奇怪なシリーズと本命の敗因。ナショナルズが修正したエースの癖。

奇怪なシリーズと本命の敗因。ナショナルズが修正したエースの癖。

 奇妙なワールドシリーズだった。いや、奇怪なシリーズと言い換えたほうが適切だろうか。7戦までもつれた2019年のシリーズで、最後に笑ったのはナショナルズだった。

 本命と目されていたアストロズは、一敗地にまみれた。第1戦と第2戦をホームのヒューストンで落としたときは、だれしも絶体絶命と思ったはずだが、つづく3試合、アストロズは敵地ワシントンで全勝した。

 これで3勝2敗。切り札ゲリット・コールはすでに2度の先発を終えたが、アストロズはジャスティン・ヴァーランダーとザック・グリンキーを残している。短期決戦に不安のあるタイプとはいえ、地元でふたりとも負けることはあるまい。そう予測した人は、けっして少なくなかったと思う。

 だが結果は、崖っぷちに追い込まれたナショナルズの2連勝だった。2019年のポストシーズンを通して、このチームは「負ければおしまい」の苦境から5度も息を吹き返したことになる。

この「大逆転」はそうそう見当たらない。

 ワイルドカードでは、ブルワーズのジョシュ・ヘイダーから勝ちをもぎ取った。

 NLDS(ナ・リーグ地区シリーズ)では、ドジャースに1勝2敗と追いつめられながら、リッチ・ヒルとクレイトン・カーショーを打ち崩した。

 そしてワールドシリーズでは、最後の最後に敵地で2連勝。これほど「大逆転」のイメージが強いチームは、そうそう見当たらない。

 よく引き合いに出されるのは、1914年の「ミラクル・ブレーヴス」だ。

 この年、ナ・リーグのボストン・ブレーヴスは7月4日の独立記念日まで26勝40敗の成績で、最下位に沈んでいた。首位ニューヨーク・ジャイアンツには15ゲームの大差だ。ところが、後半のブレーヴスはまるで別のチームに生まれ変わった。7月6日から9月5日までの成績が41勝12敗。1909年から1912年まで4年連続で「100敗以上」を喫していたとは思えない快進撃で、そのままワールドシリーズも制したのだった。

ターナー、レンドンの復帰。

 ナショナルズの今季前半も、惨憺たるものだった。最初の50戦が19勝31敗。主砲ブライス・ハーパーが抜けて結束力が強まるかと思っていたのに、序盤の不安定な戦いぶりは前途の厳しさを予感させるものだった。

 ところが5月上旬、トレイ・ターナーやアンソニー・レンドンが戦線に復帰すると、チームは様変わりした。55歳の監督デイヴ・マルティネス(レイズとカブスでジョー・マドン監督の下についていた)も、着々と成果を挙げる。心臓の持病が悪化し、9月中旬には入院治療を受けたこともあったが(シリーズ第6戦で球審に猛抗議して退場させられたときは、見ていてひやひやした)、オールドスクール(旧派)に属するその采配は、意外にも好成績に結びついていった。

 そういえば、1997年にワイルドカードからワールドシリーズを制したマーリンズのジム・リーランドや、同じ道筋で2003年にシリーズを制したジャック・マッキーオン(マーリンズ)もやはり旧派の監督だ。当時72歳のマッキーオンなどは、「なにもしないのが一番」といわんばかりの風情だった。

エースの癖を修正したナショナルズ。

 それはともかく、ナショナルズ勝利のキーポイントはいくつか考えられる。

 最大のポイントは、第6戦でエースのスティーヴン・ストラスバーグが投球する際の癖を見抜かれていることにベンチが気づき、ただちに修正の指示を出したことではないか。

 つい2年前のワールドシリーズ第7戦、アストロズは、ドジャースの先発ダルビッシュ有の癖を完全に見抜き、初回と2回に合計5点を奪って勝負をつけた。古くは2001年のシリーズ第6戦で、ヤンキースの先発アンディ・ペティートがダイヤモンドバックスに癖を見抜かれ、2対15で敗れた例もある。

 ひとつまちがえば、初回に2点を失ったストラスバーグもその轍を踏むところだった。5回裏にも1死2、3塁で打席に強打のホセ・アルトゥーベを迎えるという大ピンチに立たされる場面があった。

 だがストラスバーグは、この危機を三球三振で乗り切った。初球は、チェンジアップで空振り。2球目はカーヴでファウル。そして3球目、ワンバウンドするほど低く外れた球をアルトゥーベが空振りして、アストロズは絶好のチャンスを逃した。

乱世の幕開けか、一過性の狂いか。

 第6戦の序盤で、レンドンに対して無意味な守備シフトを布き、やらずもがなの点を与えたこと。第7戦の勝負どころで、ロビンソン・チリノスに下手なバントを命じて失敗したこと。同じく第7戦で、グリンキーの降板を急ぎすぎ、結果的にコール投入の機会を逸したこと。アストロズ敗退のポイントは、ほかにもいくつか考えられるが、もしナショナルズのベンチが、ストラスバーグの癖が見抜かれていることに気づかなかったら、勝敗の行方はどうなっていたかわからない。

 いずれにせよ、7試合戦ってヴィジターチームが全勝というワールドシリーズは、史上初めてだった。これが乱世の幕開けとなるのか、それとも一過性の「狂った季節」として記憶されるのか。来季の蓋を開けてみなければ容易に予想はできないが、両軍の大黒柱だったストラスバーグとコールは、いずれも来季、FAの資格を得る。オフシーズンにはべらぼうな金が動き、情報も錯綜することだろう。球団の財力から見て、ストラスバーグはドジャース、コールがヤンキース(あるいはその逆)と予想する声は高いが、百鬼夜行の大リーグではなにが起こるかわからない。

 冬の戦いからも、眼を離さないでおこう。

文=芝山幹郎

photograph by Getty Images


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