「コロナ」の勢い一向に衰えず、その県大会もすでに中止が報じられているが、そんな中でも、もし状況が戻ったらどうするか……思いはいつもそちらの方に向いている。

「解禁」になったら、真っ先にグラウンドへ行ってみたい。そう考えて、今から楽しみにしている高校球児がいる。

 日大藤沢高の強肩・強打の捕手・牧原巧汰(3年・174cm78kg・右投左打)だ。

 野球雑誌『ホームラン』の取材で、今年の1月下旬にグラウンドにおじゃまして、そのプレーを見せていただいて、話も聞いている。

「センバツ特集号」の中の「惜しくもセンバツを逃した逸材たち」という企画の取材だった。

 類いまれな素質の片鱗は見せてくれたが、まだ冬場だったこともあって、その「全容」を目の当たりにすることができなかった。

 本人が「うん!」と言えば、今年のドラフトを賑わせる注目の捕手だけに、暖かくなってエンジン全開になった時の「牧原」をとても楽しみにしていたものだった。

森友哉の高校時代がピタリと重なる。

 日大藤沢高の捕手・牧原巧汰には、初めて見た昨年の春から、「森友哉」の高校当時がピタリと重なる。

 今は西武のレギュラーマスクを務める強打の左打ちの捕手。背格好や豪快かつ合理的なスイングまで、大阪桐蔭高の頃の森が思い出される。

 左ヒジを張ってグリップを肩より高い位置で構えた姿で、「お、森だ!」と心が騒いだ。

 練習試合に来ていた相手の東海大相模・野口裕斗も、緩急の巧みな左腕の好投手だ。春先、4月前半、まだこの時期には当たりたくないタイプの投手だろう。

 それでも、追い込まれたあとのファールが3球ともフルスイング。その次の内角スライダー、難しいボールにとっさに右ヒジを抜く絶妙のバットコントロールで、一塁手の右足横をあっという間に痛烈なゴロが抜けていく。

 さらに、そのあとの打席だ。

 フルカウントから、もうストライクしか来ない! とばかりに決然と振り抜いた打球が、ライトポール上空を切れながらもぐんぐん高度を上げていったから驚いた。

1年秋まではホームラン0だったが……。

「でも、自分、1年の頃は打球が上がらなくて……。1年秋までは、ホームラン1本もなしでしたから。そこから、半分遊びの感覚で打球を上げる練習を続けて」

 昨年秋までの1年間で、25本のホームランを広角に叩き込んだのだから、高校生の成長力は底知れない。

「後から前に振り抜いていく感覚で、いかにミートポイントにバットの芯を入れていくか。それをティーバッティングで何度も何度も試して。低いライナーでいくら打っても、ホームランにはなりませんから、どういうスイング軌道でボールのどこにバットを入れてやれば“放物線”になるのか。バットヘッドの重さを感じながらスイングしながら、そこを何度も試しながら」

スイングに幼さがない。

 昨秋、雑誌の取材でグラウンドにおじゃました時、もう薄暗くなったグラウンドで、「置きティー」で繰り返し、その「放物線感覚」を確かめるように、牧原巧汰がボールを振り抜く。

 決して、「エイ、ヤー!」の勢いまかせのスイングじゃない。

 1球1球、放物線になるスイング軌道を確認しながら、振り終わりでバットを止めるように、丁寧にボールを打ち抜いていく。

 もうボールの白さもよくわからなくなっているのに、ほとんど打ち損じがない。決して遠くへ飛ばしたいだけの、欲望にかられた「放物線作り」じゃない。このスイング軌道でボールのここを捉えさえすれば、確実に、オレの打球は勝手に距離を出せる。そんな確信を秘めた上でのスイングだから、繰り返すスイングに幼さがない。

 怖いバッターになるぞ……。ぜひ、その“線”で伸びてほしいと願う。

求めるのは「9通りのスイング軌道」。

「ストライクゾーンが9分割できるとすれば、9通りのスイング軌道がなきゃいけないじゃないですか。ティーバッティングでは、そこを理想にして、全力スイングで打ってるんです」

