「勝たせてあげたかった。個々の能力に差があったけど、やりようによっては勝てたと思うから」

 今夏、ブラジルで開催されたジュニアユース年代の大会、日伯友好カップを終えて、鹿島アントラーズでアカデミーアドバイザーを務める小笠原満男は肩を落とした。どの年代においても、勝つことが飛躍的な成長につながるということを何よりわかっていたからだ。

 ピッチ上において、出場した鹿島ジュニアユースの選手たちとブラジル人たちには様々な違いがあった。特に3つのポジションにおいて、大きな差を感じたという。

「サイドでボールを持てば常に仕掛け切るドリブラー、必ずシュートまで持っていくストライカー、空中戦で必ず勝つべく全力で競りにいくセンターバック。どれも日本とブラジルにおいては差があった。スコアだけを見ればいい試合をしたと取れるかもしれないけれど、1つひとつのプレーを見ると大きな違いがあった」

 その差はどんな日常から生まれているのだろうか。

小笠原が驚いた「競争力」。

 日伯友好カップへの同行を終えると、そのまま現地に残り、フラメンゴ、サンパウロ、バスコ・ダ・ガマ、フルミネンセ、パルメイラスと、5つの強豪クラブを視察した。小笠原の貪欲に学ぶ姿勢は、アテンドしたスタッフが「これまでも多くの視察をアテンドしたけれど、ここまでずっと見続ける人は初めて」と驚くほど。施設見学と合わせ、3日間で様々なカテゴリーの計16チームの練習を視察した。

「いろいろな話を聞いてものすごく勉強になった。一番すごいなと思ったのは、競争力だね。ブラジルのチームは、2カ月に1回とか定期的にセレクションをして、選手を入れ替えている。プロみたいだよね。毎回10人くらいがテスト生として練習に参加して、合格した選手の数だけ、もともといた選手が“明日からもう来なくていい”と告げられる。これこそ競争力を生んでいる環境だと感じた」

 いつクビになるかわからない。テスト生として、ライバルたちがどんどん練習に参加してくる。そうなれば、選手たちが解雇にならないよう必死で練習する状況が生まれ、その競争が選手たちの能力を引き出すことにつながる。

「なかには親が子どものサッカーの成長のために、自分の仕事を辞めて一緒に練習しているという話も聞いた。子どもがサッカー選手になれば、家族を養ってくれる。親が働くことに時間を費やすのではなくて、子どもに養ってもらおうという考え。そこまでやるのもブラジルらしいなと思うよね」

絶対にプロになるという覚悟。

 生き残り競争がとても激しく、トレーニングは誰もが真剣で、インテンシティが高い。技術がないと通用しないため、全体の技術レベルも高まっていく。

「なんとなく日本では、“プロのサッカー選手になれたらいいな”くらいの感じだけど、絶対にプロの選手になるんだという覚悟があった。“努力する”ということに関してはブラジルの方が圧倒的に上。やっぱり練習の回数や時間が多い。日本の子どもたちは、スクールとかを見ていても、練習時間ギリギリに来て、終わってすぐに帰る。家の前でも練習していればいいけれど、やっぱりうまくなる子どもは、少しでも早く来てボールを蹴ったり、ドリブルの練習をしたりしている。やっぱりそういう選手が上にいくと思う」

 小笠原自身、競争によって自らの力がついたと実感している。中学年代から日本代表を経験し、プロ入り後も日本代表やブラジル代表がそろうアントラーズで厳しい競争を強いられた。

「やっぱりアントラーズは優勝しないといけないクラブ。そのために、毎年その年代の日本一の選手が加入してくる。試合に出られるようになっても、また強力なライバルが加入して、イチから競争。その繰り返し」

育成の目的はトップの選手を生むこと。

 ブラジルでは、13歳までは個の技術向上に重点を置いていることを知った。フットサルとサッカーをそれぞれ週2回ずつやりながら、土日は試合をして、空き時間には公園で練習。サッカーに打ち込むのは14歳からが多いという。

「13歳までは戦術どうこうではなく、攻撃はドリブルでかわしたり、ボールを取った、取られた、抜いた、抜かれたにこだわる。守備も入れ替わったらダメではなく、まずは奪いにいかせる」

 育成における目標は、トップで活躍する選手を生み出すこと。チームとしての勝敗も大事にしながら、ブラジルでは本質となる個の技術や能力を高めることに注力する。小笠原自身、引退後は小学生年代からトップチームまで幅広い世代のサッカーを見るようになり、今の日本サッカーに感じることがあった。

「きれいにワンタッチ、ツータッチでパスを回すことが多い。ポジションをどこに取って、というサッカーをやり過ぎているので、ドリブルをする選手も少ないし、守備でボールを奪いにいける選手も少ない」

“個が育っていない”。

 今や世界中のサッカーを見ることができる時代になった。それによって、現場では流行りのサッカースタイルや特定の監督を真似て、ポゼッション練習やビブスを多く使った練習が増えてきた。その方向に小笠原は警鐘を鳴らす。

「個人的には“個が育っていない”と感じている。もっと人にフォーカスをして、技術的なところに力を入れた方がいい」

 ブラジルでは、練習メニューから違った。フェイントやターンの練習を取り入れる。個の技術向上に特化していた。

「試合前も、日本のチームはポゼッションのトレーニングをしていたけど、ブラジルのチームはリフティングゲームやサッカーバレーをしていたり。8月の上海遠征に同行したときは、ウォルバーハンプトン(イングランド)が決勝の試合前にサッカーテニスをやっていた。どこのチームにも共通していたのは、基礎技術のトレーニングをしっかりやっていたこと。日本はそこが圧倒的に少ないと感じた」

 ボールを止めて、蹴る。基本的な技術がなければ、ポゼッションサッカーをやりたくても、パスは回らない。だからこそ、小笠原は個にフォーカスした練習が大事だと説く。

「基本の反復練習って、どうしても地味なもの。やっていてもおもしろくないかもしれない。でも、やっぱりそういうのを日常からコツコツ頑張ることが大事だよ」

「どれだけ熱くなれるかだよ」

 個の能力が突出した選手を育てるために。ポイントは、どれだけ熱を持てるかだと考ている。

「ブラジルではボランチの選手が相手を背負った状態でも前を向くし、1対1で抜きにいく。相手のマークをはがしてチャンスを作る。そういう選手を育てていかないといけない。パスばかりやっていても、結果として変わらないんじゃないかと感じた。練習だろうが、紅白戦だろうが、クラブワールドカップだろうが、ブラジル人は、いつもどこでもみんなが本気で取り組む。どれだけ熱くなれるかだよ」

 ブラジルで感じた競争力を、いかにアントラーズアカデミーに落とし込んでいくか。ブラジルで感じた熱を、いかにアントラーズに伝えるか。頭のなかは、〝勝つためのヒント〟でいっぱいだ。

文=池田博一

photograph by Hirokazu Ikeda