30年経っても「タツノリ〜」と叫ぶ。巨人優勝が告げた、終わりと始まり。

30年経っても「タツノリ〜」と叫ぶ。巨人優勝が告げた、終わりと始まり。

「“ヘイセイ球史”開く元年セ界一」

 9月21日午後、関内行きの京浜東北線に揺られながら、30年前のスポーツニッポンを読んだ。当時、小学校に登校する前に駅の自販機で買ったものだ。

 1989年10月7日付紙面には、「歓喜の、涙の王者復活。10月6日、午後9時16分。127試合、81勝目で2年ぶり34度目の王座奪回」と書いてある。芸能面ではオートバックスイメージガールに選出された19歳のクニコちゃんが「好きな車は、日産のエスカルゴ。免許はまだないけど、誰かドライブに連れてってくれないかな〜」なんつって賞金50万円と副賞のパリ旅行を手にしてご機嫌なコメント。

 この年の12月29日、日経平均株価は3万8915円の最高値を記録。金満日本列島のバブルはピークを迎えつつあった。

 なお“縦横無尽スルメ野球”と称賛される一面掲載の故・藤田元司監督の胴上げ写真はカラーではなくモノクロである。裏一面では引退を決めた中畑清が惜別胴上げで男泣き。

 大洋打線を完封して胴上げ投手になったのは当時25歳の宮本和知で、優勝手記は打率.378の球団記録を作り平成初MVPに輝くクロマティ。それにしても、驚くのは一面に踊る『歓喜25号 原が決めた 巨人V』の見出しだ。

 30年後の令和元年でも、スポーツ新聞には「原巨人」の見出しが溢れている。選手でも監督でも時代を越え、プロ野球界のど真ん中を歩き続けた男。まさに時をかけるタツノリ。

 気が付けば、宮本もクロウも戻ってきた。役者は揃い、平成元年の優勝決定と同じ横浜スタジアムで、令和元年Vは決まるのだろうか?

令和の「原巨人」がハマスタへ乗り込む。

 前日の20日は午後にジャイアンツ球場で巨人三軍vs.BCL選抜の試合を観戦後、ハマスタのナイターへ移動。

 ゲーム差3で迎えた天王山だったが、首位巨人が今季最多タイの5本塁打で直接対決を制し、優勝マジック2に。9月アタマの6連敗で足踏み状態だったが、ついに5年ぶりの胴上げが秒読み段階に。

 前日は青く染まったDeNAファンと少数のG党が混在するカオスな雰囲気(通路で酔っ払い同士の言い合いも目撃)の三塁側内野席から観戦だったが、21日はスタジアム全体の風景を見たかったので取材パスを申請済みだ。

2014年Vの時はロペスや長野がいた。

 試合開始前にグラウンドに降りると、さすがに大勢の取材陣がすでにスタンバイ。打撃練習を見ていたら、黒いポロシャツ姿の長身の男性と目が合った。元巨人投手の小山雄輝さんだ。

 小山さんには4年前に自分のデビュー作収録のインタビューをさせてもらったことがある。久しぶりの挨拶がてらの雑談で、自然と話題は前回2014年Vの思い出話に。

「あの年もハマスタで優勝決定で、内海さんが先発して、村田さんとアンダーソンがホームラン打ったんですよね」

「いやー、翌日の先発ローテが自分の順番だったんで、ドキドキしながら見てましたよ」

「そうそう、優勝翌日が唐突に4番センター大田さんで、先発が小山さんで」

 いやー打たれちゃいましたけどねと懐かしそうに笑う小山さんは、楽天移籍後'18年限りで引退して今季から巨人球団職員を務めている。

 入れ替わりの激しい野球界で5年という時間は長い。今はDeNAの主軸を打つロペスもまだジャイアンツの一員だったし、優勝決定日のスタメンには長野久義や片岡治大の名前があり、もちろん4番キャッチャー阿部慎之助だ。あれから長い時間が経ったのである。

ゲン担ぎのシウマイ弁当を持って。

 さて、試合開始前に三塁側スタンドに上がる途中に並ぶベンチに腰掛け、関内駅で買ったシウマイ弁当を食べる。

 通路にはDeNAファン向けのクレーンゲームが設置され、家族連れが楽しそうに遊ぶ中、昨日もここで同じものを食べて巨人勝ったしさ……なんて野球ファン特有の「いやあんたがなに食おうとそれ別に勝敗に関係ないんじゃ」と突っ込みどころ満載のなんだかよく分からないゲン担ぎである。

