加藤健人と菊島宙のレクチャーで修造がブラインドサッカーに挑戦!

加藤健人と菊島宙のレクチャーで修造がブラインドサッカーに挑戦!

 見晴らしの良い河川敷。浦和レッズが運営するレッズランドの敷地内には練習用のサッカー場がいくつも並んでいる。その内の1つであるフットサル場に、加藤健人さんと菊島宙(そら)さんの姿があった。

 2人はともにブラインドサッカーチーム「埼玉T.Wings」のチームメイトで、加藤さんがキャプテンを務めている。加藤さんの愛称は“カトケン”。菊島さんは“ソラ”。それぞれが男子チーム、女子チームの日本代表選手でもある。

 しばらくしてまだ暑さの残るグラウンドに松岡修造さんが現れると、2人の表情に笑みがこぼれた。2人はともに視覚障がい者だが、目の前に立つ松岡さんの姿はどれほど認識できているのだろう。簡単な挨拶をすませると、さっそく松岡さんからこんな質問が投げかけられた。

「同じ視覚障がいでも、ずいぶん見え方が違いますね」

松岡「今、健人さんは僕がどれくらい見えているんですか」

加藤「僕は光を感じられる程度なので、身長とかもわからない。どこに誰がいるかとかも見えてません」

松岡「でも、さっきトイレに行かれてたでしょ。普通に歩いているから、少しは見えているのかと……」

加藤「1人では場所がわからないので、先ほども奥さんについてきてもらいました。今日もここには奥さんの運転する車で来ました」

松岡「そうでしたか。奥様とはいつごろ知り合われたんですか」

加藤「元々チームのサポートをしてくれていて、そこで知り合いました。結婚して4年くらいが経ちます。今日は子どもも来ているから、後で松岡さんに抱っこしてもらおう(笑)。息子は今、1歳半です」

松岡「じゃあ、後ほど(笑)。(菊島)宙さんはどうですか。僕の姿はどのくらい見えてますか」

菊島「私はぼんやりと。カメラのピントが合っていないような感じです」

松岡「じゃあ僕がこっちに移動してもわかる。顔もわかりますか」

菊島「はい。一応テレビで見たことがあるので」

松岡「同じ視覚障がいでも、ずいぶん見え方が違いますね。でも、ブラインドサッカーは目隠し(アイマスク)をするから、それで条件が同じになるのですね」

加藤「まさにその通りで、光の感じ方に個人差があるから、このアイマスクで全員の条件を同じにするんです」

コートの広さはフットサルと同じ。

松岡「以前に僕も1度だけ体験したことがあるんですけど、真っ暗な状態で何もできなかった。試合ではコートに入る前にこれをつけるんですね」

加藤「そうです。入場する前にアイマスクをつけて、試合が終わるまで外してはいけないルールになっています」

松岡「前にこの企画で『ゴールボール』を取材させてもらったんですけど、あちらは何となくボールのある場所が理解できるんです。距離がそれほど離れてないし、場所も体育館の中なので。でも、このブラインドサッカーは目が見えない状態でサッカーをするわけですよね。コートの広さはどのくらいですか?」

加藤「フットサルと同じなので、20m×40mの広さです。今日は設置されてないですけど、サッカーでいうサイドラインにフェンスが立っていて、人やボールが外に出ないようになってます」

松岡「じゃあ、フェンスにぶつかりますよね」

加藤「そこでポジションを確認したり、ボールをぶつけて距離を測ったりもします。コート上で敵と味方同士がぶつかることもしょっちゅうです」

松岡「アイマスクで目隠しした状態で走ったり、フェンスにぶつかったり。(ボールを手に取ると、中からシャラシャラという音がする)しかも、頼りにするのはこのボールの音だけですか」

加藤「基本的にはそうです。日本の国内のルールでは、アイマスクをした選手(フィールドプレイヤー)が4人と、目の見えるゴールキーパーが1人いて、あとはベンチにいる監督と相手チームのゴール後ろに、フィールドプレーヤーにコースを説明するガイドの方がいます。目の見える3人が声を出してくれるので、自分たちが味方のゴールに向かって攻めちゃうとかはないですね」

松岡「今日はガイドできる方はいらっしゃいますか。せっかくだから、体験したいなと思って」

2人があうんの呼吸でドリブルを開始!

