中野友加里が紀平梨花の技術を解説。トリプルアクセルのその先へ……。

中野友加里が紀平梨花の技術を解説。トリプルアクセルのその先へ……。

 初めまして。元フィギュアスケーターの中野友加里です。「ドーナツスピン」という言葉でピンとくる方もいらっしゃるでしょうか。世界で3人目のトリプルアクセル成功者、でもありますが、ジャンプよりスピンが得意だった「中野友加里」です。

 さて、私が引退してからおよそ10年が経とうとしています。ひと言で言うとこの10年で大きく「フィギュアスケートの歴史は変わった」と感じています。

 私の現役時代、男子は4回転ジャンプを構成しなくても勝つことができ、女子ではトリプルアクセルを除く3回転ジャンプを5種類しっかり決めれば上位進出は可能でした。しかし現在、男子では4回転の種類を求められ、女子では3回転+3回転を成功させる事は当たり前、男子のように高難度の4回転を跳ぶ選手が出てくるほどジャンプが進化しています。

 さらに普通に「跳んだ」だけでは高評価には結びつかず、「質」が重要なポイントになっています。

 そんな中、日本女子選手で際立っているのが紀平梨花選手です。
 
 紀平選手といえばもちろんトリプルアクセルが代名詞。私もトリプルアクセルを跳んでいたからこそ、そのジャンプの難しさがわかるのです。

なぜ紀平選手は成功率が高いのか?

 私は難しいと感じ過ぎてしまっていたせいか「さあ、跳びますよ! 跳びますよ!!」と構え過ぎていた感満載ですが、紀平選手はふわっとリズミカルにテンポよく跳んでいき、まるでステップをするかのようにスピードも落ちることなく跳び上がります。ジャンプも高さと特にジャンプ幅、ランディングの流れなど質の良さをうかがえます。

 そして、特徴的なこととして……紀平選手はとにかく成功率が高いのです。

 これはトリプルアクセルだけではなく全てのジャンプに当てはまる事ですが、彼女の高い成功率の一因は、その跳ぶ前の「軌道」にあると感じています。

 特にトリプルアクセルなどの難しいジャンプだと、「回らなくては」という気持ちが強くなり、どうしてもジャンプの回転方向へ回り込みやすくなってしまいます。必要以上に回り込んでしまうと力で跳ばなくてはならなくなるため、回転不足や転倒につながりやすくなります。

 ところが彼女の場合、そうならない。

他の質の高いジャンプにも注目すべき。

 アクセルジャンプに入っていく軌道の角度としては、構えの姿勢から斜め45度に向かっていくのが理想的だと思います。

 トリプルアクセルを高確率で決めている紀平梨花選手も、45度の角度でトリプルアクセルに入っています。教科書のお手本のような軌道と角度で踏み切っているうえ、跳ぶ前の構えも短く、回転軸を作るまでもコンパクトで速いです。尚且つ先述と重複しますが回転軸も細く速く、空中姿勢も美しいです。着氷後の流れが良いのでスピードも落ちることなく、演技全体の流れが途切れません。さらっとトリプルアクセルを跳んでいることも、プラス評価につながります。

 ただ、紀平選手はトリプルアクセルばかりに注目されがちですが素晴らしいのはトリプルアクセルだけではなくどのジャンプを取っても質の良いジャンプを持ち合わせ同じ事が言えます。

 特にコンビネーションジャンプ。

 コンビネーションジャンプは2つ目を控えていると、1つ目のジャンプで「流れ良くスピードを落とさないようにキレイに跳ばなくては!」というプレッシャーを感じるものですが、紀平選手は、コンビネーションジャンプのスピードが全く落ちません。これは本当に素晴らしい武器です。1つ目のジャンプが難しいとスピードを跳ぶ前に落としがちになってしまいますが、全くそれを感じさせません。

技術と表現の面でバランスの取れた選手。

 紀平選手のその持ち味はジャンプだけではないのが特徴とも言えます。スピン1つとっても柔軟性が活かされ、ポジションが明確できれいです。演技では上半身の身のこなしが柔らかく体全体をうまく使っていてとても美しいです。

 技術面が優れていると表現面が追い付かなくなってしまうこともありますが、紀平選手は双方バランスの取れた選手と感じます。腕を動かす時には必ず顔そして上半身が付いて、指先まで意識が行き届いています。ステップでも、踏み込みが甘くなりがちですがディープエッジにのってしっかり強弱もついていますし、指先、顔の表情もステップと同時にできています。こうしたことも演技構成点の高い評価につながっています。ミスの後にもレベルを取りこぼしたりしない、ハートの強さ、冷静な判断力も感じます。

昔は「技術 or 表現」という感じだった。

 紀平選手ももちろんそうですが、ここ数年で10代の選手たちが台頭してきています。

 10代ながらも技術と表現力の両方が備わっている選手が多いと感じました。特に女子選手の自分が選曲した演技の解釈が目覚ましいものがあり目を見張るものがあります。

 私がまだ10代だった頃は音に合わせて言われた通り振付けをこなし、「技術 or 表現」のどちらかが秀でており両方が備わった選手が少なかった気がします。

 しかしながら、昨今のフィギュアスケーターはとても曲の表現、音の捉え方、表情豊かに踊り感受性豊かなのだと感心するばかりで「歴史は変わった」と思っております。

 今の時期はGPファイナルへ向けての戦いも佳境となっています。紀平選手をはじめ、日本人選手だけではなく海外のスケーターたちが繰り広げる華麗なる戦いからずっと目が離せません。

文=中野友加里

photograph by Asami Enomoto


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