選手の強さは試合の様々な場面から見てとれる。前年女王としてマリエ・ブズコバ(チェコ)の挑戦を受けた全豪オープン1回戦では、大坂なおみが放った弾丸サーブでネットのセンターストラップの取り付け部分が壊れ、修理のために試合が数分間中断、「ネットを壊した」と話題になった。

 第2セット0−1で迎えたサービスゲームでの出来事だった。大坂が15-40からデュースに追い上げた。「ネット破壊」は次のポイントで起きた。

 サーブがストラップを直撃。取り付け部分のひもが切れたか外れたか、という程度の損傷だったが、確かに「破壊」だ。さすが女子ツアーきってのビッグサーバー、と観客席がざわついた。

4連続フリーポイントでピンチ脱出。

 珍事ではあった。しかし、本来はこのゲームの大坂が、サーブ4本、4連続フリーポイントでブレークのピンチを脱したことに感嘆すべきだ。

 立ち上がりの大坂には硬さが見られ、丹念にボールを拾うブズコバのストロークを仕留めるのに難儀した。怖さはないが、粘り強く、ボールをとらえる感覚にすぐれたブズコバだけに、第2セットで0−2と先行を許すのは避けたかった。

 15-40、ブレークのピンチを迎えた大坂はギアを上げた。この試合での最速となった時速189キロのサーブなど、エースを2本続けてデュースに追いついた。「ネット破壊」で打ち直しとなったファーストサーブは相手のリターンミスを強いた。

 アドバンテージを握ってのサーブは、またもエース。この試合で7本決めたエースのうち3本を、この1ゲームに集中させたことになる。まさにトッププレーヤーらしい強さだった。

ブレークを許した場面では……。

 サービスゲームをキープした大坂が主導権を握ったかに見えたが、2−3からのサービスでブレークを許してしまう。このゲームは大坂のアンフォーストエラーが4本。ひとり相撲の形でゲームを落とした。

「手間取りたくないという気持ちがあった。3セットで勝つより2セットで勝てればそのほうがいいから」

 大坂の偽らざる気持ちだろう。筆者の目には、このセットの立ち上がりから、大坂が早めに引導を渡そうとしているように映った。それが功を奏する場面もあり、墓穴を掘る場面もあり、という展開だったが、結局、ここでミスが集中した。

 勝ちを意識した、焦った、という言葉では強すぎる。試合の中で調子を上げ、楽々逃げ切るイメージを描き、その思惑が外れたのだ。

先行した相手が逆に萎縮した。

 筆者が「焦り」という言葉を選ばないのは、次のゲームですぐにブレークバックに成功したからだ。「自分のやるべきことに集中しなければいけないと感じた」と大坂。すると、先行したブズコバが逆に萎縮し、このゲームでダブルフォールトが2本。相手の方からゲームを差し出してくれた。

 全豪初出場、四大大会での実績に乏しい21歳が、前年女王の前に尻込みしてしまったと見ることもできる。これもまた、現在の大坂の強さである。

 ことなきをえて、大坂が6−4で逃げ切った。イメージから少し離れたが、全体的にはプラン通りの試合運びだったのではないか。

 どの大会でも、試合環境に慣れない初戦は簡単ではない。もちろん、前年優勝者ならではの難しさもある。開幕前の記者会見で大坂はこう話している。

「もし1回戦で負ければ、(世界ランク)トップ10から落ちてしまうかもしれない。そんな重いものが昨年の全米でもあったし、今もまだ心の中にある。でも、それを追いやり、自分を信じるしかない」

 難しい大会になると自覚、心構えをして臨んでいる。完璧とは言えないまでも、ディフェンディングチャンピオンの好発進と言っていいだろう。

「初戦から完璧な必要はない」

 大坂自身、必ずしも完璧な勝利は求めていなかった。昨年の全豪、さらに一昨年の全米での成功体験があったからだ。

「初戦から完璧にプレーする必要はないのは分かっている。それよりも徐々にレベルを上げ、心地よくプレーできるようにしていけばいい。これこそ私が学んできたこと」

 ベースライン際に深いボールを打ち続けたり、ダウン・ザ・ラインを切り裂いたり、という場面は少なかった。だが、ピンポイントの精度、相手のラケットをはじく威力は、決勝までの6試合で、徐々に磨いていけばいい。

文=秋山英宏

photograph by Hiromasa Mano