「じゃあ、宙のママ」。加藤さんがそう言うと、取材の様子を遠巻きに見守っていた宙さんの母親が手をあげた。普段から宙さんの練習に付き添っている光子さんがガイド役を担ってくれるという。まずは加藤さんと菊島さんがアイマスクをつけ、コートに足を踏み入れた。

加藤「じゃあ、お母さんはゴールの後ろに行ってもらって、僕たちが攻められるようにガイドして下さい。そこから『ゴール、ゴール』と声をかけていただいたら、ゴールまでの距離や進む方向がわかるので。『じゃあ、宙行くよ』」

 2人があうんの呼吸でドリブルを開始する。健人さんが「ハイ、ハイ」と自分の位置を知らせながらボールを運んでいくと、宙さんもそれに呼応するように前に進む。何度かパスを交わした後、宙ママの「ゴール、ゴール……、45度、18、6」の合図に合わせて、加藤さんがシュート。ボールは見事にゴールへ吸い込まれた。

「SFの世界のように感じられます」

松岡「(あ然として)今、目の前で起きたことがSFの世界のように感じられます。はっきり言って人間業じゃないです。今日は風もあるし、声も揺れていた。どうやってお互いの位置を把握しているんですか」

加藤「それは本当に練習してって感じです。お互いの声の信頼関係もありますし。試合では敵がいるからドリブルもゴールに向かってまっすぐには行けない。やっぱり練習が必要です」

松岡「今もヘリコプターが飛んでいきましたけど、周りには遮る音がたくさんあります。健人さんには宙さんや宙ママの声が線のように真っ直ぐに聞こえてくるんですか」

加藤「音の感じ方ですけど、僕は生まれつきではなくて途中から病気が原因で目が悪くなってしまったんですね。18歳くらいまでは普通に見えていて、サッカーもしていた。だから見えていなくても、声を出していただければだいたいの方角はわかります。さっきも『ゴール、ゴール』という声で、ゴールがあそこにあって、ボールも音がしているので足元にあるとイメージできる。だからまるで見えているかのようにボールを蹴ることができます」

松岡「健人さんには18歳までの記憶があるから、それを記憶の引き出しから出してイメージをしているということですか?」

加藤「実際には見えていないんですけど、見えているかのようにイメージはしてます」

松岡「だとすると、最初から見えていない視覚障害者の方はどうやってイメージをしているんだろう」

加藤「それはやはり人それぞれで、イメージの仕方は人によって違うと思います。あくまで僕の場合は、ボールの時はボールを見て、パスの時は人を見て、シュートを打つときはゴールを見てという感じでやってますね」

「なぜ見えているようにプレーができるんだろう」

松岡「宙さんは、視力はどうだったんですか」

菊島「私は生まれつきの障がいなんですけど、小さい頃は今よりもよく見えていました。今は視力検査の一番上の文字がぼやけて見える程度です。目の前に人がいたら、なんとなくいるなあってくらい。メガネをかけてもあまり変わらないです」

松岡「でも不思議なのは、今もそうだし、試合中は目隠しをしているから何も見えないわけですよね。それなのになぜ見えているようにプレーができるんだろう」

菊島「フフフ、なんでだろう。私も小っちゃい頃からサッカークラブには入ってました。ブラインドサッカーではなくて、普通のサッカーです」

「最初はみんなそう。僕も全然動けなかった」

松岡「お母さん、なぜ宙さんを普通のサッカークラブに入れたのですか」

菊島・母「お父さんがずっとサッカーをやってまして、今も宙のチーム『埼玉T.Wings』の監督をやっているんですけど、小さい時からよく試合を見にいっていたんですね。それで本人もサッカーに興味を持ったみたいで、『やりたい』と。当時はまだ視力も0.4くらいはあったので、やらせてみました」

松岡「その時の感覚が生きているんですね。でも、見えていた世界が見えなくなったんだから、そのギャップに戸惑うこともあったんじゃないかと思う。マイナスには捉えないんですか」

加藤「今までできていたことが何でできないのかなというのは、最初はありました。最初はみんなそうだと思うけど、僕も全然動けなかったので。

 宙も入ってきた当初は、壁の方に立っていて動けなかったよね」

菊島「サイドラインのフェンスに手をかけて、ボールが来たときだけ動く。そんな感じでした」

加藤「見えなくなってまず難しいなと思うのは、ボールを止めることなんです。普通なら、ボールを止めるのって経験者じゃなくても誰でもできるじゃないですか。それができない」

「もっと音が大きくないと全然わからない」

 自ら体験しようと、松岡さんがアイマスクを着ける。「僕の方にボールをパスしてください」。その言葉に従って、加藤さんがコロコロとボールを転がした。鈴のような音を鳴らしながらボールが転がっていくが、松岡さんはそれを華麗にスルーしてしまう。見るのとやるのとではやはり大きな違いがあるようだ。

