「当時と比べるのが正しいかは分からないが、これほど多くの大会が行われなくなったのは第二次世界大戦以来だ。コロナウイルスは世界を変えてしまった」

 フロリダ州の東海岸、ポンテ・ペドラ・ビーチ。世界ランク17位のマット・クーチャーは突如中止となったザ・プレーヤーズ選手権の会場で、そう残した。

 新型コロナウイルス感染拡大の勢いはすさまじく、世界中のあらゆるスポーツイベントが実施できない事態に追い込まれている。

 屋外スポーツで、比較的感染リスクが少ないという指摘もあるゴルフもいまのところ同様だ。主要ツアーでは米女子ツアーが中国での大会をはじめとした3試合のアジアシリーズを中止にしたのを手始めに、ユーラシア大陸全土を中心に回る欧州やアジアの男子ツアーが追随。3月初旬に開幕を予定していた日本女子ツアーも素早く対応した。

非常事態宣言、再開の目処立たず。

 そして3月13日、ドナルド・トランプ米大統領が国家非常事態を宣言すると、ついに米本土でも緊急措置がとられた。

 女子ツアーのメジャー・ANAインスピレーションを含む6試合を延期、男子ツアーは2つのメジャーを含む11試合の中止または延期が決まった(19日現在)。米国ではこれから感染のピークを迎えるとみられ、再開の目途が立っていない事実が話をいっそう重くしている。

 日本の男女のトップ選手への影響、いや失望の大きさは想像に難くない。松山英樹と畑岡奈紗はそれぞれ、裏ではメジャー初制覇への準備を着々と進めていた最中だったからだ。

マスターズ中止を知った松山。

「ことしはマスターズ用のキャディバッグをつくれないんです」

 松山が契約するダンロップ(住友ゴム工業)の用具担当者が漏らしていたのが、ずいぶん前のことのように思える。3月初旬、クラブをはじめとしたプロダクトの製造拠点である中国での生産が滞ったことで、あらゆるゴルフメーカーはツアープロに供給する製品の対応に頭を抱えていた。4月の祭典・マスターズはゴルフ界がグリーンに染まる特別な1週間。出場選手はみな、このために特別に用意されたグッズやウエアを持ち込むが、今年はそうはいかないのもやむを得ない。例年に比べて少し寂しくなりそうな雰囲気が漂っていた。

 それから数日後、開催自体が見送られてしまったのだから驚くほかない。松山はザ・プレーヤーズ選手権の初日にコースレコードに並ぶ63をマークして単独首位発進を決めた夜に同大会の中止が決まり、翌日にはマスターズの延期を知った。「マスターズのために、仮に試合がなくなる可能性があるにしても準備することが自分たちにできること」と静かに意気込んでいた矢先の知らせだった。

悲願達成へ、スケジュールを見直し。

 実は松山は今年、悲願達成のため直前のスケジュールの見直しを考えていたところだった。マスターズ前週に行われる(はずだった)バレロテキサスオープンという出場経験のない平場の大会へのエントリーを模索していた。

 これまでアマチュア時代を含めキャリアで8回出場したマスターズの前週はいずれも会場のあるオーガスタで調整、コースチェックを繰り返していた。それが昨年あたりから心境に変化があった。

「オフの週を挟むと最近いつも調子が悪くなる。だからオフを失くしたほうが良いのかなって」

 理由はもちろんマスターズで「勝つためにね」。

 3月下旬から最長でWGCデルテクノロジーズマッチプレー、バレロテキサスオープン、マスターズという3連戦を想定。「そのときの状態次第で変えようと思っていた。マッチプレーで良いプレーができたらバレロテキサスには出ないことも考えていました」という計画が思わぬ形で頓挫した。

メジャー制覇へ模索中の畑岡。

 そして同じように、現実味を持ってメジャー初制覇が期待される畑岡も、これまでとは違った形で大一番に乗り込むつもりでシーズンインしていた。

「いまはピークの持って行き方を探っている感じです。そもそもピークというものが何なのか、どうすればいいのかって」

 世界ランキング4位のエリートだ。年に5回(男子は4回)あるメジャーを軸にしてどう一年を過ごすか、どんな選手にもある調子の波をどう合わせるかを思案する。

「例えば(メジャーの前に調子を上げるために)、調子をいったんわざと落とすと言っても、出る試合は全部勝ちたいと思うし……。メジャーに向けて『この試合はひとつのことをやり続けよう』と思って何かを試していても、それで上位にいたら勝つことに対してより力を使うんです。だから自分にはどういうタイプがいいか、ですよね。試合を続けてメジャーに行くのか、メジャーの前は試合を休んで練習で調整するか」

「プランが……崩れましたね」

 2020年の畑岡は、昨年までとは違う“タイプ”を頭に描いていた。

「一昨年はあまり考えず、去年はメジャーを連戦の2試合目に持って行こうと思ってやっていました。でも、うまくいかなくて。毎年変わることだと思うんですけど、今年はメジャーの前の週は練習で調整しようかなと思っていました」。メジャー初戦となるはずだったANAインスピレーションは前週に連覇のかかったキアクラシックが控えていたが、第2戦以降は主に直前をオープンウィークにする予定を頭に描いていた。

 だがそれも「プランが……崩れましたね」。

 1月の開幕2試合をいずれも2位で終えたあと、思わぬ中断を強いられた。自身の期待も周囲のそれもいっそう大きくしていたからこそ、残念な気持ちは計り知れない。

 中止と延期が重なり、今後ツアーはスケジュールの再構築を余儀なくされる。再開後の試合数の減少は免れないため、トップクラスにいる選手と言えども、年間レースを考えれば休みを優先させるわけにもいかない。なにせ、ゴルファーとして試合をやりたくてたまらないという気持ちになるのも理解できる。

「自分たちの健康はもちろん、ファンの人が1人でも感染したらひろがってしまう。いまはしょうがないかなと思います」と畑岡は言った。計画は練り直し。いまはただ、ゴルフができる日常が戻るのを祈るほかない。

国内外のトーナメント速報をいち早くお届け!!
「ゴルフダイジェスト・オンライン」 http://news.golfdigest.co.jp/

文=桂川洋一

photograph by Yoichi Katsuragawa