全てナックルカーブや内角の“残像”。巨人に3連勝、ホークスの特殊配球。

全てナックルカーブや内角の“残像”。巨人に3連勝、ホークスの特殊配球。

 徹底してやり切ることで、巨人打線を完璧に封じ込める。ソフトバンクバッテリーのその強い意志が見えたのは、1点を先制された1回だった。

 連勝で迎えた敵地・東京ドームでの日本シリーズ第3戦。ソフトバンク先発のリック・バンデンハーク投手がいきなり巨人の先頭打者・亀井善行外野手にソロアーチを浴び、ライトスタンドのボルテージが一気に上がった。

 しかしそんな熱気を一気に萎ませたのが、坂本勇人内野手、丸佳浩外野手、岡本和真内野手と続く、巨人が誇る上位打線を三者連続三振に打ち取ったピッチングだった。

 2番の坂本には初球のナックルカーブからストレート3球と全てインコースを攻めて2ボール2ストライクとすると最後は外角低めに流れるスライダーで空振り三振。

続く3番の丸には初球に内寄りのスライダーでカウントを稼ぐと、一転して外角一辺倒の攻めに転じて、最後はやはり得意のナックルカーブを低めに落として空振り三振に仕留めた。

5球全てがナックルカーブ。

 そして真骨頂は第2戦で2安打を放ち、どん底巨人打線の中では要注意となっていた4番の岡本への配球だった。

 初球に121kmのナックルカーブが外角低めに外れると2球目も同じナックルカーブをインコース低めに決めて見逃しのストライク。3球目のナックルカーブが外角低めのボールになっても4球目もまたまたナックルカーブを外角低めに投げてこれを岡本が空振り。そしてフィニッシュも124kmのナックルカーブだ。これが真ん中低めに綺麗に落ちて岡本のバットがクルッと回った。

「岡本も『こんな攻めは初めてです』というくらいに、いいバッターには徹底した意識づけをしてきている」

 巨人・吉村禎章打撃総合コーチが指摘するように、岡本に投じた5球は、真っ直ぐに強い4番打者に緩い変化球の残像を植え付けるため、全てがナックルカーブという特殊な配球だった。

最大7試合限定の短期決戦用の配球。

「僕の考えをしっかり伝えて、それを踏まえた上でしっかりバンデンが投げてくれたお陰だと思います」

 マスクを被る甲斐拓也捕手がこう語るように、シーズンとは違う最大7試合限定の短期決戦でいかに相手を抑え込めるかを考え抜いた配球だった。

 その意図を徹底して投手と捕手の共同作業で作り上げた組み立て。それがこのシリーズでの巨人打線封じのカギとなっている。

「もちろん色々考えてやっています。まだ試合はありますし多くは言えないですけど、僕たちはしっかり試合に入る前に考えて、そこをしっかりピッチャーが投げてくれている」

 こう甲斐が指摘するのは、この試合だけではなく後に続く試合を考え、逆算した上での攻めが組み立てられているということだ。

ポイントは第1戦の坂本への第1打席。

 そのソフトバンクバッテリーの意図が強烈に見て取れるのは第1戦の坂本への第1打席の配球と、この第3戦で奪った3つの三振とのつながりだった。

 坂本という打者の最大の特長は、ほとんどの打者が苦手とするインコースのボールを難なくさばける天性の打撃センスと技術を持っていることなのは周知の事実だ。

 だからセ・リーグ各チームのバッテリーの配球は、外角中心で打ち取ろうとする組み立てがほとんどになる。

 もちろん内角を使わないで抑え込める打者ではないので、内角球も使うが1打席で1球か2球。それをどううまく見せながら外角のボールや低めに落ちるボールで打ち取るか、というのが基本の組み立てになる。

 しかし初戦先発のソフトバンク・千賀滉大投手の投球は全く違った。

強烈に内角への残像を植え付ける。

 第1戦の第1打席で千賀が坂本に投げた6球の内、5球が坂本の得意とするインコースに配された。初球の158km、2球目の154kmの内角ストレートをファウルで追い込むと、3球目もインコース低めに真っ直ぐを投げてこれがボール。4球目はこの打席で唯一、外角に行った真っ直ぐだったがこれも坂本がファウルして、5球目は再びインコースにフォークを落としたが、これは坂本が見切ってカウントは2ボール2ストライク。そこからインコース高めの156kmをつまらせて二塁へのフライに打ち取った。

 この打席で強烈に内角への残像を植え付けることが、ソフトバンクバッテリーの最大の狙いだった。

 内角打ちが得意で、普段は内角を意識しないでも甘い球がくれば反応で仕留められる坂本に、あえて内角を意識させる。そうすることでどういう効果が生まれるのか。

明らかにボールの釣り球に……。

 1つはその残像が残るので外のボールが遠くなる。

 そして2つ目は今まで無意識にバットが出ていたインコースのボールにも意識が生まれることで違う反応に変化する。

 第3戦で喫した3つの三振は1つ目がバンデンハークの外角に流れるスライダーに泳いで空振りしたもので、2つ目は粘った末に低めに落ちるナックルカーブにタイミングを狂わされて空振りした。

 そして3つ目は2ボール2ストライクから2番手右腕の石川柊太投手の150kmのインハイの真っ直ぐを空振りしたものだった。

 シーズン中の調子の良い時の坂本なら、決して手が出ないような明らかにボールの釣り球だった。しかし内角への意識が強いからこそ、その釣り球に手が出てしまった。意識しないで打てる打者に意識させるだけで十分だった。そこに坂本のこのシリーズでの崩されっぷりが如実に出た。

ソフトバンクバッテリーの勝利。

「今日の試合だけじゃなくて、1試合目の千賀からやるべきことはやっていこうと話し合ってずっと繋がっているというか、ピッチャーともみんなで共有しています。そこは千賀にしても、(第2戦先発の高橋)礼にしても、今日のバンデンにしてもきちっとやってくれているなと思います」

 甲斐が語るように坂本だけでなく丸にも同じように第1戦でインコースへの意識づけをして、残像を残すことでそれを利用した配球で2戦目以降も打ち取っている。そして第2戦で当たりが出てきた岡本には、第3戦の第1打席で緩いナックルカーブだけという特殊配球で、改めて違う残像を残して、それを以降の打席で生かしていく。

 このソフトバンクバッテリーと巨人打線の戦いでの勝利が、ソフトバンクの3連勝という結果の大きな要因になっている。

1989年は3連敗から4連勝。

「1打席でも早く修正して明日は打ちます。僕らの意地も見せたい」

 試合後の坂本は言葉少なにこう語って東京ドームを後にしたが、ソフトバンクはおそらく第4戦でも早い打席で内角を意識させる配球をして、そこを起点に残りの打席を攻めてくるはずだ。その内角の残像をどう振り払い、本来のバッティングを取り戻せるか。そこは坂本だけでなく、丸や岡本、そしてソフトバンクバッテリーの術中にハマっている巨人打線の最大の課題となる。

 3連敗から4連勝で近鉄を破り逆転日本一に輝いた1989年の日本シリーズでは、藤田元司監督が第4戦で打順を大幅に入れ替え、ベテランの蓑田浩二外野手を1番に起用。先発・香田勲男投手の完封劇などもあって活路を開いた。

「本人たちは懸命に違った環境の中でもがきながらプレーしている。そのスタイルを変える必要はない」

 こう選手への信頼を口にした原辰徳監督だが、現状打破に第4戦ではどんな手を打ってくるのか。1つだけ不変なことは、もう1つも負けられない。突きつけられているその事実だけである。

文=鷲田康

photograph by Naoya Sanuki


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