金子達仁が見たラグビーW杯開幕戦。4年前とは自信の厚みが違った。

金子達仁が見たラグビーW杯開幕戦。4年前とは自信の厚みが違った。

 ガッカリした。

 実は結構期待していただけに、「なんだ、こんなもんかよ」と捨てぜりふの1つも吐きたくなった。いや、当事者としてはできる限りのことをやったんだろうな、ぐらいのことはわかる。ひょっとしたら、何らかの規制があって、本当はできることを披露できなかった可能性だってある。

 それにしたって、もうちょっと魅せてくれよ──ブルーインパルス。

 せっかくラグビーワールドカップの開幕を盛り上げるために白羽の矢が立ったのに、たとえばインディ500のスタート直前にアメリカ空軍が披露してくれるド迫力のパフォーマンスに比べれば、物足りないことこのうえなかった。アメリカ空軍はサーキットのすぐ上を「ゴーーッ!」なのに、ブルーインパルスははるか上空を「スーッ」。最近のわたしが体験した痛みにたとえるなら、尿管結石(嘔吐しながら救急車)と軽めの痛風(歩いて通院)ぐらいの差があった。

 あるいは、複雑骨折と突き指。

自国開催のW杯、2つのミッション。

 さて、わたしが思うに、今回のワールドカップに出場する日本代表の面々は、密接に関係した2つのミッションを己に課している。

 1つはもちろん、勝つこと。勝って、初の決勝トーナメント進出を果たすこと。

 もう1つは、日本におけるラグビー人気、ラグビー文化の礎を築くこと。

 ラグビーより一足早く地元でワールドカップを開催したサッカーは、決勝トーナメントに進出したことで揺らぎかけていた立場を一気に安定させた。それまで頻繁に聞かれた「サッカーは日本人に向いていない」といった声は、あの大会を境にほぼ絶滅した。

 だから、1つ目のミッションをクリアできれば、そのままミッション・コンプリートとなるのもありえないことではない。ないのだが、しかし、もし2つ目のミッションがクリアできないのであれば、1つ目のミッション・クリアの持つ意味はずいぶんと軽いものになってしまう。

 というか、2つ目のミッションがクリアできないようであれば、日本にとって今回のワールドカップは失敗である。

4年前とは立場が違う。

 4年前、南アフリカを倒して世界を驚かせた日本は、ほとんど誰からも期待されていないチームだった。勝って得るものは途方もなく大きく、しかし負けて失うものはほとんどない気楽な立場。余計なプレッシャーをより多く背負っていたのは、間違いなく南アフリカの側だった。

 だが、今回の日本は違う。南アフリカを倒し、プール戦で3勝をあげたことを知っているファンは、それ以上を要求する。2002年のサッカーファンの心情が「1つでもいいから勝ってほしい。内容はどうでもいいから勝ってほしい」だったとしたら、今回はだいぶハードルが上がってしまっている。

 すごかったんだろうな、選手たちが感じてたプレッシャー。

 そうでなくても平常心で臨むのが難しい大舞台の初戦を、日本の選手たちは優勝候補なみの重圧を背負って迎えてしまった。

 そりゃ、ハイパントの処理だってミスるわな。

ミスの原因は「全部です」

 試合後、「パント処理にミスが出た原因は風ですか? 照明? それともプレッシャー?」と問われたリーチ マイケル主将は「全部です」と答えた。おそらく、本音だとは思う。思うのだが、日本代表選手たるもの、この日の東京スタジアムに吹いていたより強い風のもとでプレーした経験はあるだろうし、もっと照明が目に入ってしまうスタジアムで戦ったことだってあるはずだ。

 だが、これほどの重圧のもとでプレーした経験は、なかった。

 それゆえに彼らは先制トライを許し、前半のかなり長い時間、追う展開を余儀なくされた。愚直に、そして頑強に立ちはだかるロシアの壁は、わたしの中にイヤな予感をかきたてるのに十分だった。

増していた自信の厚み。

 だから、驚いた。

 絶対に落とせない、勝たなければいけない、できることならば4トライ以上を奪ってボーナスポイントの上乗せを狙いたい初戦で、いきなり先制点を奪われた。それも、明らかな自分たちのミスから奪われた。

 普通だったら、狼狽する。えらいこっちゃと、パニックの衝動が突き上げてくる。

 なのに、彼らはうろたえなかった。固くなっていることははっきりとわかったが、それでも、自分たちを見失ってはいなかった。

 上がってしまったハードルも、悪いことばかりではなかったのだ。

 なぜ最高の結果が求められる試合で最悪のスタートを切ってしまったのに、日本代表は壊れなかったのか。

 自信の厚みが違ったから、ではなかったか。

 4年前に南アフリカを倒し、決勝トーナメント進出は逃したものの、3勝をあげた自信が、「こんなところで崩れるわけにはいかないし、崩れるはずもない」と選手たちを支えたのではなかったか。

はじめちょろちょろ、なかぱっぱ。

 ともあれ、これでまず1勝。

 ミッションのフィニッシュラインはまだはるか彼方ながら、それでも、昨日よりは一歩、目指す場所へと近づいた。28日に静岡で戦うアイルランドは超難敵だが、日本にとっての重圧は、もはや初めての経験ではなくなっている。

 背負うものは、きっと、ロシア戦より軽い。

 ちなみに、ブルーインパルスでガッカリさせてくれた大会組織委員会は、その後、息をのむほど見事なプロジェクション・マッピングを駆使したセレモニーを披露し、世界中から集まったメディアの度肝を抜いていた。

 はじめちょろちょろ、なかぱっぱ。

 どうやら、今大会はそんな展開になりそうな予感の走る、開会式とロシア戦だった。今夜は横浜で南アフリカ対ニュージーランドか。シビれるなあ。

文=金子達仁

photograph by Naoya Sanuki


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