あれは2014年の開幕直後。4月16日のことだった。

「ムネリン」こと川崎宗則内野手(当時ブルージェイズ)の取材のため、ミネアポリスでのツインズ戦に備え、数日前に降ったという雪が凍りついていたダウンタウンを通り抜けて球場入りしようとすると、怪訝な顔つきの警備員がこう言った。

「寒いから試合中止になったんだけど、知らなかった?」

 前日のシリーズ初戦の4月15日、試合開始時の気温は華氏35度、摂氏では1.667度という厳寒だった。翌16日は雪こそ降らなかったが、摂氏1.1度前後まで冷え込んでいた。「室内フットボール場で野球なんて」などと酷評されたエアコン完備の前ドーム球場が恋しかった。

 前田健太にとっての新しい本拠地ミネアポリスは、そういう場所だ。

冬は寒く、夏は意外と暑い。

 北隣がカナダなので当然、1年中温暖なロサンゼルスとは違う。米系航空のハブ空港で日本からの直行便もある大きな都市ではあり、隣町セントポールとのツイン・シティー(双子都市 チーム名の由来)なので、全州の人口の60%前後がこの辺りに集中している。

 とはいえ、日本人も日系人もロサンゼルスに比べれば、遥かに少ない。夜遅くまで開けてくれる日本料理店や韓国料理、中華料理の店もあるにはあるが、質量ともさすがにロサンゼルスには敵わない。

 では夏になれば涼しいのかと思えば、これが意外と暑い。街の真ん中に流れの遅いミシシッピー川が通っており、湖も点在しているので湿気もあったりする。

 NFL(アメリカンフットボール)やNBA(バスケットボール)の本拠地もあるぐらいだから、ダウンタウンには繁華街もあるのだが、少し郊外に行くだけで地の果てまで続くいるような農地が広がっており、ところどころにあるゴルフ場がやけに美しく見える。

ドーム球場への税金利用が反対されたことも。

 アメリカの「ハートランド」と呼ばれる一大農業地帯に住む人々は、かつてツインズが税金の一部を流用してドーム球場を建設しようとした際、「我々の血税を私有企業のために使うとは何事か!」と徹底抗戦したように政治意識が高く、投票率も高いと言われている。だからオープンエアの球場になったのだ。

 新球場建設がとん挫した際、ツインズは日本プロ野球の近鉄バファローズのように「本拠地消滅」の危機を迎えた。新球場建設に反対する団体を取材した時、「ミネアポリスの人々はPurist=ピュアリストなんですよ」と簡単に説明してくれたのをよく覚えている。

 他の多くの中西部の人々と同じで、一般的には友好的で率直なイメージを与える人々が、実は権力や権威に対する疑念を持っている「強さ」も持ちあわせていることに、少なからず驚いた記憶がある。

 ちなみにミネアポリスは大阪府茨木市と姉妹都市である。

 1981年まで使用されたメトロポリタン・スタジアム跡地に作られ、同球場跡が記念碑として残るアメリカ合衆国最大級の屋内型ショッピングセンター「モール・オブ・アメリカ」がある郊外のブルーミントンは、前田の生まれ故郷である大阪府泉北郡忠岡町のすぐ近くの大阪府和泉市と姉妹都市である。

2000年以降で7度の地区優勝。

 日本人、とりわけロサンゼルスのような場所にいた人にとっては、あまり過ごしやすいとは言えないミネアポリス/セントポールだが、チームそのものはどうだろう?

 ツインズの前身は1901年設立のワシントン・セネターズであり、伝統球団の1つということになが、ミネアポリスに移転したのは1961年と比較的新しい。

 セネターズ時代にワールドシリーズ初優勝を果たしており、ツインズとなってからは東京ドームのモデルとなった旧球場メトロドームで、1987年と1991年の2度にわたってワールドシリーズに優勝している。

 その後は王座から遠ざかっているが、ア・リーグ優勝は通算6度、2000年以降は(昨年もあわせて)通算7度もア・リーグ中地区で優勝を果たしている名門球団でもある。

昨年は地区を独走、今年の目標は?

