鎌田大地の才能に地元ファンも注目。フランクフルトでの変身ぶりとは。

鎌田大地の才能に地元ファンも注目。フランクフルトでの変身ぶりとは。

 フランクフルトは天気の悪い日が増えてきました。10月に入ってからは気温も一桁台が続いていて、街の方々も冬仕様の服装が目立ちます。木々はまだ紅葉していないのですが、一気に秋が通り過ぎていったような感じです。

 そう言えば、最近僕の住むアパートメントの大家さんを見かけないなと思っていたら、1カ月くらいバカンスに行っていたようです。

「あら? 言ったじゃない。長期で旅行するって。それよりも、この前アイントラハトの試合を観ていたら、ヤパーナー(日本人)がひとり増えているじゃない。男前のマコトと、もうひとりマコトより若そうだけど、なんだかスポーツが苦手そうな痩せっぽちの子よ。あの子、ちゃんとご飯食べているのかしら?」

「あぁ、その選手は鎌田大地という若者です。テレビ越しだとひ弱に見えますが、身長は180cmあるんですよ。体重も72kgなので、それなりかと」

「180cmなんて、ドイツなら女の子でもいっぱいいるわよ。あなた、今度彼に会ったら『ちゃんとご飯食べなさい』って伝えておいて」

セリエAへの移籍話もあったが。

 大家さんに心配された鎌田ですが、今シーズンの彼には躍進の匂いが漂っています。今の鎌田は、間違いなくアイントラハトの中心選手として捉えられています。

 昨季はレンタル先のシント・トロイデンで公式戦16ゴール9アシストをマーク。実績を積み上げ、所属クラブへカムバックしました。ただ、今季始動からプレキャンプまではアドル・ヒュッター監督からの評価が依然として高まらず、セリエA・ジェノアへの移籍などが取り沙汰されていました。

 本人もカルチョの国で奮起するつもりだったようですが、アイントラハトには幾つかの不確定要素がありました。それは昨季、猛威を振るったルカ・ヨビッチ、セバスチャン・アレ、アンテ・レビッチという“マジカル・トライアングル”が相次いで移籍してしまうかもしれなかったからです。

ヨビッチらが去って白羽の矢が。

 7月2日、まずヨビッチがレアル・マドリーへ完全移籍しました。ヨビッチに関してはかねてから多くのビッグクラブが獲得を所望していたため、クラブも早々にベンフィカ相手に買取オプションを行使し、レンタルから正式契約へ切り替えたうえでレアルへ売却と、筋書き通りでした。

 そして、7月17日にはアレがウェストハムへ完全移籍。こちらも4000万ユーロというビッグディールで、アイントラハトは御の字。ただ、アレはゴールゲッターとしてだけでなく攻撃起点となるターゲットマンとしても非常に効いていたので、チームとしては戦術、戦略プランの再考を迫られることにもなりました。

 攻撃の柱を一気に2人も失ったアイントラハトは、選手を補充しなければなりません。他クラブの人材を含め様々なセレクションがされたはずです。そこで白羽の矢を立てたのが……、ダイチ・カマダだったのではないでしょうか。

トップ下のファーストチョイスに。

 今季、アイントラハトはヨーロッパリーグの2次予選から出場したため、他のブンデスリーガクラブよりもかなり早い始動になり、序盤から多くのゲームが組まれていました。ただ、鎌田にはこのスケジュールが好作用を及ぼしたように思います。

 シーズン初の公式戦となったヨーロッパリーグ2次予選第1戦のフローラ・タリン(エストニア)戦で、鎌田はミヤト・ガチノビッチに代わり64分から途中出場しています。ちなみに、このときの鎌田の背番号は40でした(現在は15番)。

 続くフローラ・タリンとの第2戦ではスタメンフル出場。そして、同3次予選のファドゥーツ(リヒテンシュタイン)戦は再び先発して73分で交代。さらに、国内カップ戦のDFBポーカル1回戦のマンハイム戦では先発出場したうえにアイントラハトでの初ゴールをマークし、チームの逆転勝利に大きく貢献しました。

 ブンデスリーガが開幕してからの鎌田は、ここまで主力としてプレーし続けています。それは、レビッチがローンでミランへ移籍し、トレードの形でFWアンドレ・シウバがチームに加わり、スポルティングからFWバス・ドストが加入しても変わっていません。

 ヒュッター監督が鎌田に託したポジションは3-4-1-2のトップ下。昨季はアレを頂点にヨビッチとレビッチを含めた3トップ、あるいはアレとヨビッチの2トップにレビッチをセカンドストライカー的に配する攻撃陣形を築いていましたが、今季は明確にトップ下のポジションが存在しています。

 シーズン開始当初はここにガチノビッチを起用する気配が感じられましたが、現時点では鎌田が同ポジションのファーストチョイスとして君臨し、ヒュッター監督もその有効性を認識しているようです。

突如ゴールを強奪するスタイル。

 僕は、シント・トロイデンでの鎌田のプレーをこの目で観たことがあります。シント・トロイデンのシステムもアイントラハトと同様3-4-1-2でしたが、トップ下にはロマン・ベズスというウクライナ人のプレーメーカーがいました。

 そのため、鎌田はヨアン・ボリと2トップを組んでいました。ボリは快足を駆使したカウンターアクションに秀でる選手で、鎌田はその後方に控えつつ、突如フィニッシュシーンに飛び込んでゴールを強奪するようなプレーを得意としていました。

 ちなみに当時のチームメイトである関根貴大(浦和)は鎌田のプレースタイルについて、
「試合中はほとんど姿が見えないけど、美味しいところに現れて、颯爽とゴールする」と表現していました。

