盟主の座をかけた巨人vs.ホークス。見所は非情采配“鬼監督”の激突。

盟主の座をかけた巨人vs.ホークス。見所は非情采配“鬼監督”の激突。

「工藤はいい監督になる」

 1年前の昨年11月のことだった。

 日米野球の解説で東京ドームを訪れた巨人・原辰徳監督がソフトバンクと広島の日本シリーズを振り返って、ソフトバンク・工藤公康監督のある采配を評価していたのを覚えている。

 その場面とは日本一を決めた第6戦、両軍無得点で迎えた4回無死一、二塁だった。この試合までシリーズ5戦に先発して15打数2安打と不振にあえぐベテランの内川聖一内野手が打席に入ると、工藤監督は躊躇なく送りバントのサインを出した。

 そのサインを内川が忠実に実行して作った1死二、三塁。打席の西田哲朗内野手の初球ファウルを見て、すぐさまサインを切り替えた。

 スクイズだった。

ベンチ主導で得点機を作り出す。

 そうして広島先発のクリス・ジョンソン投手から西田が一塁線に転がし、三塁から柳田悠岐外野手が生還して先制点をもぎ取った。

 この1点と5回のジュリスベル・グラシアル内野手のソロ本塁打による2点を、先発のリック・バンデンハーク投手から4投手の継投で守り抜いてソフトバンクは頂点に立った。

「先発の両投手の出来を見て、そう簡単には点が取れないと判断したから、ベンチワークで点を取りにいったということだね。内川の送りバントも、彼くらいのベテランだったら右打ちをするとか最低限の仕事は分かっていてそれをやってくれるという期待はある。でもベンチ主導で動かして確実に1死二、三塁という状況を作り出して、最後はスクイズ。見事ですよ」

監督は鬼にならなければならない。

 そして原監督はこう言った。

「監督というのはあるときには鬼にならなければならない。そういう局面というのが必ずある。そこで鬼になれる工藤は、いい監督になると思うよ」

 それから1年。ペナントレースは2位に甘んじたが短期決戦でこそ、その采配力を発揮できる鬼の工藤がそこにはいた。

 西武とのパ・リーグのクライマックスシリーズ(CS)ファイナルステージ第1戦で、工藤監督は今度は内川に代打を送った。

 場面は1点を追う8回2死一、三塁。マウンドは西武の4番手・平良海馬投手だった。

 ただ去年の送りバントと違うとすれば、内川は決して当たっていなかったわけではない。ファーストステージでは第3戦の決勝本塁打を含む2本塁打を放っている。何よりCS通算51安打、10本塁打の30打点はいずれも最多記録である。要は短期決戦での勝負強さはまだまだ健在なはずだった。

「後悔のないように、思い切って」

 だがこの日の3打席の凡退内容が、指揮官の決断スイッチを押した。

「タイミングが合っていないように見えた」

 即断即決。代打に長谷川勇也外野手を指名し、その長谷川が平良の真っすぐに詰まりながらも左前に落として同点から逆転への流れを作った。

「後悔のないように、思い切っていかせてもらいました」

 試合後の工藤監督だ。

 この内川への代打だけではない。今季30本塁打を放ち、何よりムードメーカーとしての働きが大きいベテラン・松田宣浩内野手を不振とみれば、ファーストステージですぐさま先発から外した。逆に同ステージの第3戦で先発を外し、このファイナル初戦でも全く使わなかった中村晃外野手を、今度は第2戦で先発に抜擢。その中村の2ランなど3打点の活躍で連勝して、ファイナルステージ下克上への電車道を一気に突き進んだ。

プロ野球の世界図を決める戦い。

 監督の仕事が決断だとすれば、批判を恐れずに思い切った起用と作戦を工藤監督は断行できている。1年前に原監督が評したように「いい監督」への道をしっかりと歩んでいるという事になる。

 1980年代から90年代にかけて死闘を演じた西武とのGLシリーズも魅力があったが、“球界の盟主”を争うソフトバンクと巨人が激突するシリーズは、ある意味、いまのプロ野球の世界図を決める戦いとなる。

過去の成績は巨人の9勝1敗。

 ジャイアンツとホークスが激突するシリーズは過去10回。

 そのうち9回は“盟主”のジャイアンツが制して日本一となり、直近では2000年に長嶋茂雄監督率いるジャイアンツと王貞治監督率いるホークスが激突したミレニアム決戦での勝利もあった。

 ただ、あのときはまだ、ホークスの親会社はダイエーだった。

 ホークスが孫正義社長率いるソフトバンクに買収されたのは2004年オフ。そこから15年、金と人を惜しみなくつぎ込みリーグ優勝5回、昨年は5度目の頂点まで上り詰めて、チームは実質的には球界ナンバー1のポジションを築き上げたと言えるだろう。

 だからあとは伝統の巨人をねじ伏せ、名実ともに“盟主”の座を確立するためのシリーズであるはずだ。

 そしてかつては金満をほしいままにしてきたものの、いまや「ソフトバンクが出てきたから仕方ない」と資金力でも尻尾を巻き、5年間も日本シリーズの舞台にすら登れなかった巨人にとっては、それでも“盟主”の伝統とプライドを守り通せるかのシリーズであるはずだ。

坂本に何のためらいもなく送りバントのサイン。

 その巨人にも鬼はいる。

 阪神とのセ・リーグCSファイナルステージ第3戦。1点を先行された3回無死一、二塁で原監督は2番・坂本勇人内野手に、何のためらいもなく送りバントのサインを出した。結果的には坂本がバントを失敗して、この策は実らなかったが、鬼となり徹底した勝つための野球で選手を動かす。

 日本シリーズ進出を決めた第4戦では、同点の6回無死二塁から亀井善行外野手が2度の送りバントを失敗してもスリーバントのサインを出し切った。亀井がそれを決めて走者を進めると、2死から3番・丸佳浩外野手のまさかのセーフティースクイズで決勝点を奪った。

「(三塁手の)大山(悠輔内野手)が少し下がっているのが見えた。大山に捕らせるバントをすれば確実に安打になると思ってトライした」

 こう振り返った丸だが、打球はマウンドを駆け下りた西勇輝投手が捕った。しかし体勢が崩れて送球が逸れてセーフになる間に、三塁走者の山本泰寛内野手がホームを駆け抜けた。

戦力的には両チームはほぼ互角。

「ベンチもびっくりしたし、全員の勝とうという気持ちが集約されていた」

 CS突破を決めた試合後のインタビューで原監督はこう自信の表情を見せた。送りバントあり、重盗ありと多彩なベンチワークで勝利への道を切り開いてきた原采配だが、もう一つ、勝つためにノーサインで選手がこうしたプレーをできる。そのことが今年の巨人復活の理由でもある。

 戦力的には両チームはほぼ互角だろう。

 巨人はエース・菅野智之投手の登板が黄信号で、投げられるとしても万全でない分、先発投手陣に不安を抱える。ただ、打線は中軸が当たっている分だけ、やや優位に立っているとも言えるかもしれない。何れにしても継投勝負で試合は終盤までもつれる展開となるのは必至だろう。

 そこで両監督がどんな策を弄し、決断をするのか。その鬼と鬼の激突が、今年のシリーズは最大の焦点となるはずだ。

文=鷲田康

photograph by Kyodo News


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる

あわせて読む

主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索

トップへ戻る