前田健太、ミネソタ・ツインズ移籍へ。

 キャンプインを目前に控え、トレード報道が駆け巡った。

 ロサンゼルス・ドジャースでの4年間で先発、救援の両刀で47勝35敗、6セーブ。防御率3.87の安定感を誇ったマエケンが突然にドジャースを離れることになった。この報に日米の一部メディアは同じ見解を示した。

『先発を熱望する前田にとって、いいトレードになる』

 結果的にはそうなる可能性が高い。だが、ツインズ移籍は本当にマエケンにとってウエルカムな話なのであろうか。今の彼の気持ちを察すれば、このトレードは屈辱でしかないのではないだろうか。そう思えてならない。

好成績を残したが、本人はアンハッピー。

 先発投手に人一倍強いこだわりを持ちながら、この3年間はドジャースのチーム事情を泣く泣く受け入れてきた。シーズン後半からポストシーズンにかけては救援投手の役回りでチームのために腕を振った。公式戦での通算成績は以下の通りだった。

 先発:42勝32敗、防御率3.92。奪三振率9.6。

 救援:5勝3敗、6セーブ、防御率3.19。奪三振率12.1。

 ともに重責を果たす素晴らしい数字と言えるが、ポストシーズンでの救援の仕事はもっと素晴らしかった。

 2勝0敗、防御率1.64。奪三振率11.05。

 ドジャースにとってはまさに使い勝手の良い重宝な存在。だがそれも、前田にとってはアンハッピーな話だった。それでも彼はプロとしてのプライドを貫き、フォアザチームの精神で「世界一のため」と、割り切った。その上で残した好成績、貢献は本当に尊敬に値する。

ドジャースには愛着があったはず。

「先発一本で勝負したい」

 前田は毎年のように代理人を通じ、ドジャース・フロントに待遇改善を訴えてきた。先発として結果を残せていないのならまだしも、確実に二桁勝利を期待できる実績を残しているのだから、選手として当然の権利だ。その上で彼は今年も抱負を口にした。

「1年間を通してローテーションを守り、先発1本で勝負したい」

 この言葉には、隠されているものがあると感じる。それは“ドジャースのチームの一員として”である。最も大事な部分だ。彼にとって、それほどにドジャースとロサンゼルスへの愛着があった。

ドジャースで確立した地位と信頼。

 野球選手に限らず、日本から米国へ移住して来た者にとって、最初に生活した街がマイ・ホームタウンとなることは圧倒的に多い。都会であろうが、田舎町であろうが、場所は関係ない。最初に自分の居場所を見つけられた街への愛着は一生ものとなる。

 ましてや、マエケンには夫人と2人の子供がいる。家族にとって、ロサンゼルスは「我が街」そのものであったであろう。その街で彼は選手として、ドジャースでの地位と信頼を築きあげた。それは米メディアの報道でもわかる。

 地元紙オレンジ・カウンティー・レジスターはトレード前に今季の3本柱は「ウオーカー・ビューラー、クレイトン・カーショー、ケンタ・マエダである」と評価した。経済紙「フォーブス」の記者は発表後に「マエダの穴はデービッド・プライス(レッドソックス)では埋められない」ともつぶやいた。

 その一方でツインズ・メディアはこぞって前田の加入を歓迎した。

 前田の思いは“ドジャースで1年間ローテションを守り、今年こそ世界一に先発投手として貢献したい”にあったであろう。だから、思う。今は安易に「マエケンにとって、いいトレードだ」とは言ってはならないと……。

いつか「よかった」と言うために。

 そうは言っても、正式発表を過ぎれば、彼はツインズ移籍へ前向きな見解を示すだろう。それがプロというものだ。

 だが、あえて今回はちょっぴり本音もぶちまけて欲しいと思う。

 前田には期待したい。ツインズで先発投手として圧倒する数字を残し、ワールドシリーズではドジャースの悲願を打ち破る快刀乱麻のピッチングを見せる。そして、シーズン後に淡々と語って欲しい。

“僕にとって今回のトレードはいいものになったと思います”

 マエケンにとって特別な1年。今季の奮闘を楽しみにしたい。

文=笹田幸嗣

photograph by Kyodo News