「2020ドラフト」は大学生が主役になる。そんな予感……いや、確信に近い感覚があった。

 今年の春先時点で、ざっと数えて60〜70名の大学選手が、ドラフト候補として名前を挙げることができた。

 例年に比べて、高校、社会人に人材が薄いことが予想されたこともあり、大学選手の指名は、さらに増えることも十分考えられた。

 今、「学生球界」の裾野は果てしなく広い。

 6月の「全日本大学野球選手権」では、全くノーマークの隠れた逸材が何人も現れて驚かされるのは、毎年のことだ。

大学の監督自ら、選手たちを紹介。

 高校野球なら甲子園にあたるその大学選手権が中止になり、各地の春の大学リーグ戦も次々と見合わせになる中で、「この春」を、目指すプロ球界にスキルをアピールするチャンスにしようと腕を撫していた大学4年生たちは、悔しいかな、その場を失いつつある。

 そこで、このコラム空間を使って、彼らを丹精込めて教え導いてきた監督さんたちに、選手たちの特筆すべき部分を語っていただき、グラウンドに代わる「アピールの場」にしていただこうと考えた。

 磨き上げた技能とパワーを披露しきれないもどかしさ。それでも「頂上」を目指す熱い思いがいくらかでも届くことを願いながら。

 北からいこう。

 北海道には、伊藤大海(投手・苫小牧駒澤大)がいるが、彼はすでに押しも押されもせぬドラフト1位候補。あらためて「プレゼン」の必要はなさそうだ。

 ここでは、この春にもうワンプッシュ! ドラフト指名ボーダーライン線上の選手たちを挙げてみた。

青森大で本格的に投手を始めた才能。

 青森大・遠藤暉世己投手(えんどう・きせき、投手・187cm87kg・右右・稚内大谷高)のことは、高校時代から見ていた。

 当時は長身の大型一塁手。暴投になった一塁牽制球をフェンスまで追ったとっさのスピードと、ぬかるんだ地面で体勢を崩しながらもドンピシャストライクの二塁送球を見て、「こりゃあピッチャーだろう」と思った。

「そうなんです。本格的に投手に取り組んだのは大学に入ってからなので、最初の2年間は徹底的にトレーニングで鍛えました。よく辛抱したと思います。コツコツ、コツコツ、ほんとに努力家です。

 北海道のいちばん北の果ての稚内の原野で、寒い中、人知れず地道に18年を過ごしてきた……まさに、そんな育ち方がリアルに想像できるような青年です」

 2年秋からチョロッと実戦で投げ始め、昨年2シーズンは終盤2、3イニングの抑え役として奮投した。

「三振がとれるヤツなんで、抑えとしてすごく頼りになるんです」

「大学生でこの奪三振率はなかなかいない」

 青森大OBの三浦忠吉監督は、社会人・JR北海道で外野手、マネジャーをつとめた。着任4年目、今年39歳の青年監督だ。

「あのガタイから投げ下ろして角度のある速球が、去年の秋で147、8キロ。このまっすぐで空振りがとれて、ドロップっていうんですか…横ぶれのない真タテのカーブとタテのスライダーは、こっちのリーグではまず打たれない。

 去年の秋は26イニングで33奪三振。大学生でこれぐらい奪三振率の高いピッチャーって、なかなかいないと思いますよ。強力な勝負球があって、力でも抑え込める。ウチの守護神なんです」

マジメの土台に“キバ”を植え付ける。

 4番を打っていた高校時代。

 今と変わらない雄大な体躯と長いリーチがありながら、一発を狙った欲望丸出しのムチャ振りがなかった。痛烈なセンター返しに、投球に逆らわぬ素直な右中間志向。キチンとしたバッティングスタイルに、折り目正しい性格なんだろなぁ……勝手に想像していたものだ。

「そこを打ち破ってひと皮むけてほしかったからこそ、抑えで使ったんです。マジメで練習熱心……そこは間違いない。そこに“キバ”を植え付けたかった。本人、最初からプロ志向だったんで、そのためには一生懸命だけじゃ足りない。闘って打ち負かす激しさとか強さがないと。

 よく応えてくれてます。あとは、プレッシャーのかかる抑えの仕事をしながら1シーズンとか1年とか、ハイレベルの結果を出し続けるコンスタントさですね。それを証明するための、この春のシーズンだったんですが……」

