「ぜひお会いしたいです! 実際、本人を前にしたら何も言えなくなるので、握手だけして……あと写真を撮ってもらいたいです」

 そうあどけなく切実な希望を口にする岡本和真。若くして読売巨人軍の第89代4番打者を務める23歳が会いたい“本人”とは、サザンオールスターズの桑田佳祐さん。岡本は実は大のサザンファンなのだ。

「嫁が(サザンへの愛及び知識が)めちゃくちゃ深くて、その影響もあります。一緒にドライブに行って、首都高の大黒ふ頭を通る時は、歌詞に出てくるので『LOVE AFFAIR〜秘密のデート〜』を流しますね(笑)」

 そう語る岡本はこちらが用意したサザンの公式データブック(リットーミュージック刊)を手に取ると、目を輝かせてページを繰る。そして思い出したようにある瞬間、その手が止まった。

「今日、来るときも『太陽は罪な奴』を聞いてきたんですよ」

巨人の4番打者も単なるいちファン?

 ページを指差し、笑みを浮かべながら少し早口ぎみにそう語る岡本。なんとサザンのライブや桑田さんの単独ライブにも足を運び、桑田さんのラジオ(TOKYO FM「桑田佳祐のやさしい夜遊び」も聞いているという。聞いていたラジオではこんなこともあった。

「少し前にファンの方が『巨人の岡本選手が登場曲に使っています』と桑田さんのラジオで報告してくれたんですよ。桑田さんの頭の中に僕の存在がほんの一瞬、ちょっとだけでも入ったかもしれない。そう思うと嬉しかったですね、もう消えているかもしれないですけど(笑)」

 ラジオを聞き、無邪気に喜ぶ読売巨人軍、第89代4番。サザンを前にしては何人たりとも、どんな肩書であっても、単なるいちファンなのだ。

登場曲は自分より「桑田さんの思い」を優先。

 岡本のプロ生活の歩みはサザンとともにあったといっていい。高校通算73本塁打の記録を引っさげドラフト1位で入団したが、一軍定着ができず、もがいていた時期もあった。当時の登場曲は『波乗りジョニー』、その選曲にも試行錯誤があった。

「『波乗りジョニー』は嫁(当時は彼女)の希望です。『君こそスターだ』を当時二軍で曲名もマッチするかなと思って使ってみたんですが、『桑田さんが好んで歌う歌ではないらしい』と嫁から聞いて、すぐ変えました」

 自分のこだわりを無視しても、桑田さんの思いを優先するという信念の強さがそこにあった。

 当時、先輩に連れられていったカラオケでもブレずに『涙の海で抱かれたい〜SEA OF LOVE〜』を歌い上げた。

悩みに悩んだ末に選んだサザンの名曲たち。

 信念と不動心を持ち続けた岡本はやがて頭角を現し、'18年途中から4番に定着。史上最年少で3割30本100打点を達成するなど順風満帆なシーズンを送った。周りからはそう見えていたが、若き4番は、人知れず悩みを抱えていた。

「'18年夏に『壮年JUMP』と『闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて』がリリースされて、登場曲をどっちにしようか、けっこう迷いました。聴き比べて、『壮年JUMP』をかけることにしました」

 絶えることなく新曲がリリースされているサザンゆえに、4番として、いや単にファンとして悩んでいたのだ。ライブにも足を運ぶ岡本の脳裏には当然、過去リリースされた名曲たちも“参戦”してくる。

「『シュラバ★ラ★バンバ SHULABA−LA−BAMBA』を登場曲にしたりもしましたね。『希望の轍』も気に入っていて、歌い出しを登場曲にかけています。『ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND−NEW DAY)』もいいなと思ったのですが、球場でかけられる時間が10〜15秒程度しかなく、その尺に合わせてどこを使おうか考えたのですが、それが大変で……」

 これまでの活躍の陰には、そうやって泣く泣く諦めた名曲の存在もあったのだ。

ベストの1曲は「決められない」。

 そうして迎える2020年の新シーズン。1月の自主トレ後、「球団からは『3年やって一人前』と言われて、自分は今季キャリアハイを目指してやりたい」と抱負を明かした岡本だが、実は来たるべきシーズンに向けて、心の中にもうひとつ誓っていることがある。

「'19年に使った『彩〜Aja〜』と『希望の轍』は今年も固定でいこうと思っています」

 最後に「ベストの1曲を選ぶとしたら」という質問をぶつけてみた。しばしの沈黙の後、

「う〜ん、いや、決められないですね。登場曲にする曲を何度も変えるって、やっぱり1曲に選べないからなんですよ」

 サザンには'13年にリリースされた、長嶋茂雄さんをモチーフとした『栄光の男』という楽曲がある。4番として3年目を迎える今シーズン。周囲が驚く活躍を見せれば、桑田さんに直接会えるチャンスも当然訪れるだろう。その時は、単にファンとしてではなく、巨人不動の4番として、ぜひ弊誌Numberで対談をやりましょう!

文=齋藤裕(Number編集部)

photograph by Hideki Sugiyama