 引き腕(右腕)の強さを感じるスイングだから、インパクトの後の軌道が大きい。

「920から930グラムのバットを使って、片手でティーバッティング、毎日やってるんです。低めのボールを持ち上げるには、右手の引き動作がすごく大事ですから。どの方向へも飛距離が出せるようになったのも、片手スイングのせいだと思います」

 昨年の夏、神奈川県大会の準決勝で、当時同じ2年生だった桐光学園のコントロール抜群の左腕・安達壮汰の外寄りのスライダーを、がっしり踏み込んで、横浜スタジアムの左中間スタンドに放り込んだホームランなど、逆方向へのバットコントロールなら、大阪桐蔭・森友哉の高校時より技術が高い……と唸らさせたものだ。

左打者の内角球を二塁へ投げる難技術。

 バッティングの話ばかりが続いたが、むしろバッティング以上に感心したのが、「捕手・牧原巧汰」のスローイングのスピードとその精度だ。

 左投手が左打者に投じた内角球。シュート回転して、打者の体の近くを突いて、このコースを「逆シングル」のように捕球し、二塁盗塁を阻止するのは、捕手にとって非常に高難度のプレーなのだ。

 それを、2年春のこの捕手があっさりやってのけたから驚いた。

「あれは、監督に教わって、ずっと練習してきたことなんです」

 ニッと笑った。

 日大藤沢・山本秀明監督は、社会人野球の強豪・三菱自動車川崎(神奈川)で鳴らし日本選手権に優勝した、根っからの「捕手」である。

「投球がミットに入った瞬間、ミットを握らないで、ミットの面に当ててはね返して、ボールを右手に飛ばすんです」

 言葉にするとこうなるらしいのだが、一瞬の動きだから、説明が難しそうだ。

「スローモーションで説明すると、捕球したボールをミットから落としながら、そのボールを、右手を下から上に持ち上げるようにして捕りにいく。右手を回す感じですね。で、そのままトップに持っていって投げるんです」

 それに、フットワークが加わるという。

「左打者の内角は、そのままの位置で捕球すると、投げる動作が苦しくなるんで、捕球の瞬間に、右足をちょっと打者寄りにズラして捕るんです。ボールの持ち換えが速いと、動作全体に余裕ができるんで、精度も上がります。いいことばっかりなんで」

キャッチャーをやるために日大藤沢へ。

 込み入った話の中に、時折り交える自然な笑顔。初めての大人におびえるようなところもない。その精神的な成熟度は山本監督も認めるところだ。

「物怖じするようなヤツじゃないですね。苦しい練習にもひるまずに挑んでいく心身の強さがすばらしいと思います。中学(座間ボーイズ)の時はショートで光ってたんですが、『キャッチャーやりたいんで日大藤沢に来ました』って言うもんですから。キャッチャーで使っていくしかありませんよね、いろいろ問題はあっても……」

 そんな注文をつけてはいても、語る表情がうれしそうだから、自然と“評価”は想像できる。

「彼の言っていたスローイング動作なんか、高校生にはかなり難しい技術なんですけど、それもなんとか、そこそこ習得しつつある。とにかく、目の前に会得したほうが自分のためになると思うテーマがあると、必死に練習して身につけようとする。そこは、たいしたものです。

 彼には同期に、姫木(陸斗・投手、外野手)や菊地(隼輔・内野手)という意識する存在がいるのが幸せですね。もっと上、もっと上っていう気持ちを維持できますからね、お互いに」

やられた試合は潔く脱帽。

 桐光学園・安達からモノの見事に左中間へ持っていった次の試合。決勝戦で、東海大相模によもやの「24−1」。こっぱみじんに粉砕された牧原巧汰と日大藤沢。

「捕手として、何もできませんでした。初回、外野フライ3本で三者凡退に抑えたんですが、そこで『今日はやられる』と思いました。3本ともファーストストライクを芯で捉えられた完璧な当たり。押しつぶされ続けて、どうしていいのかわかりませんでした」

 完全に脱帽、言いわけなし。その潔さがいい。

 そこが「捕手」、ゲームマネージャーとして伸びしろと心すればよい。

 さあ、今はいったい、どうして過ごしているのか。

 今が伸び盛りのはずのこういう選手を知ってしまっているから、余計、今の「コロナ」による停滞が憎い。

文=安倍昌彦

photograph by Hideki Sugiyama