「王国復活の使者」と「絶対王者」。

 第98回全国高校サッカー選手権大会決勝。静岡学園vs.青森山田の一戦は、コツコツと積み上げてきた確固たるスタイルを持つチーム同士の対決だった。

 お互いに絶対になくしてはいけない信念がある――。

 静岡学園は現在、コーチとして指導する井田勝通前監督が40年以上前から「今ではなく、10年後、さらにその先の姿をイメージするために、技術を磨かないといけない」と『リズム・テクニック・インテリジェンス』をスローガンに徹底して個のスキルを磨き上げてきた。

 井田氏の教え子である川口修監督が、コーチとして12年経た後の2009年に監督に就任すると、そのスタイルを継承しつつ、技術をより試合で発揮するためのエッセンスを注入。脈々と「静学スタイル」を育んできた。

選手たちに勝ち方を考えさせる。

「基本的にずっとコンセプトは変わっていない。選手として上のステージに行ったときに何が必要かと考えると、やはり技術なんです。ただ、技術を身につけただけではいけない。技術をしっかりと試合で使えるようにしないといけないので、相手と駆け引きをして、相手と戦況を見る目をいかに養えるか。相手を見て、自分で判断できるようになることで、それに適した技術を使うことができる。それは今年のチーム、毎年徹底してやった。

 僕が常々思っているのは、相手が青森山田だろうが名古屋グランパス(U-18)だろうが、清水エスパルス(ユース)だろうが、我々が自信を持った確固たる武器を持っていれば、絶対に相手を倒せるんです。我々、スタッフがやるべきことは、勝ち方を教えるのではなく、選手たちに勝ち方を考えさせるように仕向けること。そのために自分の特徴、使える武器は教えていく。つまり相手を倒すためのテクニックの使い方を教えることが大事だと思っています」(川口監督)

やりたくないことを我慢できるか。

 一方の青森山田は、黒田剛監督が「ゴールを隠す守備」と表現する1対1の個の強さと守備のスライドの速さ、そして素早い攻守の切り替えからの個の技術を生かしたカウンターが持ち味にしてきた。

 だが、これを具現化するためにベースとなるのが、技術ある選手たちが最後までハードワークし続けられるフィジカルと精神力を持っていることだ。

「この間も選手に言ったのですが90%くらいで『ここまで戻らなくてもいいや』とか、『自分だけならいいだろう』という気持ちの選手が11人中11人いたら、トータル110%チーム力が失われる訳で、実質1人退場した時よりもダメージが大きい。そういう時に失点する。常に『その気持ちが一番危険なんだ』ということを伝えてきましたし、決してウチは強くはない。

 だからこそ、本当にやりたいことをやるためには、やりたくないことをどれだけ我慢してやり抜けるか。ボールを奪う攻防で一歩も引かないなど、一番疲れることを前面に押し出しながら戦うことで、必ず光が見えてくる。プレミアリーグでJクラブユースに勝って優勝できたのは、一番やりたくないことをやり続けたチームが我々という証なんです」(黒田監督)

 お互いがこだわりとプライドを持って育んできたスタイルが、5万6025人の大会史上最多の観客が見つめる中で、真っ向から激しくぶつかり合った。

普通のパスワークでは崩せない。

 準決勝後に川口監督は、決勝のポイントをこう口にしていた。

「青森山田は普通のパスワークでは崩せない。ドリブルでこじ開けられればチャンスはあると思うが、それも簡単ではないと思います。やはりただドリブルで突っ込んでいくだけでは簡単に引っ掛けられるので、もう1人、2人が絡みつつ、相手のディフェンスを倒しに行くという発想がないといけない。1人だけで突破しようとしてもできないので、そこで1人、2人、3人と『倒しに行く』発想で、意思の強い選手が連動することで倒せると思っています」