授業と練習とバイトを自分で管理。

 これだけのボディサイズで50mを6秒そこそこで駆け抜ける身体能力に、敏捷なフィールディング。

 長所をいくつか挙げてくれた三浦監督が、あっそれともう1つ、とつけ加えてくれた。

「授業や練習の合間に時間を作って、バイトのシフトもちゃんと自己管理して働いている。頭が下がります。

 そんなヤツだからこそ、今までの努力が実を結んでほしい。はい、社会人からのありがたいお話もお断りして、プロ一本にかけてるヤツなんです」

八戸学院大の左右の4年生投手。

「大道と中道が、両方とも絶好調で4月の開幕を迎えたんですよ! そんなこと、今までなかったのに、そこでコロナでしょ。いつもみたいにリーグ戦があったら勝ててたんじゃないかな……。ほんと、悔しいですよー!」

 普段はあまり表に感情を表さない八戸学院大・正村公弘監督が、珍しく声を張っていた。それだけの確信があったのだろう。

 大道温貴(おおみち・はるき、投手・178cm78kg・右投右打・春日部共栄高)、中道佑哉(なかみち・ゆうや、180cm74kg・左投左打・八戸学院野辺地西高)。右と左の二本柱は、昨季の3年時からチームの根幹になっていた。

体感に表示が追いついた150km。

 昨年暮れ、松山・坊っちゃんスタジアム。

 右腕・大道温貴は高めに跳ね上がるような快速球で全国から集まった学生球界屈指の打者たちから空振りの三振を奪っていた。

「まっすぐが強くてフォームも悪くなかった。ボールはとっちらかってましたけどね。そこからステップを踏みながら、故障もなく順調に成長してきましたね、大道は」

 この春、4月初めには「150キロ」に達していたという。

「もともと、体感スピードで勝負するタイプだったのが、それにスピードガンの表示が追いついてきた。去年の秋からよくトレーニングしてましたからね。走り込み、筋トレ、下半身のボリュームなんか別人みたいですよ。秋に悔しい負け方したのと、やっぱり本人、今年にかける意欲が本気だったんじゃないですか。

 体がパワーアップしたぶん、今までみたいに首振って無理して投げなくても、ボールが走ることがわかったみたいでね。これ、ピッチャーにとっては、世界が変わるほど大きな成長なんですよ」

空振りが取れる中道に見逃しを期待。

 一方の左腕・中道佑哉は、昨年春のリーグ戦でチーム9勝のうち5勝をマーク。リーグ優勝の原動力となった。

 スリークォーターからバックスピン抜群の速球で空振りを奪う。そんな姿が印象的だった。

「ほんとは、アウトローのまっすぐドーン! で見逃し三振。僕はそっちのほうが見たいんですけどね」

 正村監督が笑っている。

「空振り三振っていうのも勇ましくていいんだけど、ボール球振らせても、上じゃ通用しないですよね。あくまでも、ストライクゾーンの中のベストボールでないと、ピッチャーとしてほんとの値打ちがないんです」

プライドが高くて、いかにも「ピッチャー」。

 大道について、こんなことがあったんですよ……と、らしい「出来事」を教えてくれた。

「自分が絶対の自信を持っていたスライダーの軌道を、ある人に修正したほうがいいって言われたんですよ、大道が」

 一度ふくらんでから曲がる軌道を、ストレートがベース上でキュッと動く軌道に。

「ケチをつけられたと思ったんじゃないですか。僕のとこ来て、『否定されました』っていうから、指摘の通りだって教えてあげてね。鼻っ柱が強くてプライドも高くて、いかにも『ピッチャー』って感じで。そのへん、僕もよくわかるんですよ、ピッチャーだったんでね」

 高校までは無名だった投手を、まず基本からビシッと仕込んで、何人もプロ、社会人で通用する投手に育ててきた正村監督。

 金足農当時の吉田輝星投手(現日本ハム)がその指導を受けていたのも、有名な話だ。

「自信があるんでしょうね、大道は。投げたがりで、交代させると納得がいかない時は目も合わせない。めんどくさいヤツですけど、エース張るんなら、それぐらいの心意気があっていいと思います。まあ、それだけのことやりますからね、大道は。練習もそうだし、実戦でも。口ばっかりで練習しないヤツもいますけど、あいつは言わせないだけの練習やってますから」

いつもは辛口の正村監督が……。

 いつもは辛口の正村監督が、かなり認めている。

「実戦で投げて、打たれて、教わって、また立て直して……この繰り返しでここまで伸びてきたヤツなんで、この先で大崩れはないと思ってます。つまずいても、こういう時はこういう練習で修正すれば、ってわかってますから。その時の自分の状況を考えながら、自分で分析して修正できるだけの引き出しは持ってるはずですよ、あいつは」

 右腕・大道温貴の話が長くなった。

 次回は、八戸学院大のもう1人の柱である左腕・中道佑哉の話から始めよう。

 グラウンドでアピールできないのなら、この「画面」でアピールを。監督さんが推すドラフト候補生の話は、さらに西へ西へと下っていく。

文=安倍昌彦

photograph by Hachinohe Gakuin University