“重圧”に勝ったラグビー日本代表。負けられない開幕戦で得た勝ち点5。

“重圧”に勝ったラグビー日本代表。負けられない開幕戦で得た勝ち点5。

 スタンドオフの田村優の言葉が、選手たちのメンタリティを分かりやすく言い表していた。

「格下ですし、5ポイントも取らなきゃいけないし、絶対に勝たなきゃいけないし。ホントに緊張というか……緊張しました」

 通算9度目にしてアジア初の開催となるラグビーワールドカップが、9月20日に開幕した。オープニングセレモニーに続いて行われた開幕戦で、日本はロシアと激突した。

 5カ国が総当たりで争うプール戦の対戦相手で、ロシアはワールドランキングがもっとも低い。20位は参加20か国のなかでも下位から3番目だ。

 欧州予選上位国の規定違反により、繰り上がりで出場権を得た国でもある。史上初のプール戦突破、すなわちベスト8入りをターゲットとする日本にとっては、絶対に負けられない相手だった。

欲しかったボーナスポイント。

 ランキング10位の日本が同1位のアイルランド、同7位のスコットランドを上回るためには、勝利による勝ち点4だけでなく、4トライ以上で得る勝ち点1のボーナスポイントも加えておきたい。南アフリカ、スコットランドと3勝1敗で並んだ4年前のプール戦では、ボーナスポイントの差で8強入りを逃している。

 勝利するだけでは物足りない一戦なのだ。

 さらに付け加えれば、自国開催のW杯である。舞台となった東京スタジアムは、4万5745人の観衆で埋め尽くされた。昨年11月のニュージーランド戦の観客数を上回った。赤と白のユニフォームカラーで埋め尽くされたスタンドの景色が、重圧としてのしかかってもおかしくない。

開始早々にミスから失点。

 果たして、ロシアのキックオフから日本は自陣深くに押し止められる。それも、自分たちのミスが折り重なっていくのだ。

 4分を過ぎてようやく敵陣へボールを蹴り出すことができたものの、すぐにハイパントを蹴り返されるとスタンドに悲鳴が駆け抜ける。フルバックのウィリアム・トゥポウがノックオンしてしまい、ロシアのウイングに拾い上げられて先制のトライを許してしまうのだ。ゴールも決められ、いきなり7点のビハインドを背負った。

「W杯を経験していないメンバーも、僕を含めて多くいたので、雰囲気に最初はチーム全体が飲まれてしまった」とは、開始早々にペナルティをおかしたナンバー8の姫野和樹である。スクラムハーフの流大も、「普段なら絶対にやらないようなミスが重なって、ロシアに先制トライまで持っていかれて。もちろん緊張もあって、固さもあったと思います」と振り返る。

 キャプテンでフランカーのリーチ マイケルや流らのリーダー陣は、「これがW杯、これが開幕戦だからミスがあることを受け入れて、もう1回次の仕事、目の前のプレーに集中していこう」とチーム全体を鼓舞していく。

松島の2トライ、リードして後半へ。

 試合は始まったばかりである。しかし、ビハインドを背負ったまま時計の針が進んでいけば、重圧が焦りへ変質しかねない。キックを巧みに使ってスペースを突いてくるロシアを、勢いに乗せてしまうことにもなる。

 11分に右ウイングの松島幸太朗がトライをあげるものの、田村はゴールを外してしまう。ハイパントのボール処理が安定せず、我慢の時間が続く。34分には松島が再び右隅へ飛び込むが、テレビジョンマッチオフィシャルでトライは認められない。

 前半の残り時間が2分を切ったところで、日本は素早いテンポのアタックを重ねてトライへ結びつける。最後はまたしても松島だ。右サイドからゴール中央まで持ち込み、田村がゴールを決めて12−7でロッカールームへ戻っていった。

戦術的な修正をしないジョセフHC。

 ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は、後半に向けて戦術的な修正をしていない。「やっていることは間違っていない。自分たちがやっていることを信じて続けていこう」と、選手たちを送り出した。前半の日本が技術的なミスを繰り返したのは、キックオフ早々の時間帯で浮足立ったことによる自信の揺らぎに理由がある。戦術ではなくメンタルの手当こそが重要だった。

後半開始早々の43分、田村がペナルティゴールを決めて15−7とする。さらに3分後、相手からボールを強奪したフランカーのピーター・ラブスカフニが、自陣から独走してトライをゲットする。田村のキックは失敗に終わるものの、背番号10は63分に貴重な追加点をもたらす。長い距離のペナルティゴールを成功させ、23−10とリードを広げた。

 ここまで3トライである。あとは、ボーナスポイント獲得につながる4トライ目を奪えるか。

経験豊富な堀江「初戦はこういうもの」

 68分、東京スタジアムが沸き立った。相手の苦し紛れのキックを保持すると、田村と交代したばかりの松田力也が中央から右へ持ち出し、パスを受けた松島が相手のディフェンス網を破ったのだ。松田のゴールも決まり、30−10とロシアを引き離す。この時点で、日本は勝利をほぼ確定させた。

 スコアだけを見れば快勝と言っていいが、試合内容は手放しで喜べるものではない。開幕戦特有のプレッシャーを差し引いても、「試合を通して単純なハンドリングエラーもありましたし、なかなかリズムに乗れなかったと思います」という流の肌触りは正鵠を射る。

 とはいえ、勝ち点5での勝利というノルマを達成したことで、チームが落ち着いた雰囲気に包まれていくのは間違いないだろう。

「初戦はこういうもの。いい勉強になったんじゃないですか。自分たちで流れを修正して30点取れたし」

 3度目のW杯となるフッカーの堀江翔太は、落ち着いた口調で試合をレビューした。

 姫野も「ホントにひと安心ですね。勝ったからこそ、いい経験になったと言えます」と、安堵の表情を浮かべた。自らが強みとするボールキャリーは、両チームを通じて最多を記録した。W杯初出場の25歳は、「最初にミスをしてメンタル的にかなりきましたが、逆に吹っ切れて思い切りやろう」と気持ちを立て直した。

「やっとラグビーができます」

 田村は「やっとラグビーができます」と話した。開催国としての戦いも、久しぶりだったナイトゲームも、これからは手探りでなくなる。「見えないものと戦ってきた」という日々は終わり、28日のアイルランド戦にはチャレンジャーのメンタリティで挑めるはずだ。

 もちろん、まだ1勝しただけだ。まだ何も手にしていない。

「アイルランド戦は難しい試合になる。つまり次のプレッシャーがやってくる。(どうやって対処できるかは)心のなかの問題です」

 ジョセフHCは表情を引き締める。トライを取り切り、相手に取らせないためのディテールを、どこまで突き詰められるか。戦術的なメンテナンスを万全にすることで、プレッシャーをはね返す準備が整っていく。

文=戸塚啓

photograph by Naoya Sanuki


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