寡黙な男SANADAの静かなる野望。「ライバル」オカダのIWGPに挑む。

寡黙な男SANADAの静かなる野望。「ライバル」オカダのIWGPに挑む。

「みなさんそろそろ、SANADAが中心の新日本を見てみたいと思っていませんか?」

 SANADAは10月7日、後楽園ホールのリング上からファンに問いかけた。

 現在、新日本プロレスの象徴であるIWGPヘビー級王者はオカダ・カズチカだ。そのオカダにSANADAは10月14日、両国国技館で挑戦する。今年、2度目の同王座挑戦で、シングルマッチでは今年4度目の対戦になる。

「今、新日本の希望って、オカダじゃないし、棚橋でもないし、内藤でもない。ましてや飯伏、EVILでもない。これからはオレが新日本プロレス、いや、プロレス界の希望になって、引っ張っていく」

SANADAが狙うベルトは、あの1本のみ!

 少し前の話だ――私は大阪のとある小さなバーのドアを押した。店はにぎわっていたが、カウンターに座っていたある1人の男に目が行った。その男の周りだけ、その独特の容貌と対照的に、妙な静けさを感じさせたのだ。SANADAだった。SANADAは眼で私に挨拶をかわすと、ウィスキーのグラスをゆっくりと口元に運んだ。

 SANADAはマイクを握ることすら避けてきたような男だった。SANADAがマイクを手にして、一言しゃべっただけでファンが驚いてどよめくこともあった。そんな寡黙だった男が、今では堂々とここまで言うようになった。

 SANADAが新日本プロレスに参戦してきたのは2016年4月だ。オカダとの初対決は同年5月の福岡だったが、オカダに翻弄された。それから3年半、SANADAは自分の立ち位置を確認するように着実に歩みを進めて来た。その成長ぶりはファンもしっかりと感じ取っていた。

 SANADAはタッグではEVILと組んでIWGPタッグ王座を2度手にしたし、ワールドタッグリーグも2連覇しているが、シングルのベルトはまだ巻いていない。

「ベルトは欲しい」

 でもSANADAが狙うのは「あのベルトだけが輝いて見えた」というIWGPヘビー級のベルトだけだ。

 内藤哲也や飯伏幸太やジェイ・ホワイトら複数のレスラーが、インターコンチネンタルだの「2冠」だのと騒いでいるけれどもSANADAはその騒音の中には入って行かないし、行く意思もない。

 IWGPヘビー級王座という1つの輝きだけにひかれているからだ。その気持ちがブレることはない。狙うのはIWGP一本だけだ。

同じ学年にあたる2人はライバル。

 SANADAとオカダは今年、すでにシングルマッチで3度戦っている。対戦成績はSANADAの1勝2敗だ。だが、通算では7戦して1勝6敗と大きく負け越している。だが、オカダはSANADAを評価して「同級生」とか「ライバル」とか呼ぶようになった。

 SANADAは1988年1月のいわゆる早生まれ、オカダは1987年11月生まれだから、学年で見れば一緒である。プロレスラーとしてのキャリアはオカダ15年、SANADAは12年。

 31歳という年齢はプロレスラーとして一番いい時かもしれない。この年齢で同じ歳のオカダとやり合えることに、SANADAはある種の幸福感を抱いている。

 もっと成長できる可能性は十分にあるし、成長できるように努力するだろう。だが、SANADA自身もそうだが、オカダにとっても、その「今」という時間は逃したら永遠に戻って来ないからだ。だから、この時間を大切にしたいと思っている。

5月の福岡から始まったライバル物語。

 SANADAは今年3月24日、長岡でのニュージャパンカップ決勝でオカダと対戦した。好勝負だったが、SANADAはオカダに敗れて、優勝を逃した。

 だが、当時、無冠だったオカダは4月にニューヨークのMSGでIWGP王者になったら、SANADAとIWGPをかけて戦うことを試合直後に宣言した。「同級生対決」を最初に口にしたのはオカダの方だった。

「同世代で勢いがあるタイミングだからこそ、熱いうちにやっといた方がいいんじゃないかな」

 その約束通りオカダはIWGP王者に返り咲いて、5月4日に福岡でSANADAの挑戦を受けた。SANADAは38分を戦いIWGPベルトに接近はしたが、オカダの牙城を崩すことはできなかった。

「ライバルってやっぱり同世代なのかなと思っていた中で、調印式の時に、SANADAさんに『ライバルだ』って言ってもらって、オレ自身もそこがグッときた。あんなクールな人にそうやって言われることによって、オレもなんだかんだSANADAさんとの試合を望んでいるし、楽しがっているし、それがある意味ライバルなんじゃないかと思いました。

 これで対戦成績としては6勝0敗かもしれないですけど、今日から始まったと思っていますし、過去の戦績はなしでいいんじゃないかと。1勝0敗で、またここから始まっていくんじゃないかと思います」(オカダ、5月4日)

 新しいライバル物語はオカダ流には5月の福岡でスタートしたことになる。

「ライバル、初勝利おめでとう」

 SANADAは8月3日、大阪でついにオカダを破った。初勝利。これで1勝6敗。G1クライマックスの公式戦でSANADAはすでに優勝戦線からは退いていたが、オカダ戦は特別だった。手の内を知り尽くした感のある攻防だったが、30分の時間切れ寸前、SANADAはムーンサルト2連発でオカダを押さえこんだ。

「ライバル、初勝利おめでとう。一番負けたくない相手に負けたな。でもライバルが勝ったことによって、オレとSANADAさんの物語は、楽しくなってくるでしょうね」

 オカダはSANADAにこんなメッセージを送った。

 試合の駆け引きはこれまでの対戦と、連日の前哨戦で互いに研究を重ねている。オカダのラリアット「レインメーカー」もSANADAの胴絞めドラゴンスリーパー「Skull End」もそう簡単には決まらないだろう。

 夜のバーのカウンターで静かにウィスキーのグラスを手にしているSANADAの姿は決まっているというか、格好がいい。それと同じように、SANADAがリング上でIWGPヘビー級のベルトを巻いた姿はもっと格好いいんだろうな、と思ってしまう。

文=原悦生

photograph by Essei Hara


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