今オフMLB移籍を目指した3人のNPB野手。ポスティングでDeNAの筒香嘉智がア・リーグのタンパベイ・レイズに、海外FAの西武・秋山翔吾がナ・リーグのシンシナティ・レッズに移籍が決まった。その一方でポスティング移籍を希望した菊池涼介は断念した。

 この結果を予想する向きもあったが、3人の明暗を分けた理由としては、シンプルないくつかの指標を使って説明できる。

MLBでは長打を求められる中で。

<(1)IsoP(純粋な長打率)>

 長打率(塁打数÷打数)には、打率が含まれている。打率を含まない長打だけを見るにはIsoP(Isolated power)という指標がある。「長打率−打率」という単純な計算式だが、セイバーメトリクス系の重要な指標だ。

 筒香、秋山、菊池の過去5年通算のIsoPと2019年のMLBの平均値を比較しよう。

筒香嘉智 .266(長打率.564 打率.298)
秋山翔吾 .176(長打率.497 打率.321)
菊池涼介 .121(長打率.388 打率.267)
MLB平均 .183(長打率.435 打率.252)

 フライボール革命全盛の現在、MLBの野手は打順のいかんにかかわらず長打が求められる。この数字が.200を超えれば中軸打者といえる。

 2019年ア・リーグMVPのエンゼルス、マイク・トラウトのIsoPは.354(長打率.645 打率.291)、同僚の大谷翔平は.219(長打率.505、打率.286)だった。

 NPB選手はMLBに移籍すると「小型化」するのが常だが、それにしても筒香の.266は魅力的な数字だ。秋山翔吾はMLB平均よりやや下だ。しかし、それでも通算平均打率.321は捨てがたい。

 これに対し菊池のIsoPは、MLBのレギュラー野手としてはやや難しい数字だ。MLB平均は.183だが、NPBの平均値は.139(長打率.391 打率.252)だった。MLBのほうが長打がかなり多いことがわかる。

 MLBの野手は、NPBの野手以上に長打が求められていることがここからもわかる。

四死球による出塁率を比較すると。

<(2)IsoD(四死球による出塁率)>

 当コラムで何度か触れているが、MLBではセイバーメトリクス研究家のボロス・マクラッケンが「本塁打を除く安打は打者の実力とは関係のない“運の産物”」と唱え、この説が野球ファンに多く知られるようになって以来、安打と打率の評価が低下している。

 それ以上に、自らの選球眼で塁を得ることのできる四球のほうが、選手の能力を表しているとされるようになった。

 ただし従来の「出塁率」には、安打による出塁=打率が含まれている。そこで四死球だけの出塁率IsoD(Isolated Discipline)が考案された。これも「出塁率−打率」という単純な計算式だ。以下、3人のIsoDの比較である。

筒香嘉智 .103(出塁率.401 打率.298)
秋山翔吾 .078(出塁率.399 打率.321)
菊池涼介 .048(出塁率.315 打率.267)
MLB平均  .071(出塁率.323 打率.252)

 この数値が.100を超えると選球眼が素晴らしい打者ということになる。選球眼はNPBの選手がMLBに移籍しても大きく変わらないと考えられているので、IsoP以上にIsoDは重要視される。それを踏まえると筒香のこの数字は立派だ。

 ちなみに2019年のマイク・トラウトのIsoDは.147(出塁率.438 打率.291)だった。大谷翔平は.057(出塁率.343 打率.286)。大谷はこの数値では飛びぬけているとは言えない。

積極打法はMLBだと評価されない?

 筒香と秋山の出塁率はどちらも4割前後だが、秋山のIsoDは、MLBの平均よりも少し上という程度だ。そして菊池の数字は、やはり見劣りしてしまう。

 2019年のNPB全体での数値は.073(出塁率.325 打率.252)。MLBとほとんど変わらないが、NPBでは四球を選ばず早いカウントから打っていく打者を「積極打法」と評価する見方がある。菊池はそういうタイプの打者だが、MLBではあまり評価されない。

“投資対象”としての年齢を見る。

<(3)2020年開幕時点での年齢>

筒香嘉智 28歳
秋山翔吾 31歳
菊池涼介 30歳
MLB平均 27.9歳

 MLB平均は、2019年閉幕時点で30球団の野手平均年齢から割り出したもの。

 MLB各球団の選手獲得は、一種の「投資」だ。この先何年、チームに勝利をもたらしてくれるかを勘案して選手と契約を結ぶ。当然、実力があって若い選手と契約をしたほうが投資を回収しやすくなるため、年齢は非常に重要な指標になる。

 筒香は2020年シーズン開幕時点で、MLBの平均年齢とほぼ同じ。決して若くはないが、ここから投資を回収することは十分に可能だ。

 秋山、菊池はMLB球団に入団した時点で「ベテラン」の域に入る。MLBでは35歳を超すと大型契約は難しくなるし、単年契約にしてもその額も下がる傾向にある。それだけに「目の前の数字」が求められることになる。ちなみに2020年開幕時、マイク・トラウトは28歳、大谷翔平は25歳だ。

 もちろんこれらの数字だけではないが、MLB球団は、NPBにおける様々なデータを勘案して筒香、秋山と契約し、菊池とは契約しなかったことになる。

持ち味である守備力と犠打は……。

 NPBで菊池のプレーを見てきたファンとしては「菊池には守備力と犠打があるだろう」と言いたいところだろう。

 確かに菊池の二塁守備は驚異的な守備範囲だ。2017年WBCでもそのアクロバティックな守備は世界を驚かせた。しかし守備力は打撃と異なり、他の選手と大きな差がつきにくい。

 プロの二塁手であれば、1000個の打球が飛べば980個以上は処理するのだ。守備力の差はシーズンで見ると5〜10個程度のアウト差でしかない。もちろん守備範囲や連係プレーなど他の要因も付随するが、MLBには“守備だけ”なら菊池に匹敵する野手はいるのだ。そのため差がつくのはどうしても「打撃」ということになる。

 また2019年のMLBで犠打は、4858試合で776個しかなかった。6.3試合に1個である。一方、NPBは1716試合で1119個。1.5試合に1個だから、出現頻度が全く違う。犠打の巧拙はMLBでは重要視されない。

 3人の移籍をめぐるMLBの評価は、いろんな意味でMLBとNPBの「野球の質」の違いを浮き彫りにしてくれた。

米挑戦を目指す西川遥輝の数字は。

 最後に少し気が早いが、2021年に向けてポスティングでのMLB移籍に挑戦することを表明した日本ハム、西川遥輝のこれらの数字も出しておこう。これも過去5年の実績から。

西川遥輝
(1)IsoP .109(長打率.400 打率.291)
(2)IsoD .096(出塁率.387 打率.291)
(3)年齢 28歳(2021年開幕時点)

 来年の時点でも西川はまだ20代だし、.100近いIsoDは魅力だ。さらに高い盗塁成功率(.866)も売りにはなるだろう。ただし本塁打のキャリアハイがわずか10本という長打の少なさが大きなネックになるだろう。2020年の西川はホームランを打てることを証明する必要がある。

 いずれにせよ、NPBからMLBへの「人材流出」は、新しいフェーズに入ろうとしている。これまでは「憧れの先輩選手の背中を追いかけて」海を渡ったが、今の選手は現実的なステップアップの選択肢としてMLBを志向するようになっている。

 トップクラスの選手が「MLB移籍」を視野に入れるようになれば――自ずとNPBの野球も変化せざるを得ないのではないか。

文=広尾晃

photograph by Hideki Sugiyama