 前半の静岡学園は青森山田の激しいプレスと前への圧力を前に、ドリブルに対しての連動性を持つことができなかった。

 トップ下の武田英寿が何度もスプリントでアップダウンを繰り返し、守備時は強烈なプレスバックを仕掛け、攻撃時はボールを集約してサイドや裏に供給。そこから足を止めることなくゴール前に飛び込んでいく。1年生の松木玖生もアタッキングエリアとミドルゾーンを広範囲でカバーし、守備は2年生CB藤原優大を中心に声を掛け合って、ゴールを隠す守備を体現する。前半は完全に青森山田ペースだった。

 静岡学園のドリブルを分断しながら、11分には得意のセットプレーで先制点を掴んだ。左FKからMF古宿理久が正確なボールをニアサイドに送ると、藤原が高い打点のヘッドを叩き込んだ。

 さらに33分にはカウンターからFW田中翔太がドリブルで運び、ペナルティーエリア内左のスペースに飛び込んだ武田へスルーパス。飛び出してきた静岡学園GK野知滉平が武田を倒し、PKを獲得。これを武田が冷静に決めて、青森山田はあっという間にリードを2点に広げた。

前半終了間際の1点で戦闘モードに。

 このまま青森山田が押し切る雰囲気が漂い始めたが、静岡学園はここから息を吹き返す。

「監督からは『青森山田が相手なので失点することはもう仕方ない。失点したことを気にするのではなく、1点でも多くこっちが点を取ることが重要だ』と言われていたので、下を向くことはなかった。相手の動きが分かってきて、『じゃあ、自分たちの良さを出すにはどうすればいいか』と全員が考えられるようになった」

 右サイドバックの2年生・田邉秀斗が語ったように、徐々に選手たちが大観衆の決勝という舞台と青森山田のサッカーに慣れてきたことで、顔が上がるようになっていった。

「逆転できないことは絶対ないと思った」(静岡学園・松村優太)

 静岡学園のテクニックが徐々に力を発揮し始めると、前半アディショナルタイムに右FKからの混戦から守備の要であるDF中谷颯辰が1点差に迫るゴールを決めた。

「前半は我々のサッカーができなかった。でも失点しても動揺しなかったし、徐々に相手のパワーや寄せるスピードがインプットされて、『この距離感のプレスだったらドリブルで剥がせるな』『この距離感だったらパスだな』と理解できるようになった。そこに前半で1点を返せたことで、選手がさらに落ち着いて、『もう1回行くぞ』という戦闘態勢に入った。よりファイティングポーズをとって襲いかかることができた」(川口監督)

攻撃的なMF草柳の投入。

 後半、風向きはさらに変わった。すると、川口監督は勝負に出た。

 今年のチームの中盤の中で高い守備を誇り、アンカー的な役割を担っていたダブルボランチの一角MF藤田悠介に代えて、攻撃的なMF草柳祐介を投入。草柳を左サイドハーフに置き、左サイドにいた小山尚紀を中央に移し、中央にいた浅倉廉をボランチに落とした。これにより井堀二昭と浅倉という『超攻撃的ダブルボランチ』にすることで、選手たちは「打ち合いを制してこい」という川口監督からのメッセージを受け取った。

「やりきれという合図だと思いました。これでみんなのスイッチがさらに入った」と田邉が語ったように、小山、浅倉、井堀が中央からドリブルで仕掛け、ラインを押し下げる。青森山田が食いついてきたときには右サイドの松村、左サイドの草柳に展開し、さらにドリブルで侵入していく。この仕掛けの連続が青森山田に対し、ボディーブローのように効いていく。

 61分、静岡学園は自陣からのビルドアップから、相手陣地で1分近くボールポゼッションし、左サイドを駆け上がった草柳に展開。草柳はタッチライン沿いでボールを受けた瞬間、左サイドバックの西谷大世の動きによって空いたスペースを見逃さず、中央に向かって斜めにドリブルを開始。相手DFが食いついてきた瞬間を見逃さず、ワントップのFW加納大へスルーパス。青森山田のCB藤原の前に入り込むと、加納は落ち着いて前を向き、細かいステップから反転して左足を一閃。ついに静岡学園が同点に追いついた。

