年末年始恒例、NumberWeb版“プロ野球・ゆく年くる年”。全12球団の今シーズンの振り返りと新シーズンへの期待を綴る短期集中連載シリーズです。
 最終回は2019シーズン、セ・リーグ最下位に終わった東京ヤクルトスワローズ。高津新監督を迎えて挑む今季のキーマンは、昨年大ブレイクしたあの男でしょう。

 年が明けて、2020年はオリンピックイヤー。

 何かとスポーツの話題はそちらの方に奪われがちになるのだろうが、プロ野球界にも楽しみな存在が何人もいる。

 中でも、ヤクルト・村上宗隆のプロ3年目の動向が今から楽しみで仕方ない。

 昨年の「村上宗隆」の豪打ぶりは強烈な印象を残した。

 143試合、つまりペナントレースの全試合に出場して、リーグ3位の36本のアーチを描き、チーム2位の96打点をマークして、184三振はダントツで両リーグNo.1だったが、四死球だって79。シーズン出塁率は0.332。ただの「一発屋」なんかじゃなかった。

 1年目のイースタンで、17本塁打を奪っていた村上宗隆。

 なんだか縁があって、見に行った試合でいつも放り込んでくれたみたいに4本のホームランを直に見せてくれたが、その4本ともが「打った瞬間……」という文句なしの大アーチ。

 そんな“驚弾”をぶっぱなしておきながら、ろくにその軌道も追わずに、当たり前のような顔でダイヤモンドを回り、打たれた投手も、打球を振り返りも悔しがりもしない。

 そりゃそうだ、うかつな失投をやられたわけじゃない。追い込んだ後の、渾身の「勝負球」を弾き返されていた。完全な「力負け」だったからだ。

清宮幸太郎とのタイプの違い。

 ホームランを打つのが、普通のことなんだ……。

 昼になればメシを食うように、当たり前のこととしてホームランを放つ。ホームランを打つために、プロ野球に入ってきたヤツ。

 そんな“匂い”を強烈に感じ取ったものだ。

 一昨年、同期の清宮幸太郎(早稲田実→日本ハム)のことを「稀代のアベレージヒッターの逸材」と書いたことがある。

 彼が100弾近く打っていた高校野球の最後の頃だったから、ずいぶんと“異論”をいただいたものだ。

「稀代のアベレージヒッターの逸材」と書いた理由ははっきりしていた。

 清宮幸太郎選手の打ち損じが、“前後”がずれたものだったからだ。

 投球の軌道にバットを入れていく、つまり投球を線で捉えるバットコントロールの技術は天下一品。その分、打ち損じるのはタイミング的に詰まるか、泳がされるか……つまり、ミートポイントを前後方向で間違えた時だ。

 したがって、打ち損じは凡打になる可能性が高く、三振の数はそれほど多くならない。

村上のスイングは、タイミングが合えばこそ。

 一方の村上宗隆はどうか。

 とにかく、バットが振れる。振る意欲もあふれんばかりだし、振り抜くエネルギーは有り余るほど。

 あれだけ思い残すことなく、豪快に振りまくったら、さぞ気持ちがいいだろうなぁ……と、現役時代は三振が怖くて、当てにいくようなスイングしかできなかった“ヘボ”としては、嫉妬するほどうらやましい。

 あれだけ振れるのは、タイミングが合っているからだ。タイミングが合っていなくては、あれだけ決然とバットを振ることはできない。これは、一度でも野球をしたことがある者の「共通実感」であろう。

 ただ、「フルスイング」が思い余って、踏み込みが大きくなり過ぎることがある。

 歩くときと同じで、大きな1歩を踏み出すとどうしても腰の位置が落ちる。スイングも、踏み込みが大きいと腰が落ちる。腰が落ちれば頭の位置が下がり、目の位置も下がるから、タイミングは合っていてもボールの“高低”を間違えて空振りが増え、凡打より三振が増える傾向になる。

 それが、2019年のセ・リーグダントツの「184三振」という“偉大な記録”につながったともいえる。

スイングの特徴はシンプルさ。

 清宮幸太郎選手だって、すばらしくバットが振れる。やはり、タイミングを合わせるのが上手い。

 清宮幸太郎と村上宗隆との違いは、インパクトまでの全身の連動に回り道があるかないか……その違いだ。

 清宮選手には、振り始める前に、バットヘッドが投手方向に入り過ぎたり、ヒッチが挟まったり、一般論でいう「余計な動作」がある。本人は、そこでバットを振り出すリズムを作り、タイミングのきっかけを作っているのだが、それが打ち損じの原因にもなる諸刃の剣となって、投手のレベルが上がった時に、慣れるまでに少々時間を要す。

 村上選手にはそうした雑味がなく、素直に構えてサッと振り抜いて、ほとんど作ったところがない。投球にタイミングを合わせやすいシンプルさが、村上宗隆のスイングの特徴だ。

ヒットが36本増えれば3割打者。

 1年目、2018年の村上宗隆はどうだったのかというと、イースタンの98試合で17本塁打をマークして、打率も0.288。3割近いアベレージも、ちゃんと残している。

 ならば今年2020年のシーズンに、村上宗隆が1年目のイースタンと同じ打率まで精度を上げるために、昨年の118安打に何本上乗せすればよいのか。計算してみたら、「29本」と出た。

 昨年は143試合のフル出場だから、昨年ベースでいえば、およそ5試合に1安打増やせば、「0.288」に乗る。

 そんなもんか…と素人考えで、ちなみに3割超ならあと何本なのか? もう一度計算してみた。

 去年の安打数に「36本」上乗せすれば、3割を超える。つまり4試合に1本増やせば、村上宗隆はプロ3年目で「3割打者」だ。計算上は、そうなる。

 高校からプロ野球に入って、まだ19歳で過酷なペナントレースを全試合全うした心身の強靭さ。いとも簡単にアーチを描くバッティングのパワーと同様、すばらしい資質を持って、今季は、どんな「上乗せ」を見せてくれるのか。

文=安倍昌彦

photograph by Kyodo News