広澤克実と“PONY”の球数制限。練習や喫煙にまで踏み込んだ新提案。

広澤克実と“PONY”の球数制限。練習や喫煙にまで踏み込んだ新提案。

 10月17日のプロ野球ドラフト会議を終えて、この1年間を振り返るように改めてドラフト雑誌をめくっていると、ある選手が目に止まった。

 この秋のドラフト指名から漏れた東洋大の山田知輝外野手だ。

 彼をしっかり取材したことがあるわけではないのだが、聞き覚えのある名前につい手が止まった。

 山田は2014年、第86回選抜に出場した桐生第一のエースだった。2年生ながらチームを引っ張り、ベスト8に進出。2回戦の新庄戦では引き分け再試合を含め、2試合を1人で投げ抜いている。1回戦から準々決勝までの4試合で、451球を投げた。

 この時の山田のことは覚えている。

 圧倒的なボールで押さえ込んでいくピッチングスタイルではなかったものの、均整のとれた体格を使って綺麗なフォームで投げていた。今すぐにというより、彼が高校3年間をどう過ごし、その先でどう伸びていくのかが気になるタイプだった。

甲子園で力投した後に消えた投手たち。

 記事によると、山田は大学に入って右肩の状態が芳しくなく、投手を諦めて野手に転向。そして再びドラフト候補と呼ばれる選手になったという。

 おそらく今後、彼について「打者転向」で成功した逸材というストーリーが語られることはあっても、なぜ投手を諦めたかがフォーカスされることは少ないだろう。ましてや、甲子園の舞台で無茶な登板をしていたと語られる機会はほぼないと思われる。

 もっとも、彼だけが特別なケースというわけではない。

 これまでも数多の好投手が、山田のように甲子園の舞台で力投した後に表舞台から姿を消している。

 夏の甲子園で6試合で783球を投げて春夏連覇を達成したのちに相次ぐ怪我に見舞われてプロで活躍することができなかった投手のことも、県大会での登板過多がたたって甲子園でスローボールしか投げられなくなってしまった投手のことも、多くの人は忘れてしまうのだ。

高野連の球数制限への賛否両論。

 山田が投手を継続できなかった理由がセンバツでの登板だと断言することはできないが、過去を精査して前に進むことは必要不可欠だ。

 そして高校野球界は、いよいよ球数制限ルールを導入するようだ。今年4月に発足した「投手による障害予防の有識者会議」が答申を出し、来春の選抜から実施される。報道によれば「1週間で500球」という制限のようだが、これに賛否両論が渦巻いている。

 今や日本のアマチュアの野球界にとって、球数制限のルールは避けられない。高校野球ばかりが話題になるが、日本高野連に先駆け、いくつかの競技団体が球数制限を導入している。

 特に目を引くのが、一般社団法人日本ポニーベースボール協会だ。同協会はこのほど「SUPER PONY ACTION 2020」というプロジェクトを発表し、日本高野連よりはるかに「子供の未来を考えた」取り組みに着手する。

中学1年生は変化球禁止で60球。

 同プロジェクトは主に3つの項目からなり、それらは全て「子どもたちを守るため」のかなり厳しいルールだ。

 根幹を成す1つ目が「PONY Super Pitch Program」と題した投球制限だ。

 試合における投球数の限度を、中学1年生には変化球禁止を含む60球、中学2年生は75球、3年生が85球と設定した。その上で同日の連投および投手と捕手を兼任することを禁止。1日50球以上投球を行った場合、投手休養日を1日設け、3連投は不可。同一試合の再登板は1回だけ認めると言うものだ。

 さらに、練習における投球数についても投球目安として提示した。

 各学年の投球数は試合時と同じにして、1年生の週間投球数は180球(変化球は禁止)、2年生は210球、3年生は240球としている。

協会の理事長は広澤克実。

 高校野球より下のカテゴリーだからルールが厳しいように見えるが、世界基準に照らした厳しいルール化と言えるだろう。さらに同プロジェクトでは、国際標準バットの導入や怒号罵声の指導や応援、大人の喫煙ルールについてまで徹底して規定している。

 ある甲子園の優勝監督が、吸っているタバコの受け皿に缶コーヒーを部員に持たせて灰皿代わりにさせていたという話も耳にする。そうした指導者の排除など、ポニーリーグの「子どもを守る取り組み」を高野連も手本にしてほしいほどだ。

 この取り組みの中心メンバーとなったのは、元プロ野球選手の広澤克実氏(協会理事長)、スポーツ整形外科医で、トミー・ジョン手術の執刀医でもある古島弘三氏らだ。彼らが中心となって議論して作り上げた。

 同団体は、今後日本の球界内においても、大きな存在感を示していくのではないかと見ている。

 10月末のプロジェクト発表記者会見で広澤克実氏は「我々の協会は次のステップへの通過点。安全に次のステップに送り出すためにどのようなことが必要なのか。ドクター、いろんなデータに鑑みながら、子どもたちのために何ができるかと言う観点から投球制限という結論に至った」と経緯を語った。

怪我を治すことと、予防すること。

 同会見に出席した古島医師も補足してこう力説した。

「病院の方でデータを調べたところ、小・中学校時点で肘を痛めた既往歴を持っている選手の半数が、高校でも痛めています。小・中で一度も怪我をしたことがない選手と比べると、故障リスクは5倍くらいの違いがあります。

 スポーツ医学は、怪我をした選手の手術、リハビリをして元の状態に戻すという考えでしたけど、障害というのはすでにしてしまった怪我と違い、予防することができる。障害によって野球を諦めてしまう選手がどれくらい存在するかという実態は出てこないものですが、病院で治療していますと、こういう選手たちはたくさんいる。大人が守ってあげないといけない」

アマチュア球界の監視役を期待したい。

 ポニーリーグとは、Protect Our Nation's Youthの頭文字をとってPONYと言う名がついたアメリカ発の競技団体だ。その意味は「国の宝である青少年の成長を守る」だそうだ。

 その名前通りのプロジェクトに着手する彼らには、アマチュア球界の監視役と言う役割を期待したい。

 たとえば今年夏の沖縄大会決勝戦でも、興南のエース宮城大弥投手が200球以上を投げた。その宮城は沖縄のポニーリーグ出身の選手だと言う。ポニーリーグにいる間は守られていても、その先で潰されては元も子もない。

 同プロジェクトが進んでも、日本高野連が「1週間500球以内」というゆるい球数制限である限りは、これまでとさほど変わらない事態が起きていくだろう。

 先の山田のケースに照らし合わせれば、7日間で451球を投げた彼は新ルールが適応されても引っかからないのだ。

 広澤氏は「僕たちには、他の連盟に意見をしたり、野球界全体に何かを言うつもりはない」とあくまで自分たちのプロジェクトの成功をめざすと語っている。

 しかし、大きく異なる2つの理想を掲げる両者が今後どんな関係を築けるかは、ジュニア世代の野球にとって大きな意味をなしていくはずだ。

文=氏原英明

photograph by Kyodo News


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