ドラフト指名漏れと2年後の希望。番記者が見た早稲田大4番の素顔。

ドラフト指名漏れと2年後の希望。番記者が見た早稲田大4番の素顔。

「本当に楽しかった。野球は最高です」

 東京六大学野球の今季最終戦である、早慶3回戦。学生最後の試合が終わった後、加藤雅樹は笑ってこう言った。曇りのない、晴れやかな笑顔だった。

 今年、早稲田大から4人の選手がプロ志望届を提出していた。六大学野球で通算打率3割越えを誇る安打製造機・福岡高輝、日大三高時代から強打の捕手として注目された小藤翼、強肩強打の遊撃手である檜村篤史、そして長打力とミート力を併せ持つ強打者・加藤。

 しかし蓋を開けてみれば、4人全員が指名漏れ。まさかの結末に終わったドラフト会議は記憶には新しい。

 中でも注目を集めたのは、加藤が指名されなかったことだろう。

高校時代は清宮との「KK砲」で注目。

 早稲田実業高等部での3年時には「4番・主将」として、当時1年生だった清宮幸太郎と「KK砲」を形成。甲子園でアベック弾を放つなど注目を集めた。高校通算47本塁打の実績を引っ提げて早大に入学してからは捕手から外野手にポジションを移し、2年春に首位打者とベストナインを獲得。

 以降3年間にわたって打線の中軸を担い、今年に入ってからは東伏見の早大グラウンドでもプロ球団のスカウトの姿がたびたび見られた。

 そんな加藤を知ったのは、5年前の夏。ふと観に行った2015年夏の甲子園で、偶然その日試合があった早実に目を奪われた。スタンドに飛び込む清宮・加藤のアベック弾。揺れるエンジ一色のアルプススタンド。その2年後に早大へ入学し、早稲田スポーツ新聞会で加藤の番記者となった。

「子どもの頃は泣き虫で……」

 私にとって加藤は「ヒーロー」だった。周囲の人々にも常に笑顔で対応し、試合後は記者にも「お疲れ!」と気さくに声をかけてくれる。ただ、少しだけ繊細な部分もあった。「子どもの頃は泣き虫で怒られるのが怖かった」と語ったこともあったし、自らを「元々下を向きやすいタイプ」と話したこともある。豪放磊落な番長気質とは正反対の、ナイーブな一面も覗かせていた。

 そんな加藤は自身の大学野球を振り返って「苦しいことが多かった」と振り返る。

 2017年春には3割7分5厘、4本塁打、13打点という成績で首位打者とベストナインを獲得して大ブレイクを果たしたが、その秋は2割2分2厘、0本塁打、2打点と大きく数字を落とし、同シーズン70年振りの最下位に沈んだチームの責任を一身に背負いこんだ。

 3年生でも満足のいく成績を残せず、4年春にはベストナインに返り咲いたものの、秋も開幕から不調が続き、ドラフト会議時点での打率は1割6分だった。

自分を追い込んでしまった最後の秋。

 誰が見てもポテンシャルは十分。でもそれが結果に結びつかないのはなぜなのか。番記者として関係が深くなればなるほど、その理由を考える時間が増えた。そんな中で、印象に残っている彼の言葉が2つある。責任感が強く自分に厳しい加藤を象徴するような言葉だ。

 1つは、「野球って難しいですね」という台詞。今秋の開幕直後に出たものだ。

 早大が最後にリーグ優勝したのは2015年。つまり現在のチームには、優勝を経験した選手が1人もいない。

 だからこそ「絶対に優勝」と臨んだ最後のリーグ戦だったが、気負いがあだとなり打線は沈黙。開幕から2試合連続で完封負けを喫し、自身も無安打だった。

「自分が打ってチームを勝たせたいと思いすぎていた。チームを勝たせるなんて1人ではできないのに、4番だからと理由を付けて自分を追い込んでしまった」

 かつてはこうも口にしていた加藤。私の目には、責任感や勝利を渇望する思いでがんじがらめになっているように見えた。

「戦犯」とののしられることも。

 もう1つは、早大でプレーした4年間を振り返っての「結果が出なければすぐに厳しい言葉を言われる苦しさを、ずっと感じていた」という吐露。

「早稲田の4番」の看板は重く、4番に定着した2年春以降、常に期待され、そして批判にさらされ続けてきた。

 凡退するたびに「やる気がない」、「勝ちたくないのか」といった言葉を浴びせられ、「戦犯」とののしられることもあった。そんな厳しい視線の中でプレーし続けることがどれほどの辛さや苦しみを伴うか、想像に難くない。番記者として接してきた日々の中で、彼の「やる気」を感じない日はなかった。本人は、周囲の言葉をずっと受け止めてきたのだ。

 しかし、ドラフト会議も終わり、社会人野球に進むことが決まって迎えた大学生活最後の早慶戦に、加藤は晴れ晴れとした表情で現れた。

「4番主将」という重圧から解放され、「早慶戦は心が躍る舞台、味わいます」と、1人の野球選手としての言葉に変わっていた。今まで見たことのない加藤の顔だった。

少年のように、一点の曇りもなく。

 そして迎えた早慶戦、初戦を落として後がなくなった2回戦で、シーズン9戦9勝と無敵を誇っていた慶應大の全勝優勝を阻止する大きな白星をつかむ。

 六大学野球のシーズン最終カード、早慶戦の3戦目。勝っても負けても引退という正真正銘ラストゲーム。そんなプレッシャーのかかる試合で2安打を放ち、チームもサヨナラ勝ち。加藤の大学野球生活は勝利で幕を下ろした。

「この試合が終わればユニフォームを脱ぐし、なんと言われてもいいだろうと。すごく清々しく、なんの曇りもない気持ちで試合に臨めた」

 試合の後、加藤は晴れやかな笑顔でこう言った。それは一切の余分な感情なく、一野球人として純粋に野球を楽しんでいた何よりの証拠だった。プレッシャーと戦い、多くの期待を背負い続け、指名漏れさえ経験した加藤が「楽しかった」と少年のように笑って大学野球を終えたこと。それが私は、たまらなく嬉しかった。

社会人を経て2年後にプロへ。

 加藤を含め早大からプロ志望届を提出した4人は、社会人野球に進むことが決まっている。大学野球という舞台を離れても、彼らの野球人生は続いていく。加藤を含め、4人全員が2年後のプロ入りという目標を公言している。

「(ドラフト)当日はさすがに落ち込んだけど、自分の実力不足。長い野球人生の中でやり返すチャンスはまだまだあるので、そこに向けて実力を上げていきたい」

 2021年のドラフト会議、彼らが笑顔であることを願う。

文=望月優樹

photograph by Kanaha Une


関連記事

おすすめ情報

Number Webの他の記事もみる

あわせて読む

主要なニュースをもっと見る
社会のニュースをもっと見る
経済のニュースをもっと見る
政治のニュースをもっと見る
国際・科学のニュースをもっと見る
エンタメのニュースをもっと見る
スポーツのニュースをもっと見る
トレンドのニュースをもっと見る
生活術のニュースをもっと見る
地域のニュースをもっと見る

スポーツ アクセスランキング

ランキングの続きを見る

スポーツ 新着ニュース

新着ニュース一覧へ

総合 アクセスランキング

ランキングの続きを見る

東京 新着ニュース

東京の新着ニュースをもっと見る

東京 コラム・街ネタ

東京のコラム・街ネタをもっと見る

特集

特集一覧を見る 動画一覧を見る

記事検索

トップへ戻る