高校野球で無名→ドラフト上位指名。日本一の慶應大に見る逆転の要因。

高校野球で無名→ドラフト上位指名。日本一の慶應大に見る逆転の要因。

 明治神宮大会を制した慶応義塾大(以下、慶大)。大会前から優勝候補ナンバーワンに挙げられ、東海大学札幌キャンパス、城西国際大、関西大(以下、関大)を圧倒した強さは、近年の優勝校の中でも頭1つ抜けていた。

 ドラフト会議で指名された津留崎大成(投手・楽天3位)、郡司裕也(捕手・中日4位)、柳町達(外野手・ソフトバンク5位)の3人と、社会人へ進む高橋佑樹(投手)、中村健人(外野手)の4年が主力になり、来年以降も佐藤宏樹(投手・3年)、木澤尚文(投手・3年)、森田晃介(投手・2年)、正木智也(外野手・2年)などドラフト候補が続いている。この選手層の厚さは東京六大学リーグはおろか、全国的に見ても屈指と言っていい。

走力、長打力が備わっていた慶大。

 慶大でまず思い浮かぶのは走る能力の高さだ。

 2018年の東京六大学春季リーグ戦の対立教大(以下、立大)3回戦で、私が俊足の基準とする「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」を6人(計17回)がクリアしている。1試合のタイムクリアは3人いれば上々で、対戦相手の立大はわずか1人(計1回)だった。

 さらに慶大はこの試合で1〜9回までの全イニングで「4.3秒未満〜」をクリアしているが、これは'02年から計測をしている私でも初めての経験だった。このときの主力が2、3年生だったので、今年のチームにも足の速い選手が多かった。明治神宮大会決勝戦では、関大の3人(計6回)に対して慶大のタイムクリア達成者は5人(計6回)いたが、これは東海大札幌キャンパスが1回戦の大阪商業大戦で記録したのと並ぶ最多タイ記録だった。

 長打力も備えている。準々決勝の東海大札幌キャンパス戦では1回表に4本の二塁打などで6点を奪い、準決勝の城西国際大戦では1回裏、先頭の中村が先頭打者ホームラン、関大戦では1回表に郡司が2ランホームランで先制している。

先発、リリーフともに充実の投手陣。

 投手陣は慶大の最大の強みと言っていい。今季リーグ戦では先発の高橋と森田が2勝ずつし、リリーフの津留崎が3勝、石井雄也が2勝している。森田、津留崎、石井の特徴は球が速いことだ。城西国際大戦にリリーフした石井が147キロ、東海大札幌キャンパス戦にリリーフした津留崎が148キロを計測し、城西国際大戦に先発して5回を1失点に抑えた木澤は151キロを計測した。

 左腕・高橋は彼らほど速くはないが、関大戦ではスライダーを主体にしたピッチングで、7回終了まで1人の走者も出さないパーフェクトピッチングを披露した。ちなみに、この大会に出場機会のなかった森田と左腕・佐藤のストレートはすでに150キロを計測している。

“有名球児”ではなかった慶大の面々。

 ここまで各野手、投手の長所を紹介してきたが、慶大の最も大きな特徴は高校時代、有名でなかった選手が多いことだろう。

 これまで紹介した中で高校時代に知られた存在は郡司(仙台育英高)と柳町(慶応高)くらい。あとの津留崎、木澤、森田(いずれも慶応高)、中村(中京大中京高)、高橋(川越東高)、石井(慶応志木高)、佐藤(大館鳳鳴高)は、一部の高校野球ファンが知っている程度のネームバリューしかなかった。郡司、柳町にしても“有名球児”という冠はついていなかった。

 ドラフト候補だった有名球児をずらりと揃えた明治大、法政大、早稲田大、立大とは異なる選手構成でリーグ戦に臨み、'16年秋以降、2位→2位→1位→1位→3位→2位→1位と上位に君臨しているのが慶大である。

 だが、実はドラフトで指名されプロ入りするほとんどの大学生は高校時代、有名ではない。過去5年のドラフトを検証してみよう。

大学で飛躍し、指名された選手たち。

 '15年に指名されのちにチームの主力になった今永昇太(北筑高→駒澤大→DeNA1位)、多和田真三郎(中部商高→富士大→西武1位)、岡田明丈(大商大高→大阪商業大→広島1位)、茂木栄五郎(桐蔭学園高→早稲田大→楽天3位)は高校時代、いずれも有名な選手ではなかった。

 '16年の濱口遥大(三養基高→神奈川大→DeNA1位)、大山悠輔(つくば秀英高→白鴎大→阪神1位)、京田陽太(青森山田高→日本大→中日2位)、田中和基(西南学院高→立大→楽天3位)もほぼ無名の高校時代を過ごし、源田壮亮(大分商高→愛知学院大→トヨタ自動車→西武3位)、平井克典(飛龍高→愛知産業大→Honda鈴鹿→西武5位)の社会人出身組も高校時代は無名だった。

 '17年の東克樹(愛工大名電高→立命館大→DeNA1位)、神里和毅(糸満高→中央大→日本生命→DeNA2位)、高橋礼(専大松戸高→専修大→ソフトバンク2位)、'18年の近本光司(社高→関西学院大→大阪ガス→阪神1位)、上茶谷大河(京都学園高→東洋大→DeNA1位)、高橋優貴(東海大菅生高→八戸学院大→巨人1位)、甲斐野央(東洋大姫路高→東洋大→ソフトバンク1位)、松本航(明石商高→日本体育大→西武1位)も同様である。

エリートに負けじと切磋琢磨することで。

 高校時代から有名だった大卒選手は現在の球界では、亀井善行、菅野智之、小林誠司(ともに巨人)、高山俊(阪神)、野村祐輔、大瀬良大地(ともに広島)、柳裕也(中日)、石川雅規(ヤクルト)、東浜巨(ソフトバンク)、中村奨吾、井上晴哉(ともにロッテ)、有原航平(日本ハム)くらいである。

 そう考えると、無名の高校球児が進学先に選ぶのは名門の東京六大学や東都大学リーグ1部ではなく、地方や2部リーグの大学になるのは自然な流れなのではないか。広島経済大卒の柳田悠岐(ソフトバンク)、八戸学院大卒の秋山翔吾、富士大卒の山川穂高、外崎修汰(ともに西武)たちが、無名だった高校時代の鬱憤を晴らそうと、大学で必死になって野球に集中する姿を私は容易に想像できる。

慶大・大久保監督の育成法。

 ただし、慶大は東京六大学という名門リーグにいる。高校時代を無名で過ごした選手たちをプロ野球経験者の大久保秀昭監督は丁寧に育て上げてきたのだ。たとえば、ピッチャーの高橋佑樹と津留崎、バッターの郡司と柳町では、打つ形、投げる形がまったく違う。鋳型に押し込めない個性重視の選手育成法が彼らを見ているだけでよくわかる。だからこそ、慶大の試合は見ていて楽しい。

 この大久保監督が今年限りで監督を勇退し、そのあとを引き継ぐのはJR東日本を社会人屈指の強豪チームに生まれ変わらせた堀井哲也氏である。堀井氏も高校、大学時代を無名で過ごした十亀剣(西武)、吉田一将(オリックス)をドラフト1位でプロに送り出している。慶大の監督にはぴったりの人材である。

文=小関順二

photograph by Kyodo News


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