秋の松山。

「侍ジャパン大学野球日本代表選考合宿」は、まさにサバイバル空間のオーディションである。

 今回参加の50人が、次回3月の選考合宿(神奈川・平塚)では30数名に絞られる。

 来春の各大学リーグ戦の結果次第でさらに候補は増えるから、実際の「競争率」はさらに高くなる。

 ならばこの合宿で絶対的な実力の違いを見せつけて、ライバルに水を開けておく。本来は、そんな意気込みでこの合宿を過ごさねばならない。

 みんながみんな、そんなメラメラしたものを発散させているわけではなかったのが勿体なく感じたが、それでも“凄み”を発しながらプレーしていた選手たちが何人かはいた。

 その筆頭が、中央大・牧秀悟内野手(3年・178cm93kg・右投右打・松本一高)。

「オレが牧だぜ」

 そんな空気を漂わせながら、他の打者とはひと味、いや、ひと味半ほど次元が違うバッティングを見せつけた。

 秋の東都一部リーグを制覇した中央大の「4番セカンド」。リーグ3位の打率3割6分1厘をマークしながら、ディフェンスでも無失策。MVPを獲得した貫禄が漂う。見られている自分……それを意識している唯一の選手に見えた。

内角速球への飛び抜けた対応力。

 全国の学生野球のレベルをリードするのは「東都」だ。そんな心意気があるならば、学生でもそれぐらいの“押し出し”があってよい。

 バットを構えた姿がまず違う。

 バットの重心の位置が変わらないから、重さを感じることなくミートポイントにポンと下ろしてくるだけ……といったようなシンプルなスイング軌道。加えて両腕の一瞬のたたみ込みが柔軟で、内角速球をさばく技術は、腕利きぞろいのこの合宿でも彼だけのオリジナリティだろう。

 東北の快腕・山野太一(3年・東北福祉大・172cm74kg・左投左打・高川学園)の141キロのクロスファイアーを、苦もなくライナーにしてレフト頭上へ持っていった。

雄大な体格だが機敏さも兼備。

 178cm93kg。筋肥大ギリギリに見えるシルエットだが、運動量豊富な「二塁手」のメカニズムにそんなに邪魔になっていない。

 二塁手前に高めのバウンドで緩いゴロが飛ぶ。

 勝負をかけた牧秀悟、全力ダッシュで打球にまっすぐ突っ込み、捕るなりほぼ真横の一塁手に短いスロー。二塁手の仕事としたら、最高難度のプレーだ。

 全力ダッシュの勢いがついた状態で、真横の一塁手に素早く、そして軽く投げる。送球はシュート回転するし、強く投げたら一塁手がスピードについていけない。そんな“気遣い”の必要な送球を、完璧な力具合のストライクスローできめた。

 私の頭にほんの一瞬、「浅村栄斗」がよぎった。

東北福祉大・元山に凄みを感じた。

 ショートのポジションでノックを受けていた4人の「候補」たち。

 上手いなあ……と思ったのは、九州産業大・児玉亮涼(3年・165cm63kg・右投右打・文徳高)と國學院大・小川龍成(3年・172cm72kg・右投左打・前橋育英高)の2人だ。

 この2人、打球に入っていくタイミングと、打球に対する距離感が、いつ見てもいい。

 打球のほうから彼らのグラブにすり寄っていくように見えて、なっかなかエラーしない。

 しかし“凄み”なら、遊撃手4人の先頭で、真っ先に打球にとっついて行った東北福祉大・元山飛優(3年・180cm78kg・右投左打・佐久長聖高)が抜けていた。

 ポーンと1つ小さくジャンプしてスタートを切る初動のスピード、リリースポイントで強烈にボールを弾くようなスナップスロー。あまりに猛烈な送球の勢いに、捕球する一塁手がオオーッと声をあげてひるむ。

 この2つの瞬間に、彼の“勝負根性”を見た。

 ただ選ばれるだけじゃない。圧倒的な差をつけて、真っ先に選考されることを心に決めている。そんなパフォーマンスだ。

「サニブラウンに勝った男」の野球力。

 前編で、「衝撃の出現」をレポートした獨協大・並木秀尊外野手。彼が、おそらく熱く意識していたであろう相手が、中央大・五十幡亮汰外野手(3年・172cm67kg・右投左打・佐野日大高)と見ている。

 中学時代の陸上全国大会で、100m、200m走で優勝。「サニブラウンに勝った男」とか言われているが、正直に言えば野球選手というよりは「陸上部からの助っ人」的な雰囲気かなと思っていた。

 この松山で、見る目が変わった。

 フルカウントから、スライダーに崩されながらしぶとくライト線に運んで三塁打にした“粘着力”。野球が上手くなったし、インパクトに破壊力が出てきた。

 ピッチ走法のスピードはもともと圧倒的だが、ダイヤモンドを四角く走る技術と、盗塁のスタートに見せかけるフェイントの上手さ……ここに来て、野球の実戦力がぐんぐん増している。

 見え見えのセーフティを三塁正面に転がしておいて楽々一塁セーフの走りには、「足の第一人者」としての意地があった。

 キミたちとは、ちょっと違うんだよ。一塁を駆け抜けてベースに戻っていくユニフォーム姿の背中に、そう書いてあるようだった。

これは人生を切り開くオーディション。

 野手に比べて、投手の「覇気」はちょっと物足りなかったか。

 わずかに、紅白戦3試合で真っ先にマウンドに上がった横浜商科大・藤村哲之(3年・180cm82kg・左投左打・愛工大名電高)と、猛烈な腕の振りからコンスタントに140キロ後半をマークした日本体育大・森博人(3年・177cm80kg・右投右打・豊川高)に、「コンチキショー!」の心意気を感じられた。

 みんな、欲がないなぁ……と思う。

 選り抜きの選手たちの中でプレーができて、それをネット裏からプロ野球12球団のスカウトたちがジッと目を凝らしている。

 こんなチャンスは、またとないのに……。

 この合宿は「ジャパン」に選ばれるためのオーディションじゃない。秋の終わりの「松山」に集う精鋭たちにとっては、自らの人生を、自分で切り開くためのオーディション。

 もっとそういう場であっても、よかったのかもしれない。

文=安倍昌彦

photograph by Hideki Sugiyama