 そう言えば、2014年の夜もシウマイ弁当食ったな。ハマスタと言えば、今も昔もシウマイの香りだ。

 17時プレイボール、巨人の先発はなんとプロ初登板のルーキー戸郷翔征である。1年前はまだ宮崎で高校生をやっていたドラフト6位右腕が、一軍のペナントを左右するビッグゲームに投げるわけだ。マジ19歳でそこに立っているだけで凄いよ……とマウンド上で躍動する背番号68に拍手を送る。

 戸郷は乙坂智に2ランを浴びたものの、150キロ超えの直球を連発する内容に底知れぬ将来性を感じさせた。試合は7回に1点を返した巨人が、9回2死走者なしから連続四球と小林誠司のライト前タイムリーで2対2の同点に追いつき、延長10回表に売り出し中の“'93年組”のひとり増田大輝が、センター前にしぶとく抜ける殊勲打を放ち勝ち越し。

原巨人らしい「育てながら勝つ」の実現。

 その光景を見ながら、最後まで2019年の原巨人らしいなと思った。

 優勝が懸かった大一番に年俸500万円のドラ6ルーキー戸郷が先発し、同じく年俸500万円の育成選手上がり増田がヒーローになる。丸佳浩や山口俊を始めとしたFAの大型補強ばかり話題になるが、その裏で二軍から多くの若手を抜擢したのも事実だ。

 さらにチームの土台を支えたのは高卒ドラ1遊撃手のキャプテン坂本勇人であり、同じく高卒ドラ1スラッガーで高橋由伸前監督が残してくれた4番・岡本和真である。随所で渋い働きを見せた37歳の亀井善行は'04年ドラフト4位で、ブルペンの救世主となったサウスポー中川皓太は'15年ドラフト7位。

 生え抜き主力組、補強組、外国人、そして叩き上げの多くの若手たち。それらを全員野球の絶妙なバランスで起用する原采配は、見事に「育てながら勝つ」という難題をクリアした。

本気で応援すると、もうひとつの人生になる。

 最終回は途中入団の助っ人クローザーがマウンドに上がる。ちなみにスポーツ報知の今季ベストの見出しはデラロサの好投を評した『デラ絶品』だと思う。この年俸3000万円のドミニカンも殊勲者のひとりだ。

 開幕から半年間、勝ったり負けたり喜んだり悲しんだりしながら、あれだけドキドキして追いかけてきたのに、不思議なことにいざ5年ぶりのVを目の前にすると「あぁ優勝するんだな」とか「帰りに記念グッズ買わなきゃな」なんて妙に冷静な自分もいた。

 最後はデラ絶品な三者連続三振締め。三塁側ベンチから選手が飛び出し、レフトスタンド、内野席の巨人ファンが一斉に立ち上がりガッツポーズをかまし、言葉にならない祝福の言葉を絶叫し、スマホを構え撮影して、原監督の胴上げが始まる。

 プロ野球の最大の魅力は贔屓のチームが勝てばまるで自分が勝ったように嬉しいし、悲惨な負け方をすればまるで自分がボロ負けしたような感覚に襲われることだと思う。

 年間143試合の長い時間を共有し、親や兄弟でもないのに、なぜかアイツは俺で、俺はアイツ状態。プロ野球でもアイドルでも大げさに言えば、何かを本気で応援する行為は、もうひとつの人生を生きるということだ。

この優勝でやっと2次政権が終わったのだ。

 舞い散る無数のオレンジ色の紙テープ。その久しぶりすぎる光景に鳥肌が立つように体の奥底からジワジワと喜びがこみあげてくる。

 あぁ良かった、本当に良かった。横浜の夜空で8度宙に舞う背番号83に精一杯の拍手を送る。優勝監督インタビューが始まると、オーロラビジョンに表情が映し出され現地でも原監督が泣いているのにようやく気が付いた。

「非常に新鮮ですね。歳を取るとちょっと涙腺が弱くなるのかもしれませんね。レフトスタンド! ファンの皆様ありがとうございました!」

 思わず、こっちも「タツノリ〜!」なんつって絶叫だ。そう言えば、30年前の平成元年のV決定試合も原辰徳のホームランにテレビの前で同じように叫んでいたなと思い出しながら。そして、30年後も歳を取った俺らは今夜のハマスタの出来事を懐かしく語り合うのだろう。

 このコラムを書き終えた9月24日明け方、スポーツ新聞各紙の一面で『阿部慎之助 引退』が報じられた。2019年シーズンの5年ぶりの優勝は「第3次原政権の始まり」と同時に、阿部のチームと言われた「第2次原政権の終わり」だったのではないだろうか。

 そう令和元年の巨人優勝は、ひとつの時代の終わりと始まりを意味していたのである。

 See you baseball freak……

文=中溝康隆

photograph by Yasutaka Nakamizo


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