ほぼ2カ月ぶりに目にした米ツアーのトッププレーヤーたちのゴルフは、コロナ禍以前とは、少々異なっていたものの、ゴルフの世界の「ニュー・ノーマル」を示してもらったように感じられ、だから妙に新鮮な味わいだった。

 5月17日、フロリダ州ジュノビーチのセミノールGCで「テーラーメイド・ドライビング・リリーフ」と名付けられたチャリティ・マッチが開催された。

 同社のスタッフプレーヤーであるローリー・マキロイとダスティン・ジョンソンがペアを組み、オクラホマ州立大学ゴルフ部出身どうしのリッキー・ファウラー&マシュー・ウルフのペアと対戦。

 ユナイテッド・ヘルス・グループからの300万ドルがスキンズの賞金へ、ファーマーズ・インシュアランスからの100万ドルがバーディー&イーグル賞に充当され、さらに視聴者からもチャリティを募り、コロナ禍で戦う医療従事者などへの支援金として寄付をする仕組みになっていた。

マキロイとジョンソンがペアを組み……。

 開催前、人々の興味と関心は、いろいろなところへ向けられていた。

 世界ランキング1位のマキロイと5位のジョンソンがペアを組むのに対し、ファウラーは27位、ウルフは110位だ。さらに言えば、マキロイはメジャー4勝、ジョンソンはメジャー1勝のメジャー・チャンプだが、ファウラー&ウルフは、どちらもメジャー未勝利だ。

 そんな数字や実績を鑑みれば、「マキロイ&ジョンソンが勝つ」と、実にファンの6割以上が予想していたが、果たして下馬評通りになるのか、それとも予想外の結果になるのか。そこに大きな注目が集まっていた。

 だが、勝敗の行方以上に人々が気になっていたのは、感染防止のための新習慣、新環境がどんなものになるかという点だった。

 選手たちはマスクを着用してプレーするのかどうか、ソーシャル・ディスタンスを保ちながらハイファイブや握手禁止で無観客。その環境で、果たしてマッチは盛り上がるのかどうか。人々は初めて目にする光景をあれこれ頭の中で思い描いていたのだと思う。

キャディがいないことでゴルフ愛が際立つ。

 いざ、セミノールGCにやってきた4人の選手たちは、全員、軽快な短パン姿で軽量のスタンドバッグを自ら背負っていた。

 ショットするたびに、バッグに下げたタオルでクラブを丁寧に拭き、リュック式の専用バンドでバッグをひょいと背負って歩き出した彼らは、トッププレーヤーというより、むしろカレッジゴルファー、アマチュアゴルファーの雰囲気を醸し出していた。

 そのせいか、若々しさや親しみやすさも溢れ返っていた。専属キャディがおらず、何から何まで自分でこなしながらプレーしている状態は、ゴルフを愛する彼らのありのままの素顔を、自ずと浮き彫りにしていたのかもしれない。

静かな「サンキュー」。

 TVクルーやカメラマンらはマスクを着用。選手とルール・オフィシャルはノーマスクだったが、ペアどうしでもお互いにソーシャル・ディスタンスを心がけ、コース上で選手に話しかけるTVレポーターも距離を空けながらインタビューを行っていた。

 バーディーパットを沈めたときも、スキンズ(賞金)を獲得したときも、これまでのように相棒選手と派手なガッツポーズやハイファイブをすることなく、無言でカップからボールをピックアップ。やや離れた場所から相棒が「ナイス!」と声をかけ、静かに「サンキュー」と返すのが精一杯のやり取りだった。

「ハイファイブをしたかった。ハイファイブぐらいできたらいいのにと思ったけど、今は我慢するしかない。いろんなことが変わっていく。しばらくは以前とは異なることが多くなると思う。でも、みんなで慣れていくしかない」

 マキロイはやや淋しそうにそう語りながらも、自身に言い聞かせるように「慣れよう」と前向きな姿勢を見せていた。

6億円近い額のチャリティ総額。

 肝心のマッチのほうは、序盤は「マキロイ&ジョンソン」がリードしていたが、折り返しのころから「ファウラー&ウルフ」が波に乗り、リードを奪っていった。

 だが、終盤にキャリーオーバーされた6スキンズ(110万ドル)を19ホール目となった17番(パー3)のニアピン合戦でマキロイが獲得。

 最終的には「マキロイ&ジョンソン」が185万ドル(11スキンズ)を手に入れて勝利し、その全額を全米ナース財団へ寄付。「ファウラー&ウルフ」は115万ドル(7スキンズ)全額をCDC財団へ寄付した。

 この合計300万ドルのスキンズとバーディー賞の100万ドルやロング・ドライブのボーナス50万ドル、視聴者からの105万3959ドルを加えた総額550万3959ドル(約5億8850万円)が、今大会によって集められたチャリティ総額ということになる。

 コロナ禍の最前線で戦う医療従事者たちへ、これほどビッグな支援ができたことは、このチャリティ・マッチの何よりの収穫。だが、高額の寄付金を集めた以外にも、今大会がもたらしたものは多々あった。

仲間とゴルフができたことが最大のボーナス。

 米国で緊急事態宣言が発令されて以来、7週間、ただの1度もゴルフクラブを握らなかったジョンソンは、今大会直前に文字通り7週間ぶりにコースを回ったほどで、この日の彼のゴルフ、とりわけショートゲームには、時折り「久しぶり感」が垣間見えた。

 だが、それでもジョンソンは2バーディーを奪い、「正しいこと、やるべきことのためにプレーできて、とても楽しかった」と明るい笑顔を見せていた。

 ファウラーはマッチでは敗北したものの、「親しい仲間たちとゴルフができて、社会のために熱戦を展開できたことは、何よりのボーナスだ。楽しくプレーできて良かった」と振り返った。

少しでもノーマルに戻れたという前進。

 ランキングも実績もキャリアも知名度も、他の3人には遠く及ばないことを自認している21歳のウルフは「僕はトッププレーヤーたちと一緒にプレーすることに、最初はすごく緊張していたけど、ローリーから『僕らは今日、自分のためではなく、もっと大きな社会のためにプレーするんだ』と言われ、僕もその一部を担えることを誇らしく思った。楽しいマッチだった」と、満足そうだった。

 そして、4人のリーダー的な役割を担っていたマキロイも達成感に満ち溢れた表情だった。

「こうしてゴルフコースに戻ってこれたこと、今までとは少しだけ異なるものの、少しだけでもノーマルに戻れたことは、大きな前進。素晴らしい」

「慣れていくしかない。前へ進んでいこう」

 これまでの「ノーマル」とは少々異なっていたこの日のゴルフは、コロナ禍で生まれた「ニュー・ノーマル」であり、それが「これからのノーマル」になっていく。

「慣れていくしかない。前へ進んでいこう」

 世界ナンバー1の呼びかけは、マッチをともに戦った3人の選手に伝わり、マッチを眺めた米国中、世界中のゴルフファンへ、しっかり伝わった。

 それは、寄付とは異なるゴルフ界への価値ある貢献だったのではないだろうか。

文=舩越園子

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