遠藤航、移籍2カ月半後のドイツ初戦。トップ下出場も「大きなステップ」。

遠藤航、移籍2カ月半後のドイツ初戦。トップ下出場も「大きなステップ」。

 5分にも満たなかったプレー時間は、しかし遠藤航にとって、かけがえのないひと時となったようだ。

“デビュー”を飾った日本代表MFは、試合後、喜びを噛み締めた。

「僕にとっては大きな一歩だと思います」

 11月3日、辺りの街路樹が色付いた葉を落とすメルセデスベンツ・アレナ。

 ブンデスリーガ2部第12節、対ディナモ・ドレスデン戦。3−1のリードで迎えた89分のことだった。遠藤は、VfBシュツットガルトの選手として、初めてホームスタジアムのピッチに立ったのである。

「交代で10番のポジションで出るって言われたので、少し驚きました。でも、84分に3−1になって。5〜10分ぐらいの時間でしたけど、残り少ない時間の中でも何回かチャンスは作れるかな、といったイメージは持っていました。アシストになれば良かった場面もありましたけど、1つ高い位置でプレーをしたので、ああいう関わり方が少しの時間でも出来たのは良かったかな、と思います」

5分足らずの出場でも貴重な一歩。

 試合の行方は決まっていた。

 ピッチに立った時間は、アディショナルタイムを入れても5分に満たなかった。必然的にボールを触る回数は少なく、勝利に貢献したとは言い難い。それでも遠藤にとっては、ドイツの地で踏んだ貴重な一歩となった。

 8月にベルギー1部のシント=トロイデンVVから1年間の期限付きで加入して、およそ2カ月半の月日が過ぎていた。気付けば夏の青い空は、秋の厚い雨雲に覆われている。

「普段の練習は6番のポジション(アンカー)でやっているので、トップ下で出たのはちょっとサプライズでした。だけど、まだ監督から6番で出す、もっと早い時間に途中交代で出すほどの信頼は勝ち取れていないと思っています。それでも試合に使うというチョイスを、監督が僕にしてくれたこと自体が大きなステップだと思いますね」

「自分と向き合った」2カ月半。

 ようやく訪れた出場機会。事前にティム・バルター監督からドレスデン戦で起用するといった話はなかったという。しかし、後ろ髪がない気まぐれな女神にも例えられる「チャンス」の性質を、遠藤は心得ていた。

「中盤にいい選手が多いのは分かっているので、僕は練習からしっかりハードワークし続けるだけです。そして、今日みたいにこうやって急にチャンスが巡ってくることを常にイメージしながら準備はしていました。まずはこのドレスデン戦で試合に出たことが大事だし、また練習からしっかりやっていくことが重要だと思います」

 そしてなかなか「チャンス」に恵まれなかったにもかかわらず、この2カ月半を遠藤は「しっかり自分と向き合ういい時間だった」と言う。公式戦のベンチに入ったり入らなかったりを繰り返す中、思うようにいかない時間も経験になる…そんな風に考えていた。冷たい風が吹き始めた9月の終わり、アルミニア・ビーレフェルト戦の後では、次のように話している。

「これだけ試合に出場できていない状況というのは、プロになって初めてですけど、これもいい経験だと思いますし、こういう時間こそが大事なのかな、と思ってやっています」

深く考え過ぎず、チャンスが来ると。

 2010年に湘南ベルマーレでデビューして以来、'16年に浦和レッズに移籍し、それから2年後にヨーロッパへ新天地を求めたシント=トロイデンVVと、怪我で離脱していた時を除けば、遠藤は常にチームの主力として活躍してきた。

 シュツットガルトに移ってきて「これだけ試合に出場できていない状況」は、日本代表の選手としてリオデジャネイロ五輪で主将を務め、ロシアW杯のメンバーに選出され、そしてUAEでアジアカップを戦った、いわば“エリート”の遠藤にとって、初めてと言っていい「時間」だった。しかし、ちょっとした“壁”は想定内だったという。

「もちろんいきなり使われることもありますけど、そんなに簡単ではないことは移籍前から分かっていました。試合に出られない可能性も頭の中で描きながら、シュツットガルトに来ている。なのであまり深く考え過ぎずというか、いつもチャンスが来ると思いながら、常に練習に取り組んでいましたね」

特殊な戦術にも感じるやりやすさ。

 遠藤は、この2カ月半を長くは感じなかったという。

 もちろん「しっかり自分と向き合ういい時間だった」が、それはサッカーに対する考え方を変えるほどの大袈裟な期間ではなかった。ロシアW杯のメンバーに選ばれながら、1試合も世界最高の舞台に立てなかった苦い経験に比べれば、取り立てて騒ぐほどではなかったかもしれない。

 そしてこの間、特殊なポジションチェンジをする「戦術」に対する理解も進めてきた。月刊誌『11FREUNDE』が「ティム・バルターはVfBシュトゥットガルトでフットボールの戦術に革命を起こしている」とも記すほどのものだが、遠藤にとってドイツのサッカーはベルギーよりも組織的で日本に近く、やりやすさは感じているという。

 練習をこなしていく過程で、起用法も含め遠藤がどういう選手なのか、バルター監督の自身に対する理解が進んでいることも感じる。

「シュツットガルトに加入した当初は、おそらく監督も僕をどこで使うのか、僕がどういう選手なのか把握しきれてなかったと思います。だけど練習の中で、僕の良さをある程度は理解してきていると思います。僕が出たいのはアンカーだと言っていますし、普段の練習は“6番のポジション”でやっています」

「プレーする幸せを感じましたね」

 もちろん前述のとおり、バルター監督から完全に「信頼は勝ち取れていない」ことは重々承知だ。ドレスデン戦で初出場を遂げたことで、いささか乱暴に言えば、新天地での戦いが幕を開けたに過ぎない。

 何より遠藤自身、決して浮かれていない。国をまたいで挑戦を続ける中で、真摯に「いつもどおり自分の良さを練習から出してやっていくことだけ意識しています」と言う。

 それでも、初めてメルセデスベンツ・アレナのピッチに立ったことは、何物にも代え難い、格別なひと時だった。

「もちろんサッカー選手である限りはフィールドに出てプレーし続けることが生きがいなので、試合のピッチに立つということは、すごく嬉しいことです。今日はチームメイトが祝福してくれて、プレーする幸せを感じましたね。試合が終わった直後のピッチの上で、監督もコーチも含め、チームのみんなが色々な声を掛けてくれました。それは、やっぱり嬉しいですよね」

昇格争いに、主力として絡んで。

 遠藤によれば、ゴール裏が荒ぶるスタジアムの雰囲気は、浦和のそれに似ているという。

「得点が入った時の雰囲気や、ホームの後押しはすごいなと思うし、やっぱりアウェイのチームはやりづらいんじゃないかなと思います。そういう意味では、本当に心強いサポーターがいると感じている。

 今日は純粋に楽しみながらプレーができたので、また練習からしっかりやって、応援に来てくれたサポーターの皆さんに、次はもう少し長い時間、僕がプレーする姿を見せられたら良いかなあと思います。シュツットガルトの昇格争いに、もっと主力として絡んでいきたいですね」

文=本田千尋

photograph by Getty Images


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