活動自粛が解禁になったら、真っ先に見に行ってみたいな……と楽しみにしているチームが、全国にいくつかあって、最近はそんなことばかり考えている。

 その1つが、「城西国際大学」という千葉の静かな場所にある、まだあまり有名ではないが、先の楽しみなチームなのだ。

 昨年は、春の「千葉県大学野球リーグ」を8年ぶりに制覇して、6月の全日本大学選手権に進み、秋もリーグ戦で優勝。

 関東地区の大学リーグ戦を勝ち上がった優勝校同士で行う「明治神宮大会」の予選も勝って「本戦」でも広島経済大を破り、一躍全国レベルのチームに台頭してみせた。

 城西国際大の佐藤清監督と、投手担当の道方康友コーチ。

 この2人の熟練指導者と私は早稲田大学野球部の同期生にあたり、野手の指導を担当する田中成明コーチも早稲田大学野球部の出身なのだが、決して「エコひいき」で取り上げるわけじゃない。

高校時代は無名だった選手たちが……。

 このチームが楽しみなのは、高校時代に全く無名だったり、なかなか陽の目を見なかったのに、人知れずコツコツと努力を重ね、何年後かには「ヘェー!」と驚くような成長を遂げる選手が何人もいることだ。

 本来、学生野球の楽しみとはこうした選手たちの「予期せぬ変身」が大きな範囲を占めるものだが、その傾向が特に顕著に思えるのが、この「城西国際大」である。

 去年は、岸添有哉という外野手がいた。

 170cm74kg。小さな体で左打席から右中間のいちばん深い所へ140m近い大アーチをかけて、そりゃあビックリさせてくれたものだ。

 そうかと思うと、リリーフ投手の代わりばなに、その初球を痛烈なピッチャー返しで足元を襲い、たった1球でリリーフ投手の心理をガタガタに崩してもみせた。

 千葉・生浜高校という学校は、彼を通じて初めて知った。足も速いし強肩だし、こいつは「近本2世」だ! と楽しみにしていたら、この春めでたく卒業し、なんと一般就職したと聞いて驚いた。人それぞれ、行く道もまさにそれぞれである。

仙台育英出身の中島隼也。

 今年はといえば、「投」の二本柱として舘和弥、中島隼也の4年生右腕が残っている。昨年のリーグ戦春・秋連覇の牽引車となったのも、この2人だ。

「春」は中島隼也がチームを背負って、リーグ優勝に持ち込んだ。

 リーグ戦全11試合のうち9試合を投げて、チーム8勝のうち6勝の働きは、ほとんどひとり舞台。リーグMVPもベストナインも当然の結果だった。

 コロナがこんなになる前、2月の練習の紅白戦で投げた中島投手の「初球」が素晴らしく、印象に残っている。

 右打者の外角低め、構えたミットにピシャリきまった快速球。初めにそこまで精緻なコントロールを見せておいたので、打者はそのあと内角のボール球に手を出して、内野フライに打ち取られた。

 初球の“凄み”で打者にプレッシャーをかけておけば、その後はストライクにこだわらなくても、ボール球で危なげなく打ち取れる。試合を作れる「実戦力」が伝わった。

 こういう投げ方ができるのだから、春6勝、秋5勝、昨季11勝の急成長もすっきりうなずける。

 これほどの投手が、仙台育英高では甲子園のマウンドで投げる機会を得られなかった。大学でも2年の春に交通事故に遭って半年近いブランクがあり、そこから這い上がってきたのだから、昨季3年生での「大奮投」は値打ちが高い。立派だと思う。

投手の武器は派手なのがいいわけじゃない。

 そして、城西国際大の右腕コンビの“相方”・舘和弥が頭をもたげてきたのは秋だ。

 昨年の秋の千葉リーグでは、舘投手4勝、中島投手5勝の合計9勝で、城西国際大は相手5チームすべてから勝ち点を奪う「完全優勝」を成し遂げている。

 中島投手が、145キロ前後の快速球と130キロ台の必殺チェンジアップでガンガンいくのに対し、舘投手は長身のオーバーハンドから低めに速球、ツーシーム、カットボールを集める投球で、バットの芯を外しながら丁寧に投げ進める。

 球筋に角度があって、しかも目から遠い低めでわからないように動く。だから、打者は打ち取られた理由がよくわからず、次の打席でもやられてしまう。 投手の「武器」は、豪快なのも派手で見映えがするが、わかりにくいほうがもっと長く、よく効くように思う。

 この舘投手はというと、高校時代は2番手以下だったと聞いた。

 当時の平塚学園には、高田孝一(現・法政大)という「絶対的エース」が君臨していた。それが、わずか4年経った今、「ドラフト候補」という同じ土俵に上がっているのだから、若者が地道にコツコツ努力した時の「ちょっと先」など、誰にもわからない。

3年生以下にも投手の素材がごろごろ。

 3年生以下の好素材たちが、この2人を追いかける。

 きれいなオーバーハンドで、時計の文字盤でいえば“11時”の角度から振り下ろす川口冬弥(3年・186cm75kg・右投右打・東海大菅生高)は、2年かけて筋肉量を10kg増やし、故障も癒えて145キロ前後の速球をビュンビュン投げ下ろす。

 豪快な腕の振りを見るだけで胸が躍る足立匠(2年・189cm80kg・右投右打・県立岐阜商高)は、腕の振りが生み出す膨大な遠心力をコントロールできるようになれば、150キロ腕の期待が現実のものになる。

 さらに、テークバックで右手が“12時”の方向を指せるアンダーハンドが向山卓人(2年・179cm67kg・右投右打・松商学園高)。両肩が地面に対して90度近く傾斜できて、地面スレスレからリリースできる本物のアンダーハンドだ。

元社会人監督が投手コーチ。

「この3人だって、高校時代はエースじゃないからね。それを、時間をかけて、丁寧に言って聞かせて、オレが仕込んでいる。他にも楽しみなの、何人もいるからね」

 道方コーチは、東京六大学の「戦国時代」に神宮のマウンドで20勝。社会人野球でもJFE東日本の監督をつとめた。昨年から盟友・佐藤清監督を手伝って、60人近く在籍する投手陣を“仕込んで”いる。

 投手は、肩が開けば故障する。生きたボールにもならない。両肩のラインの内側でテークバックして、半身のまま踏み込んで、体の左右を一気に切り替える。

 道方コーチの指導は一貫していて、気のせいか、野手たちも半身からの切り返しの効いたいいフォームで投げる。

「投手個人個人で体のメカニズムやリズムを持っているから、テークバックをいじるのは怖い。それでも、合理性を説いていきながら、少しずつ少しずつ修正してあげれば……」

 丹誠込めて。

 最近あまり聞かなくなったこの国の「いい言葉」が頭をよぎる。

監督もコーチも元名選手。

 野手にも、名前を挙げてお伝えしたい未完の大器が何人もいるのだが、話がちょっと長くなった。

 野手を見ている佐藤監督は現役当時、大学野球を代表するホームランバッターで、「ジャンボマックス」のニックネームで呼ばれた人気者。田中コーチも社会人野球・プリンスホテルの快足・好打の内野手で鳴らした。

 教わる相手には、なんら不足はない。

 あとは、選手たちが自分から教えを求めに行って、指導者たちの「エッセンス」を吸い尽くす番だ。

文=安倍昌彦

photograph by Kyodo News