フィニッシュに関与する頻度が多い。

 一方、アイントラハトにおける鎌田のプレーは以前とかなり異なります。ボールタッチは頻繁で、常に味方からボールを受けようとフリーランニングし、パスを受けたら巧みなターンやスラロームチックなドリブルで局面打開を図ろうとしています。

 ブンデスリーガの局面強度は強烈で、鎌田は何度も激しいチャージに遭ってはピッチへ倒れ込みます。しかし、その卓越したスキルで相手のファウルを誘発してFKを得ることも多いです。

 シント・トロイデンでのプレーを思い出させるのは相手のゴール前で、積極果敢な仕掛けを好むチームメイトが多いなか、鎌田はフィニッシュシーンに関わることに注力するため、あえてボールサイドへ寄らずブラインドエリアで構える所作が目立ちます。

 そして実際、鎌田がフィニッシュシーンに関与する頻度は大変多いです。まるで忍者のように気配を殺して相手の急所を突く! そんなシーンが何度も訪れるのですが、何故かシュートが入らない……。相手GKの好セーブに阻まれたり、相手の守備者のブロックに防御されたり、バーを直撃したり、ポストの真芯に当たって跳ね返ったり……。なんだか呪いにかけられているかのようです。

 鎌田自身も「これだけゴールできないのは初めて」と語っていて、少々気にしている様子。またヒュッター監督も「もちろんリーグ戦で1ゴールでも決まれば、カマダにとって大きなターニングポイントになるだろう。それこそ彼のプレーにまだ足りないものだ」と評していますが、指揮官はそれでも鎌田に対する信頼の度合いを変えていません。

「彼はチームに好影響をもたらしている。1点を挙げることで、その結び目が解ければ、最高なことだと思うよ」

「良い選手を獲ったね!」って……。

 知り合いのアイントラハトサポーターに鎌田の印象を聞いてみました。

「彼のプレーを観た瞬間ものすごいタレント性を感じたよ! ベルギーから来たんだろ? アイントラハトも良い選手を獲ったよね!」

 いや、鎌田は2017年6月にサガン鳥栖からアイントラハトに移り、続いてベルギーへ修業に行っていたんですけどね。

 まあ、小さいことは気にしません。確かに、アイントラハトのホームであるコンメルツバンク・アレナで鎌田がボールを持つと「ウォー」といった歓声が起こるようになり、相手からファウルされてFKを得たりすると万雷の拍手が送られるようになってきました。

 ただし、アイントラハトサポーターは鎌田のプレーに少しだけ不満もあるようです。

「なにか遠慮がちなんだよね。『お先にどうぞ』『あとはよろしく』みたいな感じ」

 この表現は言い得て妙な気がします。確かにシーズン序盤の鎌田は遠慮がちなプレーが目立っていました。アイントラハトには良い意味で自己主張の強い選手がいて、そのなかで自己の個性をどう落とし込むか、鎌田自身も熟慮していたのかもしれません。

主審に主張し、FKも「俺が蹴る!」。

 でも、心配は無用。最近の鎌田の振る舞いには明らかに変化の兆しが見られるからです。以前は相手に倒されてもすくっと立ち上がって何事もなかったようにプレーを再開していたのですが、今は結構主審に文句を言っています。「おい! 今のファウルだろ!」と。読唇術で映像越しに観ると日本語で言っているので、通じているかは分かりませんけども。

 ブンデスリーガ第7節のブレーメン戦では興味深いことがありました。アイントラハトのプレスキッカーは左利きのフィリップ・コスティッチと右利きの鎌田が担っています。ちなみにコスティッチは左サイドMFを務めるゴリゴリのドリブラーでありながら、FKやCKでも「俺が蹴る!」とばかりに率先してスポットに立つ、良い意味で強い責任感を醸す選手です。

 後半途中に得たアイントラハトの右CK。この場合、チームはインスイングになる右利きの鎌田がキッカーを担うのですが、そこにコスティッチが出張ってきて「お前はショートコーナーっぽく、脇で控えていろ」みたいな仕草を見せました。

 しかし、鎌田はそれを完全無視。平然とCKを蹴ったら相手クリアを受けたMFセバスティアン・ローデが強烈な右足シュートを突き刺し満願成就。鎌田が蹴ったセットプレーからの今季初得点です。鎌田は一目散にローデの元へ駆け寄って飛びつき、その喜びを爆発させていました。

 今の鎌田は物怖じせず、しっかりと自己主張しています。普段から飄々としていて唯我独尊の趣があり、その地の姿が良い形でピッチ上に表れているのかもしれません。

ドーピング検査後に取材を快諾。

 ブレーメン戦を2-2のドローで終えた直後、鎌田が足早にミックスゾーンを通り過ぎていきます。

「すみません。ドーピング(検査の対象)なんです」

 ドーピング検査は試合後すぐに隔離される形で実施されます。寄り道してはいけません。そして、尿が出るまでは拘束が解かれません。サッカー選手は試合中大量に飲水しますが、同時に多量の発汗もします。なので、試合終了直後はトイレに行っても尿が出ないことが多いと聞きます。

 取材できれば良かったのですが、すでに試合終了から1時間が過ぎてしまいました。「これは諦めるしかない」と、トボトボ帰路につこうと記者控室から地上に上がる階段を登りかけたとき、後ろから誰かに声を掛けられました。

「まだいましたか? インタビュー今からでも良ければどうぞ」

 鎌田選手、ドーピング検査が終わった後、わざわざ僕らメディアを探しに来てくれました。質問を受けた彼は、「明日の便で日本へ帰ります」と言い、森保一監督率いる日本代表へ合流すべく、その場を颯爽と去っていきました。

 その後姿は静かながら高潔な気概に満ち溢れ、僕はそんな彼を逞しく、頼もしいと思いました。

文=島崎英純

photograph by Uniphoto Press


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