今週末、東京競馬場では共同通信杯(GIII、芝1800メートル)が行われる。3歳馬の中距離重賞。後のクラシック戦線である皐月賞や日本ダービーにもつながる重要な一戦だ。

 4年前の2016年、このレースを制したのがディーマジェスティだ。

 ディーマジェスティは父ディープインパクト、母エルメスティアラ、母の父はブライアンズタイムという血統。現在は勇退した、美浦の二ノ宮敬宇調教師が管理していた。

 前年の'15年、9月の札幌競馬場、芝1500メートルの新馬戦でデビュー。ここは逃げたキングライオンの逃げ切りを許し、ハナ差の2着に敗れ、同月の中山競馬場芝1800メートルの未勝利戦で蛯名正義騎手が騎乗しまたも2着。続く11月の東京競馬場、芝2000メートルの未勝利戦で3戦目にして勝ち上がった。

 年末には当時GIIだったホープフルS(中山競馬場芝2000メートル)にエントリーしたが、レース当日の朝にフレグモーネを発症。出走取り消しとなった。

信じられない追い込みで重賞制覇。

 こうして迎えたのが'16年2月14日に行われた共同通信杯だった。その前に出走予定だったホープフルSは取り消しになっていたため、実戦に辿り着いたのは前年11月の未勝利戦以来。2カ月半以上の間が開いていた。しかもこれが昇級初戦。重賞はもちろんオープンで走るのも初めてという事で単勝は22.6倍。10頭立ての6番人気の支持にしか過ぎなかった。

 1番人気に推されたのはハートレー(美浦・手塚貴久厩舎)。ディーマジェスティが出走を取り消したホープフルSの勝者で、ここまで2戦2勝。単勝は1.9倍という圧倒的な支持を得ていた。

 また、東京スポーツ杯2歳S(GIII)の覇者で、ここまで3戦して2勝のスマートオーディン(栗東・松田国英厩舎)が武豊騎手を背に単勝3.1倍の2番人気。オッズ的には二強の様相を呈していた。

 しかし、蓋を開けると人気の2頭はいずれも良いところなし(ハートレーがブービーの9着に敗れ、スマートオーディンも6着)。対するディーマジェスティは人気薄だったのが信じられないくらいの追い込みを決め、2着のイモータルを1と4分の1馬身離してゴール。皆を驚かせて初重賞制覇を飾ってみせた。

マカヒキを抑え、GIホースに。

 こうして重賞ウィナーの仲間入りを果たしたディーマジェスティだが、本当の意味で皆をアッと言わせたのは更に次のレースだった。

 管理する二ノ宮調教師はディーマジェスティを約2カ月後の皐月賞(GI、中山競馬場、芝2000メートル)に挑戦させる。

 共同通信杯では強い勝ち方をしていた同馬だが、まだ絶対の信頼を得たわけではなく、前走から微妙に間の開いたクラシック一冠目のこの舞台では8番人気。単勝は実に30.9倍。デビューからきさらぎ賞(GIII)まで3連勝のサトノダイヤモンド(栗東・池江泰寿厩舎)や、この時点で出走馬中唯一のGIホースだったリオンディーズ(栗東・角居勝彦厩舎、朝日杯フューチュリティS勝ちなど3戦2勝)がそれぞれ単勝2.7倍と2.8倍だった事からも、ディーマジェスティがダークホースの1頭と軽視されていた事が分かるだろう。

 ところがここでも同馬は大番狂わせを演じる。蛯名騎手にいざなわれ、道中は後方に位置したが、最後の直線では豪快な末脚を披露。2着のマカヒキ(栗東・友道康夫厩舎)に1と3分の1馬身差をつけ先頭でゴールに飛び込んでみせた。前走の共同通信杯勝ちがフロックでない事を証明すると共に、GIホースとなってみせたのである。

晩年は沈むも、重賞3勝は奇跡だった。

 さて、その後、日本ダービーに出走したディーマジェスティだが、この3歳の頂点を決めるレースではマカヒキ、サトノダイヤモンドに後れをとり、3着に敗れる。秋にはセントライト記念(GII、中山競馬場、芝2200メートル)を優勝したものの、菊花賞(GI、京都競馬場、芝3000メートル)で4着に敗れると、その後は本来の能力を発揮できずじまい。ジャパンC(GI)が13着で、翌'17年の日経賞(GII)と天皇賞・春(GI)はいずれも6着。

 その後、爪の不安などを発症し、懸命に調整されたが復帰のメドが立たず、ラストランから半年以上が過ぎた'17年11月に引退が発表された。

 晩年は残念な結果に終わってしまったわけだが、そもそもこの馬がGI皐月賞など重賞を3勝出来ただけでも実は奇跡といえた。もっと言えば、1つ勝てただけでも、競走馬としてデビュー出来ただけでも、いや、生まれてきただけでも奇跡なのであった。

シンコウエルメスの系譜。

 ディーマジェスティの母は先述した通りエルメスティアラという馬だった。この馬から更に遡った母はシンコウエルメスといった。シンコウエルメスの父は当時ヨーロッパのリーディングサイアーだったSadler's Wellsで母はDoff the Derby。母Doff the Derbyの産駒、つまりシンコウエルメスの兄姉には本場イギリスのダービー馬であるジェネラスや同オークス馬のイマジンがいる超良血馬だった。

 このシンコウエルメスは美浦・藤沢和雄厩舎から1996年にデビュー。未勝利戦で5着に敗れた後、美浦での調教中に重度の骨折をしてしまう。それは安楽死も止むなしという大怪我だったが、藤沢和雄調教師が「何とか生かしてあげられないか?」と獣医師に懇願。その結果、全身麻酔をかけて3時間に及ぶ大手術で患部に4本のボルトを入れたシンコウエルメスは一命をとりとめた。

 こうして文字に起こすと何ということもないように思えてしまうかもしれない。しかし、実際には術後も蹄葉炎や感染症の予防に努めながらようやく牧場へ送り返せるまでの体調に戻ったのは、大手術から実に3カ月も後の話だったのである。

 何とかその命の灯を絶やさずに済んだシンコウエルメスは繁殖牝馬としてエルメスティアラを産み、そのエルメスティアラが今回紹介したディーマジェスティを世に出した。

 ちなみに昨年、スプリンターズS(GI)を制したタワーオブロンドン(美浦・藤沢和雄厩舎)は母がスノーパインでその母がシンコウエルメスという血統。やはり、奇跡的に世に出る事が出来た血統なのであった。

 さて、今週末の共同通信杯ではどんなドラマが待っているだろうか。期待したい。

文=平松さとし

photograph by Satoshi Hiramatsu