金銭感覚が狂いそうになるけど、自分の財布の中を見て空しくなって我に返る。プロ野球のオフ取材あるあるだ。

 やった分だけ給料が上がる。夢のある世界だと言われるが、今オフもホークスはやはり破格だった。プロ野球ファンはそれぞれが“監督”とよく聞くが、ならば番記者は“査定担当者”だ。

 待ち時間のあいだにペラペラ喋ってはアレコレ値踏みをする。品がなく恐縮なのだが、そこそこ長く現場で取材をしていればある程度は当たるのだ。

 しかし、柳田悠岐と森唯斗の超大型契約には驚いた。

 柳田は2020年が3年契約の最終年だったが、新しく契約を結び直した。7年契約で1年目は現状維持の年俸5億7千万円プラス出来高。以降は変動制で、4年目が終了したところで残り3年の契約内容が決まるというものだった。

柳田に起こった気持ちの変化。

 柳田は「順調に行けば2020年に海外FA権を取得できたので、(元々の)3年契約でした」とメジャー志向だったことを明言したうえで、気持ちの変化も口にした。

「子どもの頃からプロ野球でやるっていうのが夢だった。その中で今、やらせてもらっている。小さい時を考えると幸せな舞台で野球をやれているわけですから」

 もし2019年シーズンの大きな怪我がなければ「こういう形ではなかったと思う。3年契約が終わってから考えようとも思った」とも話していたが、「僕は流れとか運命とか信じるタイプなんで、これが僕の人生なんです」と笑い飛ばした。

 そして、守護神の森だ。

 こちらは来季中に国内FA権を取得する見込みから、1億8千万円アップの年俸4億6千万円プラス出来高での4年契約でサインをした。これはホークス球団の日本人投手では過去最高額となる。

「先発>リリーフ」に一石を投じた。

 ネットニュースのコメント欄には賛否両論の声があった。その中に「エースの千賀(来季年俸3億円)より高いのか?」との書き込みも見られた。

 投手分業制が当たり前となった昨今においても「先発投手>リリーフ投手」の考えは根強く残る。そんな風潮に一石を投じた意味で、今回のホークス球団の“査定”は高く評価できるのではなかろうか。

 森と同日に契約更改を行った嘉弥真新也は3000万円増の年俸1億1千万円プラス出来高でサインをした。左腕の嘉弥真は'17年シーズン前にサイドスローに転向して以降の3年間で通算179試合に登板。主な役割は左打者を抑えるワンポイントリリーフである。他球団ではなかなかお目にかかれない高評価での契約となった。

 そういえば、ひと昔前の契約更改ではリリーフ投手から低評価の改善を訴える声が頻繁に上がっていたが、ここ数年の取材ではほとんど聞かれなくなった。

 ブルペンの力量がペナントの行方を左右する。

 ホークスはその重要性に気づき、評価もきっちり行う。損な役回りなどではないから、与えられたポジションで彼らは懸命に腕を振る。

故障者続出でも2位になれたのは。

 2019年シーズンを振り返れば、3年連続日本一になったとはいえ、2年連続でシーズン2位に終わった。選手の誰もが「どこか心の底から喜べなかった」と声をそろえる。

 だが、考えようによっては主力クラスに故障者が続出した中での2位確保はかなり健闘したといえるのではなかろうか。

 チームを押し上げたのはやはりリリーフ投手陣の安定ぶりだったと考えている。ルーキーながらチーム最多の65試合に登板した甲斐野央、4年目でブレイクをした高橋純平、大卒2年目で大器と期待の椎野新といった新しい顔ぶれの台頭がなければ、まったく違ったオフを迎えていたに違いない。

 2020年、ホークスは4年連続日本一とともにパ・リーグ優勝を強く誓って、また翼を広げる。

12球団新人最高額の3500万円。

 飛翔のキーマンに挙げたいのは甲斐野だ。

 先述どおりフル回転を果たした右腕はルーキーイヤーで2勝5敗26ホールド8セーブ、防御率4.14の成績を残した。「防御率が気になる」と甲斐野は頭を掻いたが、9月中旬のファイターズ戦で2試合計、2/3回で7失点を喫したことがあった。

“たられば”は禁物だが、その後の試合では立て直しに成功しており、この2試合の投球を除けば「3.10」と1点以上改善される。

 契約更改ではこの数字についても球団幹部は考慮したことを認めて、12球団新人選手では最高額となる3500万円増の年俸5000万円で来季契約を交わしている。

 ただ、やはり気になるのは「2年目のジンクス」以上に「疲労の蓄積」である。そこについて甲斐野は「肩を休めすぎず、軽めのキャッチボールなどは行っています。あとは柔軟性を上げるためのトレーニングなどをしています」と話した。大事なのはオフの過ごし方だ。その点で、1月の自主トレは最高の選択をしたといえる。

「森さんにお願いをして、グアムで一緒に練習をさせてもらいます。兄貴分としてではなく、プロの一流の選手と一緒にやりたいという思いで決めました」

 甲斐野いわく「なかなかマジメなことは言ってくれないですけどね(笑)」とはにかんでいたが、森に話を振ると「自分の伝えられることはしっかりと伝えてあげたい」とウエルカム宣言で応えていた。

奪三振率20の以上な数字。

 また、現時点では“無印”ながら、2020年シーズンに新風を巻き起こす選手も現れるだろう。

“育成の星”が頻出するホークスだ。2019年は周東佑京、2018年は大竹耕太郎だった。そして2020年の筆頭候補は、高卒3年目になる右腕の尾形崇斗だ。

 学法石川高校から育成ドラフト1位で入団。2019年シーズンは二軍公式戦で登板1試合のみだが、投げているボールを見るとそれが信じられない。とにかく三振を奪う能力に長けている。

 主に三軍戦である非公式戦では58回2/3を投げて86奪三振を記録。秋のフェニックスリーグでは計6試合8イニングを投げて被安打1、無四球の無失点18奪三振。じつに24アウトの75%を三振で取った。奪三振率「20.25」は普通お目にかかれない数字だ。

 その後は台湾で行われたアジアウインターベースボールリーグにも参戦し、10試合で防御率0.77、11回2/3を投げて23奪三振(奪三振率17.74)を記録した。

いまはまだ背番号120でも。

 これらの数字からわかるように、尾形もまたリリーフタイプの投手だ。

 2020年シーズンから一軍投手コーチを務める佐久本昌広コーチも「彼は努力を継続できるタイプ」とピッチングだけでなく内面も認める。尾形自身に話を聞いても「たとえば周りと一緒に走っても、他の人より1mでも長く走ろうといつも考えている。それが何かに繋がると信じています」と言って、「ちょっと昔気質なんです」と笑う。

 この言葉だけでも期待値が高まってしまう。

 今はまだ背番号120の尾形崇斗、ぜひ覚えていていただきたい。2020年シーズン、PayPayドームのマウンドで躍動していても何ら不思議ではない実力の持ち主だ。

文=田尻耕太郎

photograph by Nanae Suzuki