ぶのはわかっていたことだが、淡白な受け答えに終始し、答えたくないことについては「パス1でお願いします」「そういう質問はこれまで何度も答えています」といった具合だ。時折作り笑顔は見せるものの<なおみ節>などどこへやらだった。

 本人いわく「時差ボケで今朝も3時に目が覚めてしまったので眠い」とのこと。「こんな感じでごめんなさい。でも私は皆さんのことが大好きです」と一応のリップサービスで締めたが、その後に行なった練習では、この大会のために白い幕で目隠しをしたコートの使用を希望し、ファンもメディアもシャットアウトした。

 あの日の状態では、大坂の代名詞にもなっている<ファンへの神対応>も無理だったから正しい選択だったに違いない。ちなみに、2回戦当日の練習と試合の後は、いつもと変わらぬ丁寧な対応ぶりだった。

「大阪で勝つのはなんかイイ」

 ジェットコースターのような1年あまりを、振り落とされまいとがんばってきた21歳は静かに語った。 

「私はもうナンバーワンでもないし、ここでタイトルをディフェンドする立場でもない。ただ、ここでどうしても勝ちたい。私が大阪で勝つっていうのはなんかイイんじゃないかなと思うし」

 生まれた町だから。名前も同じだから。

 そう解釈していいはずだが、初戦のテニスは<プレミア>にカテゴライズされるこの大会で優勝するレベルではなかった。立ち上がりが悪く、2度のブレークを許して0−3と一気にリードを許した。

 持ち味のパワーを発揮して逆転したが、試合を通してファーストサーブの確率が低く、おかしたダブルフォルトは6本。ウィナーも多いがミスも多いという粗いテニスだったが、ただこの相手に勝つには十分だったという内容だ。

「でも私はパワープレーヤーだから」

「立ち上がりはただちょっと調子が出なかっただけ。でも私はパワープレーヤーだから、試合の主導権を握るのは自分だという思いがあった。アンフォーストエラーの数を減らせば勝てるということはわかっていた」

 やるべきテニスはわかっている。ただこのままではいけない。

 準々決勝の相手は3連敗中のユリア・プティンセバと決まった。世界ランキング36位の小柄なプレーヤーだが、ガッツあふれるファイターで、しぶとい上に頭脳派で技巧派。

 まずはこの難敵を突破し、週末は多少ベタでも「大阪で大坂フィーバー!」と盛り上がるのがなんかイイんじゃないかと思うが、さて実現するだろうか。

文=山口奈緒美

photograph by Getty Images


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる

あわせて読む

主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索