ムードメーカー菅原由勢、という才。五輪代表&ELで「ポジティブ」に。

ムードメーカー菅原由勢、という才。五輪代表&ELで「ポジティブ」に。

 今でもあの時の姿が思い浮かぶ。

 6月4日、U-20ワールドカップ・ラウンド16韓国戦。

 スコアレスで迎えた84分。敗退に追い込まれる痛恨のミスを起こした菅原由勢は、試合終了後のホイッスルが鳴った後、なかなかピッチに倒れ込み、すぐにチームメイトの下へ近づくことができなかった。

 なかなか起き上がれず、起き上がった後も様々なことにいろいろなものに頭を巡らせているのかふらふらと歩き回る姿が印象的だった。

「悔しい気持ちがあるというか、ここで終わると思っていなかったというのが正直な感想です。僕はいろいろな思いを持ってこの大会に臨んでいたので、それが自分のミスから、と考えたら……。仲間の顔を見ることができなかったというのが正直なところでした」

 ただ、その姿よりも印象深かったことがある。試合後のミックスゾーンに出てきた時には、すでに気持ちを整えていたことだ。誰よりも悔しいはずなのに、堂々とした佇まいで決してネガティブな言葉を放ちはしなかった。

「自分がやってきたことは間違っていなかったと思う」

 その言葉を聞いて「芯の強い青年だな」と感じたことを覚えている。

AZ移籍で成長し、ELにも出場中。

 それから約5カ月。菅原の環境は劇的に変わった。

 U-20W杯の敗退から間もなくして、名古屋グランパスからオランダのAZアルクマールに移籍。開幕戦で右サイドバックとしてスタメンデビューを飾ると、その後も攻撃的な右ウイングのポジションと併用されながらコンスタントに出場機会を重ね、今ではUEFAチャンピオンズリーグに次ぐ欧州最高峰の舞台であるUEFAヨーロッパリーグ(EL)にも出場している。

 1つのきっかけで大きく物事が変わる世界ではあるが、その環境の変化についていくには強靭なメンタリティーも必要になってくる。そういう意味で、この状況を楽しめるのは菅原の確かな能力と言っていいだろう。

練習から常に死に物狂いで戦って。

「本当に環境は目まぐるしく変わっていますけど、いろいろな舞台を経験することによって、すごく楽しい中でやれている。例えばELとは言えど、あまり聞いたことがないチームがいて、そういうチームの選手は自分の名前を売るためにガンガン来ますし、自分のリーグとは違う戦い方、違うタイプの選手がいる。

 本当にいろいろな戦い方を勉強させてもらっているし、間違いなく自分の経験値になっているなと思います」

 海外に行ってサッカーへの意識も変わった。これまでは日本という枠の中で考えを巡らせていたが、海外を経験することで考えの幅が広がっている。

「サッカーに対する思いや勝負に対する思いというのは、やっぱり海外の方が強いと思います。練習から常に死に物狂いで戦って、という厳しさがあるので、そこはやっぱり違うなというのを感じていて。僕自身、そこの意識や勝負事に関するイメージというのは変わっているなと思います」

言われなくても「数字」は意識する。

 また、加入したチームも菅原の成長を助けている。海外では特に“結果”が絶対的な評価になるチームが多く、結果次第で立場が大きく変わるところがある。ただ、もちろんそこを重視した上で、AZでは他の面でも評価されるところがあると説明する。

「僕らのチームは“インテンシティ”や“ハードワーク”という言葉を一番大事にし、それをモットーとしているクラブなので、本当にハードワークできない選手は使われない。そういう意味では、本当にすごくいいクラブに入らせてもらったなと思っています」

 充実した表情で話す菅原に「本当に成長できるクラブに入ったんだね」と言葉をかけると「いや、もう間違いなくそう思います」と笑顔を見せた。そして続けて、いま自分の中で大事にしている部分を改めて強調した。

「でも、個人として上に行くためには間違いなく数字が必要になってくると思う。そこはあまりコーチやチーム内で言われていないけど、自分自身としては意識しています」

川口能活GKコーチもいじったり。

 ふと、この際、聞いてみようと思った。

 U-20W杯の際にネガティブな発言をしなかった理由を。すると、返ってきた言葉に菅原らしさが溢れていた。

「自分としては、自分の口からネガティブな言葉を吐き出すと、やっぱり自分のマインド的にもネガティブになってしまうという性格をわかっているんです。やっぱり自分の発する言葉というのはポジティブにしようというのは心がけていて、そうすれば自然と自分の内面的にもポジティブになってくると思う。そこは自分自身心がけてやっています」

 練習中にレジェンドである川口能活GKコーチをいじるメンタリティー。どの世代でもチームのムードメーカーになれる明るい性格。いつでも真っ直ぐな言葉のひとつひとつ。約5カ月経っても、やはり菅原は菅原だった。

コロンビア戦後も下を向かなかった。

 11月17日のコロンビア戦、東京五輪世代となるU-22日本代表の一員として右ウイングバックのポジションに立つ菅原の姿があった。U-20W杯の敗退後、様々な思いを胸に秘めながら歩みを進めてきた男にとって代表の舞台は“特別な場所”である。

「やっぱりああいう大きな舞台の悔しさというのは、自分が世界に出て晴らすしかないと思っていた。あの1本のミスでチームの大会を終わらせてしまったし、非常に重く受け止めていました。でも、やっぱりもう終わったことだし、次はA代表、この五輪というところで見返していければいいと思っていて、それを糧にしてここまでやってこられている。本当にあのミスひとつで、ここまでこられているなと思っています」

 勝利を目指して挑んだU-22コロンビア戦は、勝利をつかむことはできなかった。チームとしても散々なものだったが、自身としてもプレー面で変化をもたらせなかったことは悔しさが残った。

 ただ、菅原はやはり下を向くことなく、しっかりと事実を受け止めながら前を向いた。

「僕には間違いなく金メダルの思いが誰よりもあります。だから本当にこのままでは金メダルは確実に無理だと思う。厳しいことを言うようですけど、まだまだ全然ダメだと思います。東京五輪で金メダルを取るという確実に果たさなければいけない目標があるので、やっぱり全選手がクラブに戻って、そのために準備していく必要があると思います」

次は自分の力で勝たせたい。

 さかのぼれば、2017年のU-17W杯でイングランドに完敗を喫し、U-20W杯でも韓国に悔しい敗れ方をした。もうそんな思いはしたくない。国際舞台で栄光をつかむという思いだけは誰にも負けないという自負が菅原にはある。

「本当に誰よりも強いと思います。U-17では歯が立たないくらい完璧に負けてU-20では自分の個人的なミスで負けた。そういう不甲斐ない戦いが世界大会で、2大会連続で続いている。やっぱり次は自分の力で勝たせたいという本当に強い気持ちを持っています」

 雪辱を果たす舞台に立つその時まで、いまはオランダで研鑽するしかない。

 再びオランダの地に戻った菅原が、さらなる成長を遂げて代表に戻ってくることを期待してやまない。

文=林遼平

photograph by Getty Images


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