秋山翔吾が西武に残したスピリッツ。負けているときに、どう振る舞うか。

秋山翔吾が西武に残したスピリッツ。負けているときに、どう振る舞うか。

 10月29日、秋山翔吾が海外フリーエージェント(FA)権を行使し、メジャーリーグ移籍を目指すことを表明した。

 秋山は2010年のドラフト3位で八戸大から西武に入団。ルーキーイヤーからスターティングメンバーとして活躍し2015年にはNPB記録となるシーズン最多安打(216)を記録した。2017年には首位打者に輝き、2015年から2019年シーズンまでパ・リーグ初の5年連続フルイニング出場を果たしている。

 これまで、自身の作った記録との戦いが多かった秋山に、自分の記録を超える難しさについて尋ねたことがある。昨年、西武が首位でリーグ優勝に向けてひた走っていた最中だった。

「周囲やファンの方からすれば『ここで活躍してくれるだろう』とか『ここでこういうプレーを見せてくれるだろう』という思いがあって当然で、プロである以上、それはとてもありがたいことなんですけど、調子が悪いときは、自分が過大評価されていて、その周囲の期待と本当の自分に“ズレ”を感じるときもありますよ。自分に失望するときもあります」

主将として挑んだ2019年。

 2018年は夏場にかけて打率を落とし、なかなかチームの勝利に貢献できない時期が続いた。そんな最中の言葉だった。周囲の期待値が上がるほど、選手はその期待に応えようともがき、結果、期待通りの成績を残せば、今度はその、自分で上げたハードルとの戦いが待っている。野球を生業に選んだプロの厳しさを知った。

 そんな秋山が2019年シーズンはキャプテンとしてチームと関わることとなった。開幕前、秋山は「シーズンを戦う中で、主将であることを『しんどい』と感じる時期もくるかもしれない」と語っていた。では主将として過ごした2019年シーズンは秋山にとってどんな1年だったのだろうか。

 シーズン終盤、秋山はこう語っていた。

改めて感じた浅村栄斗の存在。

「キャプテンになったからしんどいという感覚は、正直あまりなかったですね。去年までは僕と浅村(栄斗・東北楽天)という世代がチームを引っ張っていて、その上に栗山(巧)さん中村(剛也)さんがいる形ができていた。その状況から、浅村という存在がいなくなったことはしんどかったかもしれません。浅村と僕は一軍で試合に出始めたのがほぼ同時期で、同じようにレギュラーになって、同じように試合を重ねてきましたから」

 秋山は2011年から一軍でレギュラーとなり、浅村もまた2010年に一軍初出場、2011年からレギュラーとなった。「僕らが若手と言われるようではダメだ」「僕らより下の世代がもっと試合に出ないと」と、2人でよく危機感を口にしていた。

「たとえ直接、成績について話をしなくても『アサ、しんどそうだな。打てなくて悩んでるのかな』とか『アサがしんどいときだってあるんだから、俺が打てないときもあるよな』と思える相手がいた。浅村が悩みながらも必死でプレーしている姿を近くで見ることができたのが、僕にとってけっこう大きかったんだなと改めて感じました」

 新たにレギュラーとなった森友哉や山川穂高にも当然、結果を残さなければならないというプレッシャーはあった。しかし、プロとして超えてきた壁の数や、成績を残してきた年数、経験という面では立ち位置が違った。

 そして、同じ悩みを共有するには栗山巧、中村剛也はチーム内でのキャリアが突き抜けていた。

源田らを誘った社会貢献活動。

「近年、栗山さんと中村さんを見ていると『あいつがやるならオレも打ったろう、クリが打つなら俺もやったろう』というお互いの思いが、いい刺激になっているんだろうなと感じました。中村さんと栗山さんはポジションも選手としての個性も全然違うけれど、そういうライバル関係になる選手がいるのは幸せなことなんですよね」

 今シーズン終盤から、社会貢献活動の場に源田壮亮や外崎修汰、金子侑司ら次世代の選手を誘ったのも、そういった様々な思いを引き継ぎ、栗山と中村のような「関係」を築いていってほしいという思いの表れだったのかもしれない。

シーズン中に発した秋山の言葉。

 今シーズン序盤は思わぬ不振で苦しんだ秋山だったが、チームに向けた思いは常に変わらなかった。今年4月、打撃不振に陥った秋山が試合後、いつものように室内練習場で打撃マシンに向かったあと、言った言葉が強く印象に残っている。

「去年、10年ぶりにリーグ優勝しました。移籍した浅村や僕、中村さん、栗山さんは3年連続Bクラス(’14〜16年)の苦しさを知っています。でも昨年のレギュラーメンバーは開幕から勝ち続けて、逃げ切ったという成功体験しかない。普通にやれば勝てる、何も変えなくても勝てるだろうと思っている可能性は高い。

 だけど、実は負けが込んだときにどういう振る舞いをするかが大事だと思うんです。そういう意味で、今年は若い選手がいろいろなことに気づいて、優勝し続けるためには何が必要なのかを知って、ライオンズが強くなるための礎になるシーズンになる気がするんですよ」

 結果、ライオンズは連覇を果たしたが、2年連続ファイナルステージで敗れ、日本一という夢は叶わなかった。ポストシーズンを勝ち抜くには、リーグ制覇とは違う強さが必要であることを誰もが痛感したシーズンだった。

「早くバント練習行ってこいよ」

 秋山が語るチームの理想像は明確だ。

「たとえばある選手がバントを失敗した。そういうときに先輩だけではなく、後輩が指摘できて、そういう雰囲気の中でも思い切ってプレーできるチームが理想です。自分にも人にも厳しくできる選手が出てきてくれればいいなと思います。

 僕はその姿勢を栗山さんから学びました。バントを失敗した試合のあとにウェートトレーニングをしていて怒られたこともありますよ。『なんでこんなところでトレーニングしてるんだ。早くバント練習行ってこいよ』って。その一言で僕は気づけた。それを言える選手がいないと、チームとしていちばん何が大事なのかを判断できなくなるんです。誰が抜けても、それを後輩が実践できるチームでなければいけない。そういうチームは強いし、だからホークスは強いんですよ」

 今こうして春先の秋山の言葉を振り返ると、チームへの置き土産であるかのようにも聞こえてくる。

 メジャーの数球団が秋山の獲得に向けて動いていると聞く。行く先はまだわからないが、これまでプロ9年間、自分の打ち立てた記録と戦い、チームのことを思って戦ってきた秋山が海外移籍を実現する可能性は高い。秋山のスピリッツをライオンズの選手たちはどのような形で受け継いでいくのか――。来季が楽しみである。

文=市川忍

photograph by Kyodo News


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