逆境と葛藤を乗り越えてA代表復帰。G大阪・三浦弦太の表情が晴れた。

逆境と葛藤を乗り越えてA代表復帰。G大阪・三浦弦太の表情が晴れた。

 代表メンバーが発表される3日前のことだった。

 J1第30節湘南ベルマーレvs.ガンバ大阪。G大阪のキャプテンを務めるCB三浦弦太は晴れやかな表情を見せていた。

 この試合は残留争いに身を置くG大阪としては、相手がプレーオフ圏である16位に勝ち点差4でいた湘南という、絶対に負けられない一戦。この戦いに3−0と快勝したことで、表情も晴れたのだろうか。いや、理由はそれだけではない。

「今はもう一度、一からやり直そうという気持ちで臨めています」

 三浦は2013年に大阪桐蔭高校から清水エスパルスに入団すると、プロ4年目の'16年から頭角を現し、'17年にG大阪に完全移籍。クラブ伝統の背番号5を継承し、不動のCBとしてレギュラーを掴み取ると、日本代表にも選出され、ロシアW杯のアジア最終予選も経験した。チームでは昨年からゲームキャプテンも務め、今年1月のAFCアジアカップのメンバーにも選出。名実ともに日本を代表するCBの1人とステップアップしていた。

 しかし、一気に増えた自分の肩書きにも苦しんでいるようにも見えた。

増えた肩書き、精彩を欠くプレー。

「自分の中でいろいろ考えることが増えたんです。代表活動やキャプテンもそうだし、チームの結果も伴わない中で、自分の中でいろいろ考え過ぎてしまっていた部分もあった。自分の立場という責任もそうですし、何より自分のパフォーマンスにも満足していない部分が多かったんです」

 フル代表選手、キャプテン、5番。

 これまで自分になかった肩書きが、G大阪にやってきて一気に増えた。

 移籍1年目はフレッシュな気持ちでノビノビとプレーし、彼の武器である状況を的確に捉えたビルドアップを存分に発揮できた。その一方で、チームは低迷。優勝争いに食い込むべくシーズンをスタートさせたが、チームの状況とともに、彼のプレーもダイナミックさが薄れ、精彩を欠くようになっていった。

 代表でも10月のキリンチャレンジカップ・ウルグアイ戦でGK東口順昭に送ったバックパスをFWカバーニにかっさらわれて失点を許すなど、らしくないプレーを続いた。

 奮起をかけて臨んだ昨季も最後までギアを上げられず、9位で終えた。

代表から遠ざかり、チームも無冠。

 今季も3バック時には中央、4バック時にはCBと右サイドバックと、複数のポジションをこなすなど、チームに不可欠な存在であることに変わりはなかったが、3月末の親善試合を最後に代表から遠ざかる日々が続く。さらにチームでも前述したように残留争いに巻き込まれるなど、4年連続の無冠が確定するなど、なかなか波に乗り切れなかった。

「サッカー選手として、1回、自分を整理しようと思った時期もあった。ですが、それが逆に僕にとって良くなかったんです。自分の中でスタイルが確立してきたなと思ってしまったり、もっと余裕を持ってやろうとしてしまって、それがうまくいく時といかない時の落差に苦しみました。しかも、それがチームの結果にも繋がらなくて、一体どうしたらいいかといろいろ考え過ぎてしまったんです。

 それを周りの人たちが気づいてくれたというか、仲の良い先輩からもガッツリではなく、遠回しに『あまり責任を感じすぎず、楽しんでやれよ』と言われたり、体を治療してもらっている先生からも『ギアが上がりきっていない感じだから、もう1回がむしゃらにやるのもいいと思うよ』などと言われたんです。その言葉にハッとさせられたというか、『ああ、周りから見ていると、俺はそう見えているのか』と。もう1度、がむしゃらにやらないといけない、変わらないといけない時期だと思えるようになったんです」

こわばっていた三浦の表情。

 彼にのしかかった肩書きが自分の視野を狭めていた。「代表選手はこうあるべき」、「キャプテンは毅然としなければいけない」など、自分のあり方を必要以上に考え過ぎてしまった結果、負のスパイラルに入り込んだのだった。それは当時の彼のこわばっていた表情が物語っていたように思う。

「コンディションがなかなか上がらない時期もありました。今もMAXではないと思いますが、まだまだがむしゃらにやっていかないといけない年齢でもありますし、それがチームにいい影響を及ぼすこともあると思う。もっとがむしゃらになって、そこから自分の良さを出していこうと思えています」

「あくまでも自分に意識を」

 彼はまだ、24歳。CBは他のフィールドプレーヤーと違い、息が長いポジションでもある。だからこそ、今のうちにどれだけ多くの経験を積むことができるかが、将来に大きな差となって現れてくる。

 しかも、その経験はただ長い期間やっているということではなく、経験の質の高さが重要だ。質が高い経験というのは、ネガティブなことを多く経験しているということだ。つまり、逆境やそこで生まれる葛藤を乗り越えた時、大きな成長を掴むことができる。

 三浦がこの2年間で経験したことは、まさにネガティブな要素が多かった。ただ、それを受け入れながら、自分のあり方を模索してきたからこそ、彼は一筋の光を見いだせていた。

「がむしゃらになれたことで、代表に対する考え方も変わってきました。もちろん常に代表を目指してやっていますし、外れていることは物凄く悔しい。でも、今の自分のパフォーマンスでは入れないということも自分の中で納得というか、認める部分があった。それもちょっともどかしかったけど、自分のベストなパフォーマンスができているときに、そこに入り込めればいいと考えられるようになりました。

 あくまでも自分に意識を向ける。プレー面では対人で絶対に負けない選手になりたいし、攻撃面ではキックで違いを出せる選手になりたいと思っています。プレーでチームにいい影響を与えたいし、自分から発信できる選手になりたいと思っています。

 その上でJリーグでは圧倒的な存在にならないといけないと思いますし、自分の良さを評価してもらって代表に入れてもらっていたと思うので、そこをもっと試合の中でコンスタントに出すことができればと思います」

代表の意味を噛み締めて。

 がむしゃらにやりながらも、自分を客観視できている。湘南戦のミックスゾーンで見せた晴れやかな表情は、苦悩を重ねた上での自己表現だった。

「もうこわばった表情はしませんよ(笑)。苦しかった時期をいかに次に繋げるか。そこですよね。繋いでいかないといけないと思っています」

 肩書きは背負うものではなく、今まで自分がやってきたことの成果物に過ぎない。この言葉の3日後、三浦は代表復帰を果たした。よりその意味を噛み締めて、彼はサムライブルーのユニフォームを身にまとう。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando


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