プロスポーツ選手による社会貢献――。

 今般のように、とりわけ非常時になるとクローズアップされるトピックだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大により日常生活と経済に大きな影響が及んでいる日本でも、さまざまな選手・チームが、困窮者への寄付や、ファンを元気づけるメッセージの発信などに取り組んでいる。

 それらに先んじて行動を起こした、1人の選手がいる。

 Bリーグ・川崎ブレイブサンダースの篠山竜青。自身のTwitterに次のような投稿をしたのは、3月20日のことだった。

“選手みんなで考えて、コロナウイルスの影響で収入が減ってしまうクラブのスタッフに向けて、できることがないか模索し、寄付金を選手で集めて送る事を目的に動き出しました。”

まったく先の見えない状況の中で……。

 日本のプロスポーツ選手が具体的な行動を起こす意思を明らかにしたのは、この篠山のツイートが最初だったのではないだろうか。

 3月20日の時点で、Bリーグは一時中断の状態にあった。14、15日と無観客試合を実施したものの、選手やスタッフの不安を拭いきれず、残りの試合をどうするのか、あらためて協議されていたところだった。

 結論としては、今シーズンのBリーグは、チャンピオンシップを含む残り試合すべての中止を余儀なくされた。発表があったのは、3月27日だ。

 つまり20日の段階ではリーグ戦再開の可能性は消えておらず、選手は先行きに対する不安を抱えながらも、戦うスイッチをオフにすることはできない状況だった。世の中の空気にも、まだ、いまほどの緊迫感はなく、様子見に徹するのが自然な状況だった。

 それでも、篠山は動くと宣言した。

 テレビ電話での取材で、本人がその理由を教えてくれた。

NBAの選手の行いを見てすぐに決心!

「クリーブランド・キャバリアーズのケビン・ラブ選手が、ホームアリーナで働くスタッフのために寄付をするというニュースを見たのがきっかけでした。NBAの中断が決まってからアクションを起こすまでがすごく早かった。そのスピード感はリスペクトできると思ったし、日本のスポーツ界でもそういう動きがもっと活性化されていいんじゃないか、という思いがありました」

 ラブは、NBAの中断が発表された3月11日からわずか2日後には、減収を強いられるスタッフへの10万ドルの支援を表明している。躊躇なく行動を起こす姿、自分より先に他者を思いやることができるやさしさ。シンプルに、篠山は感化された。

 ラブと同様、ホームアリーナの運営に関わるスタッフをなんとかして支えたいと考えた。

 選手はシーズン単位で契約を結んでいるが、スタッフの多くは、試合の開催ごとに仕事が発生し、収入を得ている。試合数の減少、あるいは消滅は、彼らの生活にダイレクトに響く。

「川崎はスタッフと選手の距離が非常に近いチーム」と話す篠山が、とどろきアリーナでともに戦ってきた彼らの顔を思い浮かべたのは、とても自然なことだった。

「『いちばんにやったぜ!』と言えたほうがいい」

「Bリーグになる前までは実業団チームで、ぼくも社員選手でしたし、運営や裏方の人たちの思いはわかっているつもりです。いまの状況に不安を感じている人たちに、“選手が何かをしようとしてくれている”と伝わることで、少しでも安心感につながるんじゃないかなって……。だから一日でも早く言ってあげたかった。

 あとはやっぱり、こういう良い行いをするんだったら『いちばんにやったぜ!』と言えたほうがいい」

 この取り組みの支援の対象となるのは、アリーナMCやチアリーダー、さまざまな形で試合の運営に携わるアルバイトなど。さらに、アカデミーやユースチームのスタッフも含まれる。彼らもまた、開講のたびに仕事が成立する働き方をしており、このたびの活動休止によって収入源を失うことになったからだ。

 ただ、使命感に駆られながらも、篠山は突っ走らなかった。寄付は美しい行為だが、実際には難しさもある。

「寄付はあくまで自発的になされるべき」

 篠山は言う。

「たとえば、ぼくら30歳前後の選手と大学を出たばかりの選手では、もらっているお給料が違う。いきなり選手全員に声をかけて、『寄付しなければいけない』という空気をつくるのはあまりいいことではないと思いました」

 1人の思いが全員の思いと同じとは限らないし、寄付はあくまで自発的になされるべきものだ。篠山は急ぎたい気持ちを抑えつつ、慎重に事を進めた。

「(同年代の)辻直人選手にまず相談し、そのうえで最終的には選手全員に声をかけることにしました。一口いくらとか細かいことは決めず、気持ちだけでいいよ、と。みんな、『ぜひ協力したい』と言ってくれた。それぞれが出す金額が選手間で共有されるのはあまり好ましくないと思ったので、とりまとめはクラブにお願いしました」

 こうして川崎の選手たちが出し合った総額300万円は、4月末日、一時金という形で対象となる人たちのもとに届けられるという。

プロスポーツ選手のカッコよさを伝えたい。

 Bリーグは、創設から4シーズン目と歴史は浅い。選手年俸の水準も、欧米の主要スポーツはもとより、日本のプロ野球やJリーグなどと比べても、まだ決して高いとは言えない。

 しかも、今シーズンは途中で打ち切りとなり、来シーズンの見通しさえも不透明だ。

 現実としては、選手たち自身こそが不安定な立場にある。にもかかわらず、自らの身を切ることにためらいはなかったのだろうか。

「来シーズンのお給料がどうなるのか……やっぱり、少しは考えました。でも、それ以上に『プロのスポーツ選手ってカッコいいんだな』ということを、若い世代であったり、ファンの方たちにしっかり示すべき機会だと思いました。NBAの選手たちに比べれば、ぼくらが寄付できる金額は規模が違います。でも、こういう行動を起こしているんだよって知ってもらうことは、誰の損にもならない。このカッコつけ方で誰も損はしないと思うんです」

東京五輪まで離れていったが……。

 篠山は昨年末の試合で負傷し、ようやく復帰した矢先にリーグ戦が終わってしまった。キャプテンとして率いるチームは中地区首位を独走していたが、初の年間優勝への道は無情にも閉ざされてしまった。

 そして、日本代表の主力として出場すると目されていた東京オリンピックまで、延期になってしまった。

 肩を落とし、不運を嘆いたとしても、おかしくはない。

 だが、篠山は胸を張り、「困っている人を助けよう」と真っ先に声をあげた。精いっぱいカッコつけた――。

試合が無くても多くの人が選手活動を見ている!

 実は、「プロスポーツ選手の社会貢献」は、筆者にとってもやもやとしたテーマだった。欧米との比較論では、日本のそうした動きはまだ活発ではない。一方で、あくまで自発的なものであり、部外者が「こうあるべき」と語るのも違和感がある。触れにくいテーマだった。

 そのもやもやを、篠山の言葉はひと吹きに消し去ってくれた。これだけは、はっきりと書ける。

 プロスポーツ選手たち、何が何でもカッコつけてほしい。

 彼ら自身も不安はあるだろうし、全員でなくていい。でも、ちょっと見栄を張ってでも、カッコつけてほしいと思う。

 試合に駆けつけた大観衆の前でプレーするときと同じように、試合ができないいまも、カッコいいところを見せてほしい。

 目の前に姿は見えなくても、大観衆はいる。たくさんの視線が注がれている。

 篠山の言うとおり、その“カッコつけ”は誰の損にもならない。いや、それ自体がきっと、最高の社会貢献だ。

文=日比野恭三

photograph by kawasaki bravethunders