5月11日、MLB機構が、2020年大リーグの具体的開催案を発表した。以来、議論が百出している。

 当然だろう。難問中の難問ともいうべき事柄だけに、調整や修正のアイディアは、これからもまだまだ出てくるはずだ。

 7月上旬(7月4日の独立記念日が土曜日なので、このあたりが本命だろう)の開幕までには、まだ少し時間がある。

 6月中旬から開幕前のミニキャンプが張られるとしたら、5月いっぱいで骨格が定まるかもしれない。

 MLBの開催案は、いまのところおよそ次のとおりだ。

全30球団がDH制を採用する。

(1)今季は全82試合の短縮シーズンとする。

(2)試合は原則として、各チームのホーム球場で行う。開幕後しばらくは、無観客試合とする。

(3)移動を最小限にとどめるため、30球団を東・中・西の3地区に振り分け、リーグの壁を暫定的に取り払って、各地区で10球団ずつが戦う。レギュラーシーズンは、すべて同地区内の対戦とする。

(4)リーグ交流戦の数が増えるため、ポストシーズンも含めて、全30球団がDH制を採用する。

(5)各チームは、選手50人までを帯同することが可能で、ベンチ入り選手枠も30人に広げられる。

(6)ポストシーズンは、従来の10チームから14チームに枠を広げる。

 大枠はこんなところだが、もう少し具体的な説明が必要だろう。

ニューヨーク州知事も「無観客試合ならば」。

 私は前回のコラムで、今年の短縮シーズンがアリゾナやカリフォルニアでの「地域限定・無観客試合」の方向に進むのではないかと予測した。ニューヨーク州やイリノイ州などコロナ禍の被害が大きかった地域では、ゲームの開催がむずかしいと考えたためだ。

 しかし、ニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事が「無観客試合ならば」という条件付きで開催を認めた。新型コロナウイルスの感染者数が全米で最も多かった人口密集地域にゴーサインが出たとなると、他の地域が独自に反対するケースはまず考えられない。

 まあ、無観客試合ならなんとか……という考えもよぎるが、ヤンキー・スタジアムやシティ・フィールド(メッツの本拠地)に隣接した地下鉄駅の混雑を思い起こすと、反射的に警戒心が湧き起こる。

トロントからマイアミまでは2000キロもある。

 82試合の内訳も、説明しておきたい。

 現在の大リーグは、両リーグとも、各地区5チームで編成されている。つまり、3つの地区は、それぞれ10チームずつに振り分けることができる。

 そこで、同リーグ・同地区の4チームとは13試合ずつ戦い(全52試合)、他リーグ・同地区の5チームとは6試合ずつ戦う(全30試合)ことにする。その合計が82試合になるというわけだ。

 ヤンキースを例に引くと、ア・リーグ東地区のレイズ、レッドソックス、ブルージェイズ、オリオールズとは13試合ずつ戦い、ナ・リーグ東地区に属するブレーヴス、ナショナルズ、メッツ、フィリーズ、マーリンズとは6試合ずつ戦うことになる。

 合理的に見えなくもない案だが、ひとつ気になるのは、トロント(ブルージェイズの本拠地)からマイアミ(マーリンズの本拠地)までの距離が約2000キロもあることだ。

 通常の旅客機なら3時間以上かかる。チャーター便とはいえ、万が一、選手や球団職員の間に新型コロナウイルス感染者が混じっていたら、面倒なことになる。

ポストシーズン進出チームの増枠の背景。

 距離の問題は、西地区のシアトル(マリナーズの本拠地)とヒューストン(アストロズの本拠地)の間、中地区のミネソタ州ミネアポリス(ツインズの本拠地)とピッツバーグ(パイレーツの本拠地)の間でも浮上する。

 前者は約3000キロ(旅客機で4時間半)、後者でも約1200キロ(旅客機で2時間)の隔たりがある。移動のプロが仕切るのだから問題は発生しないと信じたいが、リスクが増大することは避けがたいだろう。

 もしかすると、どこかの球団が、なんらかの理由をつけて、本拠地以外の球場を仮のホームとする事態も生じる可能性はなしとしない。

 ポストシーズン進出チームの増枠は、たぶん、オーナー側からの要請だろう。なにしろ、プレーオフは放送権などの実入りがよい。秋が訪れて運がよければ、観客動員も見込める可能性がある。

 フォーマットの大枠を説明しておこう。

経済活動を優先させようとする姿勢がちらつく。

 まず、各リーグを通して勝率1位の2球団は、無条件で地区シリーズに進出できる。

 この2球団を除いた各リーグ・各地区の勝率1位チーム(6球団)、ならびに各リーグのワイルドカード(勝率上位の3球団×2リーグ=6球団)は、3本勝負(先に2勝した3球団が勝ち抜き)の形で、地区シリーズ(各リーグ4球団が出場)をめざす。

 ちょっとややこしいが、これがポストシーズンに進出する14チームの内訳だ。下剋上の起こりやすいこの方式で、野球人気とビジネスを盛り上げようという算段だろう。

 7カ月という長丁場を戦って優劣を決めるという大リーグ本来のスタンスからは外れた発想だが、苦肉の策と思えば受け入れざるを得ないかもしれない。

 ただ、いくつかの提案を見ると、またまた経済活動を優先させようとする姿勢がちらつくのが気にかかる。ポストシーズンのいびつな拡張もその一例だが、オーナー側はここへ来て、「選手の年俸を半分にしたい」という声をあげているのだ。

収入が半分なら「出ないほうがマシ」。

 意見の根拠は「無観客試合がつづけば、今季は40パーセントの収入減となる」という試算だ。当初、オーナー側は、今季の予想収入を100億ドルと見越していた。それが、無観客と開催期間の短縮で、60億ドルに減少しそうだといわれている。

 選手の年俸総額は、現在46億ドルだから、痛み分けの形でこれを半額にしたいというのが、オーナー側の発想だ。

 もちろん、選手側はこれに猛反発している。レイズのブレイク・スネル、ロッキーズのノーラン・アレナド、フィリーズのブライス・ハーパーといったスター選手たちは、「生命の危険を冒し、家族との生活を犠牲にし、収入まで半分に減らされるくらいなら、出ないほうがマシだ」とまで発言している。

「生活の根底」に関わる治癒効果を求めている。

 この問題はたぶん、5月末ぐらいまでに軟着陸の地点を見つけ出すと思う。ただ、ファンは白ける。オーナー側も選手側も、この4年間、野球の観客数が減少の一途をたどっている事実から眼を背けないほうがよいのではないか。

 観客が野球に求めているのは、オーナーや選手たちの貪欲な経済活動などではない。

 無意識裡かもしれないが、彼らはむしろ、「生活の根底」に関わる治癒効果を野球に求めている。球場という空間の広がりを実感し、選手たちの躍動する姿を見て、バットがボールを弾き返す音を聞きたいと思っている。

 野球が戻ってくるとは、人々の普通の生活がふたたび可能になるかもしれないことに結びつくのではないのか。金儲けに走るのは、世の中がもっと落ち着いてからでいいだろう……。

 そんなことを考えているうち、全30球団でDH制が採用されるという思い切った改革案に触れる紙幅がなくなってしまった。これは今季限りの現象なのか、それとも将来につながる改革の序章なのか。機会を改め、ゆっくりと考えてみたい。

文=芝山幹郎

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