中田翔、山田哲人を伸ばした育成論。三木肇が楽天の監督として目指す物。

中田翔、山田哲人を伸ばした育成論。三木肇が楽天の監督として目指す物。

 担当記者が勢ぞろいする。地元局をはじめテレビカメラがずらりと並ぶ。フォトセッションでは無数のフラッシュが瞬く。

 監督就任会見。楽天の新監督となった三木肇にとって、それは初めての光景だった。

「監督はいろんなことを求められますので、覚悟を持って立ち向かっていきます。ファンの皆様の声援がチーム、選手にとっての宝物です。チーム一丸、また、ファンの皆様と一丸となってリーグ優勝、日本一を目指して頑張っていきます」

 力強く決意を表明する。

 だが、実際のところ昂揚感はなかった。

 普通。

 晴れの舞台に立った男が、自身を俯瞰する。

「喋る相手がひとりだろうと何十人だろうと、話す内容は変わらないんだけど、やっぱりああいった場だから『緊張するかな?』とも思った。でも、意外と普通だった」

 そう言って、三木新監督が笑った。

指導者になって11年、着実な前進。

 日本ハム時代に中田翔、中島卓也、西川遥輝ら、今のチームを支える選手を育成し、ヤクルト時代には山田哲人の守備、走塁面を鍛え上げ、トリプルスリー(3割、30本塁打、30盗塁)達成を支えた。そして、今季は楽天の二軍監督に就任し、球団初のイースタン・リーグ制覇へと導いた。

 プロの指導者となって11年。三木は着実にステップアップを遂げ、一軍監督となった。

 就任会見で目指す野球を問われると、新指揮官は「バッテリーを中心とした守りの野球。1点を多く取り、1点を守る野球」を挙げた。

 いわゆる細かい野球。楽天が積年の課題に挙げる走塁への意識。三木自身が会見で述べていたように、打者には出塁率を求めるとなれば「スモール・ベースボール」を標榜しているようにも受け取れる。

野村克也は土台だが、全てではない。

 しかも三木は、ヤクルトに入団した1996年から3年間、「ID野球」でチームを3度の日本一に導いた、名将・野村克也の薫陶を受けてきた。自身でも「土台なのは確か」と認めているだけに、「野村の教えを継承する監督」と、見出しになるような謳い文句で煽られるのも無理はない。

 ただし、その解釈は事実である一方で、誤りでもある。

 三木は以前から「野村さんの影響を受けたのは間違いないけど、それが全てではない」と言っている。

「小学校から野球を始めてから、いろんな監督さんから勉強させてもらった」

 会見でも補足していたこの言葉こそ、三木の指導者としての幹を形成しているのだ。

 誰からでも、どんなことでも吸収する。

 三木とは、そんな指導者だ。

 どこまでも貪欲。その姿勢は、監督就任会見後の囲み取材でも表れていた。

「全てが大事。全てを追っかけてもしょうがないですけど、全てをしっかり詰めてやりたいな、とは思っています」

理念は「微差は大差」。

 物事に100は滅多にあり得ない。完璧にこなせたと思うことでも、そこで満足してしまえば歩みは止まる。「もっとうまくできたのではないだろうか?」「アプローチを変えてみたらどんな結果だったのだろう?」。そういった探求こそが、人を無限に成長させる。

 三木自身、それを認識した上で、こと野球においては、ほぼ不可能に近い100を常に目指す。それこそが、質の高い野球、練度の高いチームへと繋がると信じているからだ。

「微差は大差」

 これは、三木が指導者として大事にしている理念のひとつである。

 要するに「小さなことの積み重ね」になるのだが、三木という指導者の心情に触れると、その意味合いがより深くなる。

中田翔や山田哲人を育てた方法。

「例えば、10球のうち1球でも全力でバットを振らなかったら、1個のマイナスになるじゃないですか。そのマイナスが積み重なったら、バッティングかもしれないし、もしかしたら他の部分でも大きな損失に繋がるかもしれない。そういうのがもったいないなって思うから、選手に気づかせたいんです。

 常に客観的に自分を見つめて、人が気づかないことにも目を向ける。そういうのって、本当に小さなことかもしれないけど、いつか必ず役に立ってくるから」

 三木にとって「微差は大差」を選手に気づかせる第一歩が、豊富な会話となる。

 日本ハム時代なら、当時、鳴り物入りで入団してきた中田に「俺と交換日記しよう」と、野球日誌をつけさせた。大物ルーキーの人には言えない苦悩を知り、寄り添い、時には叱咤しながら前を向かせた。

 ヤクルト時代であれば、打撃に傾倒していた山田に、「守備や走塁にも力を入れたら、お前はとんでもない選手になると思うんだけどなぁ」と、ソフトに促しながら興味を植え付けた。いざその意識が芽生えれば、「お前が『もう嫌や!』と言っても止めないからな!」と、マンツーマンで特訓に付き合うことも珍しくなかった。

 もはや、会話ではなく格闘である。

選手の心を動かせれば、方法は何でもいい。

 山田が「三木さんがいなかったら、今の自分はいませんね、確実に」と断言していたように、三木は微差を大差にしてきた実績がある。それが、自身の指導の裏付けとなり、矜持にもなっているからこそ、選手とのコミュニケーションは重要なのだと、三木はこの話題になると言葉に熱がこもる。

「ベラベラ喋ることがいいとも思っていないけどね。ちょっと偉そうですけど、一番大事なのは『選手の心を動かせるかどうか?』ですよね。

 毎日話すこともあれば、少し距離を置いてから、じっくり話し込むことがあってもいいだろうし。僕ら指導者は、選手が頑張れる環境をどう作れるか? を常に考えて行動しないといけないと思うんですよ」

「期待する選手は?」という質問が嫌い。

 三木は、指導者として「期待する選手は?」と聞かれることを嫌う。なぜなら、全員に期待しているからだ。

「みんなに可能性がある。成績だけじゃ測れない、その選手の強みが必ずあるから」

 そのために、三木は自分の意思を伝え、相手の気持ちを理解しようと努める。そうやって、選手の個性を把握し、実戦では適材適所の陣容を形成していく。その過程で、三木がベースとする「1点でも多く取り、最少失点で守り抜く」を実現するべく、1プレーに対する理解力も高めさせる。

 これこそが、指導者・三木の深謀なのだ。

オフは試合がないだけで休みじゃない。

 新監督として始動した10月の秋季練習では、選手やコーチ陣とコミュニケーションを図ることに重きを置いた。そして、秋季キャンプでは“野球漬け”を課す。

 実戦形式の練習から紅白戦などの実戦、野手に至っては休日の夜にも素振りを命じる。

「キャンプの目的のひとつとして、シーズンオフの練習内容を選手に見つけてもらうこと。オフは試合がないだけであって休みじゃないから。そこでトレーニングをするための準備期間だと思って選手にはやってもらえれば」

 三木はすでに、来季を見据えている。

 永遠にたどり着けないかもしれない100。その領域に限りなく近づこうと、新監督はどんなに些細なことにも目を配る。

 千里の道も一歩から。

 三木楽天の「完璧」への挑戦が始まる。

文=田口元義

photograph by Kyodo News


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