内山靖崇、17歳の挫折から10年後。錦織圭や盛田名誉顧問も称える根性。

内山靖崇、17歳の挫折から10年後。錦織圭や盛田名誉顧問も称える根性。

 東京オリンピックのためにリニューアルした会場のこけら落としとなる楽天オープンの高揚感は、錦織圭の欠場の発表で一気に萎んだ。しかし今、錦織不在というこの厳しい状況で期待しうる最高レベルの盛り上がりをキープしている。

 全米オープンを左肩のケガで途中棄権したノバク・ジョコビッチが、欠場の噂を吹き消して予定通り来日し、順調に勝ち進んでいることは最大の要因に違いない。しかしそれだけではない。この盛り上がりを周辺から支えたのは日本選手の活躍だった。

 26歳のダニエル太郎と27歳の内山靖崇、同学年のふたりが揃って準々決勝に駒を進めた。この大会で日本選手が2人ベスト8入りしたのは、まだ非公式戦だった1972年以来の快挙。それを、錦織抜きでやってのけたことが驚きだ。

ワイルドカードの幸運を生かした。

 127位のダニエルと136位の内山。今の立ち位置はほぼ同じだが、ツアー優勝経験があり、昨夏64位までランキングを上げたダニエルに対し、内山は今が自己最高位という上り坂にいる。

 ダニエルが本戦のワイルドカードを得て、内山が得たのは予選のワイルドカードだった。この差は、たった9つのランキングの差というよりは過去の実績の差だったと考えられる。

 しかも、もともと内山は予選のワイルドカードさえもらえておらず、本戦に欠場者が出たことによって、本戦のワイルドカードだった西岡良仁がワイルドカードなしで滑り込み、空いたワイルドカードの枠に予選ワイルドカードの添田豪が繰り上がり、余った予選ワイルドカードが内山に与えられたのだ。

 この運を生かし、予選を突破したばかりでなく本戦でも快進撃を見せた内山には、偶然ではない根性めいたものを感じる。その根性の源を探ろうとすると、ここまでに費やした長い年月とジュニア時代に早くも味わった<挫折>のことを思わずにいられない。

IMGで挫折を味わった17歳の出来事。

 錦織や西岡を輩出し、今年のウィンブルドン・ジュニアで優勝した望月慎太郎が現在籍を置くフロリダのIMGアカデミーは内山が中学1年から4年間を過ごした場所でもある。

 内山も彼らと同じ盛田正明テニスファンドの支援を受けた1人だった。ただ、錦織や西岡と違ってプロになるまでそこに居続けることが許されなかった。支援の継続のために毎年厳しいノルマが課される中、留学5年目をかけた条件をクリアできなかったからだ。

 帰国したのは17歳のとき。その後、日本で開催された大会に出場していた内山が、「日本のほうがお菓子とかおいしいし、カップ麺とかスナックを好きなだけ食べられるので、帰って来てよかった」と言っていたのを覚えている。

 言葉通りに受け取ってそんな程度かと残念に感じたものだが、あれは悔しさの裏返し、17歳の精一杯の強がりだったのかもしれない。行き場を失い、モチベーションを失っていた当時の内山の様子は、あとで周囲の関係者たちから聞いた。それを酌めずに申し訳なかった。

内山の才能を信じた増田コーチ。

 そんな内山を預かり、今まで10年近くの間ずっとコーチをしてきたのが、元全日本チャンピオンでもあり、当時はナショナルコーチを務めていた増田健太郎だ。

 内山のキャリアは増田コーチの存在――内山の才能を信じ続けた愛情と辛抱強さなしには語れないだろう。

 そこに先週からもう1人のコーチとして元日本のエース鈴木貴男が加わった。内山は「自分の強みである攻撃的なテニスの質をもっと上げていくことが、これからトップ100を目指す中で必要。そのためのネットプレーやサービス、スライスなど技術的な部分を貴男さんから学びたいと思いました」と説明した。

 現役時代、増田はベースラインでのしぶといラリー戦を得意とするストローカーだった。一方の鈴木はサーブ・アンド・ボレーを軸とし、チップ・アンド・チャージで常に前に出ていくネットプレーヤーだ。鈴木は言う。

「ベースの部分は、プロとしての心構えのようなものも含めて、健太郎さんが長い時間をかけて全て作ってきてくれていた。僕は役割を明確に与えられたので、こんなに楽なことはないですよ(笑)。自分が得意な部分で、ちょっとしたコツとかヒントを伝えてきました」

年内100位という目標も現実的。

 コーチングというのは不思議なもので、何を言われるかではなく、誰に言われるか、なのだ。鈴木は同じ札幌出身で、自分のことを子供の頃から目にかけてくれていた大先輩。もちろんそのプレースタイルやキャリアを内山はよく知っている。そんな鈴木の言葉には説得力があった。それを確信し、もっともいい時期を迎えた内山を5つ年下の鈴木に託した増田の決断に、ここまでともに積み重ねてきた時間の重さを感じる。

 今シーズンの内山は年初のブリスベンでベスト8入りし、ウィンブルドンで予選を突破。予選に挑戦すること15回目で初めてつかんだグランドスラム本戦の切符だった。これまでも何度か飛躍を予感させたことはあるが、最近の手応えはちょっと違うという。

「今年ははっきりとした結果が出ているので、自信もついてきましたし、トップ150に入れて年内100位という目標も現実的なものとして見えてきた」

VIP席の最前列には盛田氏の姿が。

 もし内山がトップ100入りを果たせば、盛田ファンド生の男子としては錦織、西岡に次いで3人目。途中帰国組の中では初めてとなる。

 内山の試合のときはいつも、VIP席の最前列に盛田正明さんの姿があった。その才能が最大に発揮される日を待ち望む人は少なくない。ウィンブルドンで予選突破したとき、錦織は「今回、それが一番うれしい出来事だったかもしれない」と自分のことのように喜んだ。

 最後に、少し他の日本選手にも話を広げたい。先月35歳になった添田も、今大会の前半戦を盛り上げた功労者の1人といって間違いない。

 1回戦で37位のヤンレナード・シュトルフに対して番狂わせを演じ、2回戦でジョコビッチには敗れたものの、終盤では質の高いラリー戦を繰り広げた。その添田も、自己最高の47位をマークしたのは27歳のときだった。

「19歳や20歳のときにうまくいかなくても、あきらめないでがんばってほしい」とジュニア世代にメッセージを送る。

西岡、ダニエルの進境も著しい。

 また、170cmという小柄な体格ゆえに「世界で通用するはずがない」と言われ続けていた西岡は、今やトップ50入り目前だ。

 スペインのクレー育ちのダニエルは、数年前までいかにもという粘り勝負のストローカーで、ベースラインのはるか後方から打ち合うテニスを「クレー以外で通用しない」と言ったコーチは何人もいる。しかし最近では、粘り強さを維持しつつ、決して後方に下がらない速いテンポのストロークが印象的だ。

 皆それぞれ課題点を改善、あるいは克服、あるいは持ち味にし、このステージを戦っている。こうした日本勢の今回の活躍について、ダニエルは偶然ではないと言いきった。

「それぞれのベースの力が上がってきているし、互いに刺激し合えるライバルで、友達でもある。そういう部分でのいい効果もあると思います」

 錦織のいないこの大会で、思いがけず味わい深いものをじっくり見せてもらった。

文=山口奈緒美

photograph by Hiromasa Mano


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる

あわせて読む

主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索