 過去には西岡剛内野手がいたこともあるが、その頃とはMLBレベルのフロントの顔ぶれは変わっており、別のチームだと思ってもいい。

 昨年は38歳で史上最年少の最優秀監督となったロッコ・バルデリ監督の下、メジャー史上最多の307本塁打を記録した強力打線のお陰もあって、球団史上2位の101勝(61敗)を挙げてア・リーグ中地区で独走優勝を果たした。

 ツインズに阻止されるまで3年連続同地区制覇のインディアンスや、大補強をしたホワイトソックスに対抗すべく、今オフもレッズ時代に2度もノーヒッターを達成しているベテランのホーマー・ベイリー(前アスレチックス)や、左腕リッチ・ヒル(前ドジャース)らを補強した。地区連覇ではなく、地区シリーズ突破を果たしての2002年以来のリーグ優勝を目指している。

マエケンの立場は先発の3番手争いか。

 前田健太はそのチームで、25歳のエース、ホゼ・べリオス、スプリッターの使い手ジェイク・オドリジに続く先発3番手を狙う立場となる。

 ヒルが肘の怪我により前半途中の復帰になりそうな現状で、ボルデリ監督は左腕ルイス・ソープらを昨今流行りの「オープナー」に起用することもあるだろうが、新鋭左腕デビン・スメルツァーやランディー・ドブナクがベイリーと裏ローテを務める見込みになっている。

 昨年の開幕直後は「抑え役は状況に応じる」という状況だった救援投手陣は、昨年30セーブを挙げた左腕テイラー・ロジャースと、同17ホールドを挙げたトレバー・メイがセットアッパーを務める予定だ。前田のトレードに絡んだ救援ブルスダー・グラデロール(現レッドソックス)の放出は何の影響もないと思われる。

 打線は前述の通り長打力があり、昨年3年ぶり40本塁打以上の指名打者ネルソン・クルーズを筆頭に、マックス・ケプラー外野手、ミゲール・サノー三塁手(今季は一塁固定)、チーム最多の109打点を挙げたエディー・ロサリオ外野手、ミッチ・ガーバー捕手とシーズン30本塁打以上を放った5人が今年も健在。

 昨年22本塁打のホルヘ・ポランコ遊撃手や、昨年デビューしてチーム最高の打率.334を記録したルイス・アラエス二塁手に加えて、昨年、ブレーブスで37本塁打を記録したジョッシュ・ドナルドソン三塁手が加入して、昨季に匹敵する破壊力を秘めている。

ワールドシリーズも夢じゃない。

 ア・リーグ中地区は、タイガースとロイヤルズが昨シーズン100敗以上を喫するなど、「そんなに競争力が高くない地区」と見られている。

 前田が普通に中4日で先発ローテーションを守ることが出来れば、もしかしたらメジャー移籍以来、最高の成績を残せる可能性があるので、基本給300万ドル(1ドル110円換算で3億3千万円)に加えて、満額で650万ドル(同7億1500万円)になるパフォーマンス・ボーナスがに加わる可能性もドジャース時代より高くなったわけだ。

 あの厳寒のミネアポリスに取材に行くのかと思うと、ちょっと気が引けたりするのだけれど、予想通りにツインズが勝ち進み、10月に(ポストシーズンで)田中将大投手がいるヤンキースをぶっ倒す可能性だって大いにある。

 ヤンキースだけじゃない。このオフ球界を揺るがした「サイン盗み」の責任を取ったアストロズやレッドソックスがよろめくア・リーグを制して、1991年以来のリーグ優勝を果たし、ワールドシリーズに出場するなんて夢も思い描けたりするのが、ミネソタ・ツインズというチームなのである。

文=ナガオ勝司

photograph by AFLO