2021年に延期となった東京五輪。とはいえ、新型コロナウィルスの状況や今後を考えれば、予断を許さない。

 一方でさまざまな競技団体の職員からはこうした趣旨の声を聞く。

「オリンピックが開催されないと、今後がとても厳しいです」

 それくらい、各競技にとって、オリンピックの存在は大きい。それは運営を支える金銭的な側面だ。

 オリンピックは金銭的にどれだけ影響力を持っているのか。

 その手がかりは、国際オリンピック委員会(IOC)がホームページで公開している収入、支出などの資料にある。

東京五輪の競泳が「午前決勝」となった理由。

 それによれば、2009年から2012年のIOCの収入は約52億ドル、そして、ソチ五輪とリオデジャネイロ五輪を挟む2013年から2016年の4年間は約57億ドルとなっている。収入のうち、約73%は、テレビ放映権料が占めている。

 テレビ放映権料のトップはアメリカのNBCネットワークの約21.9億ドル。全体の収入の約38%となる。

 オリンピックでは、アメリカでの放送時間帯に競技のスケジュールが左右される。たとえば、東京五輪の競泳が、通常の夜ではなく「午前決勝」となったのもアメリカでの放送時刻に配慮してのものだ。

 NBCによる莫大な放映権料が背景にあることがあらためて分かる。

 収入はどう使われるのか。支出の約90%は、各国のオリンピック委員会、各国際競技団体への分配金になる。

競技ごとにランク付けされて分配金が変わる。

 ソチ五輪での収入のうち、約1.99憶ドル、リオ五輪は約5.4憶ドル、平昌五輪は約2.15憶ドルが各国のオリンピック委員会に分配された。

 また競技団体全体に対しても、それぞれの大会で同額がIOCから分配されている。

 では、各競技団体への分配金の内訳はどのようになっているのか。

 実は分配は、ランク付けに応じて行なわれている。リオデジャネイロ五輪からはそれまでの4つのランクから1つ増えて、A〜Eと5つに分けられた。

 たとえばAランクは陸上、水泳、体操の3競技。Eランクは近代五種、ゴルフ、7人制ラグビーの3競技だった。

 分配金の傾斜配分の参考として、4ランク制だったロンドン五輪時の分配金を掲載する。当時唯一のAランクだった国際陸上競技連盟(現・世界陸上競技連盟)は4700万ドル、以下、Bランクは2200万ドル、Cランクは1600万ドル、Dランクが1400万ドルだった。

最も依存度が高いのは国際卓球連盟。

 IOCから分配される金額は、各競技団体にとって、どれほどの重さであるのか。

 2018年で見ると、最も依存度が高いのは国際卓球連盟で、収入約2135万ドルのうち、IOCからの収入は約401万ドルで約19%を占めている。数%にとどまる競技団体もあるが、総じて、決して小さいとは言えない。

 特に、メジャーとは言えない競技ほど、普及をはじめさまざまな運営費用として重要な資金源だ。端的に言えば、自ら活動資金を集め、費用を賄う、つまりは独立運営を行なうことが困難な競技団体は少なくない。

 分配金への依存を証明するかのように、4月には、国際セーリング連盟のスコット・ペリー副会長が、IOCに東京五輪の分配金増額を求める意向を示した。1年延期されたことで、財源面の課題が深刻となっているためだという。

「人気」が落ちれば、分配金が減る。

 このように、多くの競技団体は、IOCからの分配金を支えとしている。

 先にオリンピックにおける競技スケジュールがアメリカに配慮されていることを記したが、ときに、IOCの意向に沿うようにルール変更も行なわれてきた。

 テレビで放送しやすいように、試合時間がコンパクトに収まるようにする、試合時間が延びる要素を減らす……。視聴者数をはじめとする指標で示される「人気」が落ちれば、IOCによるランクが下がり、分配金が減るからだ。

 そして、オリンピックそのものが中止になることなど、考えたくはない。分配金がどうなるのか、不安に苛まれる。競技団体が是が非でも開催を、と望む背景には、こうした運営における資金の問題がある。

組織の傘下にある人々をどう守るのか。

 どの競技団体であれ、手をこまねいていたわけはなく、自力でスポンサーを募るなど、運営の安定を図ってきた。それでも状況は改善されず、IOCからの分配金、ひいてはオリンピックに依存する状況は続いてきた。

 ただ、これまでと異なるのは、オリンピックが開催されるのが当たり前、分配金がもらえるのは当たり前、という「常識」が覆される可能性があるということだ。

 現実がどう動くのかは別にして、不測の事態があれば、そうした枠組みがなくなることもあるのを認識させられたのが、今日のこの状況だ。

 とすれば、従来の努力は踏まえた上で、独立した運営を図る作業、何かがあったときへの備えを今後は考えざるを得ない。

 組織を、そして組織の傘下にある人々をどう守るのか。発展させるのか。

 あらためて考えさせられることになったのが、今回のオリンピックを巡る一連の出来事である。

文=松原孝臣

photograph by YUTAKA/AFLO