 このゴールで会場の雰囲気も一変。一気に流れは静岡学園に傾いた。

鹿実との両校優勝以来。

 85分、左サイドでボールを持った小山が、寄せに来た青森山田の田中と武田の間に割って入るドリブルを仕掛けると、ファールを誘って絶好の位置でFKを獲得。井堀の右足から放たれたキックは美しい軌道を描いて、ファーサイドにフリーで飛び込んだ中谷の頭にどんぴしゃり。強烈なヘッドがゴールに突き刺さり、ついに2点差をひっくり返した。

 あとがなくなった青森山田も途中出場のDF鈴木琉聖のロングスローから決定機を作ったが、ゴールをこじ開けることができずにタイムアップ。

 あまりにも劇的な展開となったファイナルは3−2で静岡学園が逆転勝利。静岡学園にとって、1995年度に鹿児島実業と両校優勝したとき以来、24年ぶり2度目の選手権優勝を手にした。

「今年のチームは飲み込みが早かった」

「どこからプレッシングが来る、どのスピードで来る、その先がどうなっていると分かっていれば、ボールの置く位置だったり、トラップの質がそこで決まる。見えていない、分かっていないから引っかかるんです。そこは『相手を見てからサッカーをしなさい』と常に言っていますが、今年のチームは本当に飲み込みが早かった」

 川口監督の言葉通り、やってきたスタイルは変わらない。選手の飲み込みが早ければ、こうして大きな結果に繋がる。今年のチームの象徴である鹿島アントラーズ内定の松村もこう胸を張った。

「近年、カウンター主体のサッカーが主流となっている中で、僕らのようにしっかりとボールを保持して攻め続けるというのは、サッカー界に大きな影響を与えると川口監督からも言われていましたし、自分たちもそう思っているので、優勝することでそれを示せたと思います」

 歴史的な熱戦だった。

青森山田が高校サッカーを変えた。

 最後の最後に、大会2連覇を逃す形となってしまった青森山田。だが、この結果で彼らの価値が下がることは一切ない。言うなれば、青森山田は現在の高校年代の1つのランドマークだった。今大会はそれをいかに崩すかが、大きなポイントだった。

 それはまさに、世界のサッカーの潮流と似ていた。かつてACミランから始まった3ラインでのプレッシングを主体とした4-4-2が世界に広がり、それを崩すためにバルセロナを始めとした攻撃主体のポゼッションサッカーが生まれ、そのスペインのサッカーを封じるためにイングランドやドイツが攻守の切り替えを早くし、前線から連動してプレスをかけるショートカウンター型のサッカーが生まれた。

 この流れのように、青森山田が王者として君臨するからこそ、静岡学園を筆頭に帝京長岡、昌平というテクニカルなチームが「ただ上手いだけでは青森山田を崩せない」とハードワークと攻守の切り替え、そしてセットプレーに目を向けて、チームスタイルをブラッシュアップすることができた。

黒田監督「これも重要な経験」

 青森山田は徹底した「山田スタイル」を体現し、プレミアリーグでは日本トップレベルのテクニカルなチームをはじき返してきた。だからこそ、今大会はそれぞれのチームが常に考え、工夫し、技術だけではないものを発揮できた。青森山田が彼らの持つ特性と力をフルに引き出したと言っても過言ではないのだ。

「昌平、帝京長岡、静岡学園と3試合続けてはさすがにきつい。この中で選手たちはよく伸びたと思う。これも重要な経験。ここからですよ」

 黒田監督が決勝後にこぼした言葉がすべてを表していた。当然、これで青森山田スタイルが崩れるわけではない。この経験でさらに、そのスタイルは磨かれていく。

 98回目の大会は最高の試合で幕を閉じた。史上最多の観衆の前で戦った何人の選手たちが、この先さらに輝いて観衆を沸かす存在になれるのか。そこに想いを馳せながら、また新たな1年が始まる。

文=安藤隆人

photograph by Takahito Ando