松岡「もっと音が大きくないと全然わからない。ゴールボールはもう少しわかりやすかったです。体育館だし、ヘリコプターの音はしないし、距離感もだいたい想像ができます。地面に近いところにいるから、ボールが転がってくる音も聞きやすいんです。でも、サッカーは短いパスもあれば長いパスもある。僕もまっすぐに蹴ることくらいはできますけど、正直、試合にはならないと思います」

加藤「もちろん始めてすぐに試合に出るのは難しいですね。たとえば野球なら打ったら一塁へ走るのが決まっているけど、サッカーは自由に動き回れるので。突っ立っていてもダメですし、蹴った後にどこへ動くかは自分で考える必要がある。自由で楽しいけど、自由だからこそ難しいという一面はありますね」

松岡「正直、コートはもっと狭くても良いと思うんですけど、これはプレーヤーにとってちょうど良い広さなんですか」

加藤「各チーム4人、合計8人のフィールドプレーヤーが動き回っているので、これでもけっこうぶつかりますね。だから良い広さだとは思います(笑)」

「本来人間の能力はもっと無限にあって……」

「もう一度挑戦してみても良いですか」。そう言うと、松岡さんは再びアイマスクを装着した。ゴールのすぐ近くでパスをもらい、シュートを試みる。だが、1度目は空振り。2度目はなんとか足の裏でボールを止めて、シュートにも成功した。わずかな時間だったが、アイマスクを外した松岡さんの表情には困惑の二文字が浮かんでいた。

松岡「平衡感覚がなくなって、目が回ってきます。そして、すごく疲れる。何だろう。それだけ頭を使っているからかな。もうちょっとこのボールが大きな音を出してくれたら……。修造ボイスを内蔵したいと思いました。こんな僕でも練習をすればちゃんと蹴れるようになりますか?」

加藤「日本のルールでは、視覚に障がいのない人も一緒にチームに入って、アイマスクを着けて試合に出られるんです。健常者でゴールを決めている選手もいますし、みなさん練習すればボールを蹴れるようにはなります」

松岡「僕が今感じたのは、本来人間に備わっている能力はもっと無限にあって、それを使い切れていないんじゃないかってこと。目じゃなくて心で聞くとか。耳が持っている能力はこんなもんじゃないぞって、怒られているような気がしました」

加藤「基本的にひとは視覚から8割の情報を得ていると言われてますので、視覚に頼りすぎている傾向はあるかもしれないです」

松岡「そう考えると、健人さんや宙さんの方が間違いなく情報を捉える能力は高いですね。ブラインドサッカーって人の気持ちを感じないとできないし、自分の思いも上手く伝えないといけない。

 宙さんはこのスポーツをやり始めてから、自分がどう変わってきましたか? 相手の気持ちを察するのが以前よりうまくなったとか。これは、ちょっと難しい質問ですが」

菊島「えっ。変わってきた? う〜ん、ちょっとわからないです(笑)」

 宙さんが朗らかに笑ったところで、自然とブレイクタイムに入った。予定では室内に移動することになっていたが、松岡さんの提案でこのまま対談を屋外で続けることに。どうやら宙さんには、他の視覚障害者には真似できない特別な技があるという。健人さんと宙さんが再びコートに入り、そのドリブルを実践してくれた。

(構成:小堀隆司)

加藤健人かとう・けんと

1985年10月24日、福島県生まれ。ブラインドサッカー男子日本代表。埼玉T.Wings所属。小学校3年生のときにサッカーを始める。高校2年生のときに受けた視力検査で左目の視力低下が判明。その後レーベル病と診断される。高校卒業後、19歳のときに父親の誘いでブラインドサッカーを始める。競技を始めて1年目に関東リーグで新人賞を獲得、4年目の2007年、アジア選手権で初の日本代表入りを果たす。以後連続して代表に選出されている。

菊島宙きくしま・そら

2002年5月23日、東京都生まれ。ブラインドサッカー女子日本代表。埼玉T.Wings所属。先天性神経障害と先天性黄斑低形成の合併症により両眼が弱視(眼鏡やコンタクトレンズで視力矯正ができない)。小学校2年生からサッカーを始め、4年生のときにブラインドサッカーと出会い、6年生で埼玉T.Wingsに所属。2017年、'18年、'19年のブラインドサッカー日本選手権で3大会連続の得点王に。'17年に発足したブラインドサッカー女子日本代表チームのメンバーに選出され、数々の大会で最多得点をマークしている。。

文=松岡修造

photograph by Yuki Suenaga


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