先輩の教えを胸に、コツコツと。西武残留の十亀剣が誓う日本一。

先輩の教えを胸に、コツコツと。西武残留の十亀剣が誓う日本一。

 10月30日、十亀剣がフリーエージェント(FA)権を行使した上でのライオンズ残留を表明した。

「宣言残留という方法が、いちばんわかりやすく、チームに感謝を表すことになるのではないかと思ったからです」

 再びFA権を取得できるのが4年後ということになり、十亀の年齢を考えれば生涯ライオンズのユニホームを着続ける可能性は高くなる。近年、FAでの流出があとを絶たなかったライオンズにとっては、十亀だけではなく、将来的にFA権を取得するであろう選手へのアプローチにもつながる結果となった。

 筆者の印象ではあるが、ここ数年、十亀のコメントの端々に後輩を思う気持ちを感じる機会が増えた。

「今回のFAについては、本当に人生で一番悩んだのではないかと思うくらい悩みました。でもその結果、今後自分が選手として、チームにどう関わっていけばいいのか、見直すいいきっかけにもなりました。後輩たちに年相応のアドバイスも送れるようになりたいですね。言葉で引っ張るタイプではないですが、自分の背中を見てもらって、『十亀がやっているのに先に練習を終えられないな』と思われるような先輩になりたいです」

「亀」のようにコツコツと。

 十亀は2012年にJR東日本からドラフト1位で西武に入団した。昨シーズンは勝ち星こそ5勝にとどまったが、最後まで首位を争ったソフトバンク相手には2点台の防御率を記録するなど、ライオンズの逆転優勝に欠かせない存在となった。今年の7月16日にはプロ入り通算50勝を達成。

 ここまでは好投しても味方の援護に恵まれなかった試合も多く、50勝到達に時間がかかったが、その名の通り昔話に登場する「亀」のように勤勉に、コツコツと勝利を積み上げてきた。

館山の言葉は「すっと腑に落ちる」。

 そんな十亀には尊敬する先輩がいる。今シーズンを最後に17年間の現役生活に幕を降ろした元ヤクルトの館山昌平である。

 高校時代、「同じ右上手投げのピッチャーがいたので、チーム内で登板機会を増やすために」(十亀)と、上手投げからスリークウォーターにフォームを変えた十亀にとって、やはり野球人生の途中でフォーム改造を行った先輩は技術的にも手本となっていた。

 同じ日本大出身という縁もあり、近年はともに自主トレーニングをする仲だった。「館山さんのおっしゃることはすべてすっと腑に落ちる」と語っていたが、そんな先輩が決意した引退には一抹の寂しさを感じたという。

「聞いたときは、やはり寂しかったですね。最後に、本拠地で投げる予定だというメールをいただいたんです。その日、ちょうど時間が取れそうだったので、試合を見に神宮に行ったんですよ」

 入り口でチケットをちぎってもらい、スタンドに向かった。

頑なに払ったチケット代。

「中学生以来でしたね。チケットを買ってスタンドで試合を見たのは……。最初は館山さんや知り合いの方が『招待のパスを出そうか』と言ってくださったんですが、それは違うんじゃないかと思って……。いち観客として、館山さんのファンとして見に行きたかったんです」

 実はこの試合では、館山ともう1人の功労者である畠山和洋の引退セレモニーも重なっていたため、チケットを買うことができなかった。仕方なく知人に頼んで用意してもらったのだが、十亀は頑なにチケット代を支払ったという。

「ちょうど台風が近づいていて、その日のうちに仙台に移動しなければいけない日でした。本当は試合後のセレモニーまで見たかったんですけど、館山さんの登板だけ見て、後ろ髪を引かれながら神宮をあとにしました」

 プロ生活最後の投球をしっかりと目に焼き付けた。

自主トレで交わした野球議論。

 十亀は振り返る。

「本当にたくさん、いろいろお話をさせていただいたんですが、まず最初に驚いたのはトレーニングに対する考え方でした。館山さんは『トレーニングはケガをしないためにするもの』だというんです。僕はそれを聞くまで、体を強く、大きくするためにトレーニングをしていたんですけど、館山さんの話を聞いて『そういう考え方もあるんだな』とトレーニング方法を見つめなおしました」

 自主トレーニング期間には、野球についてさまざまな議論を交わした。投球術はもちろん、マウンド上でのメンタルコントロールの方法。技術論も多かった。

「中でも変化球の考え方が衝撃でした。僕は、変化球については、こういう回転をするから落ちるとか、曲がるくらいにしか考えていなかったんですが、館山さんは『ボールの回転軸を意識して投げている』と言うんです」

「そこまで考えて投げてるんだ」

 投手は思い通りのボールが投げられないと、どうしてもフォームに意識が行きがちで、投げ込みを行う際も足の挙げ方やステップの位置、腰の回転など、フォームのどこかに原因があるのではないかと考える傾向にある。しかし館山は目の付け所が違った。

「ストレートはボールの回転軸がブレなければスーっと伸びる。変化球も、ボール自体の回転軸がブレなければ、曲がる。そう言われて考えてみると、変化球が抜けてしまうときって、いびつな回転をしている感じがあるんです。『ボールの軸を意識して投げることで安定して、いい回転で投げられるよ』とおっしゃっていて、すごいな、そこまで考えて投げてるんだって驚きましたね」

 何事にも研究者のような姿勢で臨んでいたと振り返る。

みんなで足りないものを埋めていく。

「そうやって、1つのことを考えて、考えて、突き詰めてプレーしてきたから、ここまでプロで活躍できたんだろうなと思いました。同じ大学で、ご縁があって一緒に練習できて、本当にありがたかったです。館山さんは素晴らしいピッチャーなので、大きなことは言えないけれど、同じタイプのピッチャーとして、館山さんに教えていただいたことは、自分も引き続きやっていきたいし、もし年下の投手に聞かれたら僕も教えたいと思う。いいことはどんどん伝えたいですね」

 今シーズンはクライマックスシリーズ・ファイナルステージで敗退し、2年連続で日本シリーズへの進出が叶わなかった。

「足りないところがあったんだと思います。でも、その足りないという感覚と悔しさを知っている選手が大勢、ライオンズにはいる。みんなでその足りないものをひとつひとつ埋めていきたい」

 プロ8年間、地道に歩んできた十亀の選択に間違いはないはずだ。

文=市川忍

photograph by Kyodo News


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