センバツ大会に続いて夏の甲子園大会の中止も決まる中で、悪戦苦闘しているのは各球団のスカウトたちである。

 東京都などに緊急事態宣言が発出された4月7日前後から、ほぼ全国的に高校、大学の部活動や社会人チームの活動がストップ。試合ばかりか、学校やチーム単位での練習も中止となって、スカウトにとっての“現場”が消失してしまった。

「スカウトは地方に出向いて足で稼ぐのが仕事のようなもの。しかし緊急事態宣言が出てからは、ほぼ自宅待機が続いて時間を持て余していました」

 こう語っていたのは在京のある球団のスカウトだった。

スカウトが足を運ぶ場所がない。

 普段のシーズンならばいま頃は、春の地区大会や練習試合が真っ盛りの時期だ。そうした試合に足を運びリストアップしてきたドラフト候補の成長度のチェックや、ひと冬を超えて大きく成長した選手がいないかなどの掘り起こし作業を行う。

 その上で6月下旬に沖縄から始まる全国の夏の地区予選を回り、夏の甲子園大会を経て総合的な判断を下す。

 そうして最終的なドラフト指名候補をリストアップしていくわけだ。

 ところが今年はこのコロナ禍で試合が全く行われていない上に、練習すらストップしている。足で稼ぐのがスカウト稼業と言われるならば、その足を運ぶ場所がなくなってしまった訳である。

 ただ、そうして暇を持て余していた時間の中で、いつもなら得られない収穫があったのが映像での選手のチェックだったという。

 もちろん通常でもそのチームもドラフト候補の選手は独自に試合映像などを撮って、それを自チームのスカウト間で共有することはしていた。

アマチュア野球ファンがアップした映像。

 コロナ禍の在宅勤務でもそうした球団保有のビデオチェックは行っていたが、もう1つ、これまではあまり注目していなかった画像を丹念に観ることでいくつかの発見があったというのだ。

「世の中にはアマチュア野球ファンの皆さんが撮影してユーチューブやブログにあげている映像が物凄い数であるんです。時間があるのでそういう映像を小まめにチェックしていくと、予想外の収穫を得ることができました」

 そのスカウトの説明だ。

様々な角度から撮影した映像がある。

 1つは独自で撮影した映像には撮影する場所のバラエティーがないのが弱点だった。ところがインターネット上にアップされている映像は、同じ選手の映像でも様々な種類が豊富だというのである。

「スカウトは現場ではどうしても実際の目で観ることが基本で、色々なビデオを撮影するほど余裕がない。ほぼネット裏からの画像が中心になってしまうのが実情なんです。

 しかし今回、一般にアップされている映像をチェックしてみると、それこそドラフト候補になりそうな有望選手だと、その1人の選手に対してスタンドの様々な角度から撮影した映像があり、父兄がアップした練習や、1年生、2年生時代のものもある。そういう点では非常に参考になりました」

 そしてもう1つが新しい人材の発掘だった。

 インターネットで1人の選手をチェックすると、そこに紐付けされた違う映像に、これまでリストアップしていなかった選手のものなども含まれている。これを丹念に観ていくと、これまで中央ではあまり名前が知られていないが、「オッ!」と思うような選手が出てくることがあるのだという。

「ノーマークだったけど、こんな選手がいたんだ」

「ほとんどレアなケースですが、それでも私も実際にありました」

 取材に応じてくれたスカウトもその事実は認める。

「ノーマークだったけど、こんな選手がいたんだという感じですね。これは情報を集めて現場に足を運んで、練習や試合で選手の判定をしていくというこれまでの方法とはまったく違うアプローチ方法になる。

 これまでではひょっとしたら見出せなかった選手を発見する新しい方法かもしれません。そういう意味ではこのコロナ禍の中での、スカウティングの方法としては、予想外の収穫だったと思います」

 約2カ月のテレワークで働き場所を失ったスカウトたちだったが、転んでもタダでは起きない。こうして新しいリストを携えて、再始動への準備を整えていたのである。

甲子園大会は評価にバイアスがかかるケースも。

 コロナ禍で夏の大会が中止となった今夏は、各県では代替大会の開催が検討され、すでに愛知や長崎、秋田などでは県単位での公式戦開催が決定した。他の都道府県でも、少しずつ夏の大会に準ずる“公式戦”や練習試合も解禁となっていくはずだ。

 ただその一方ですでに福岡県は夏の大会の代替大会の開催断念を発表し、今後は同じような地区が出てくることも予想される。今年の高校野球の先行きは、全国的にみればまだまだ暗闇に包まれているのが現状なのである。

「確かに甲子園大会は勝負根性やスター性を観るのに絶好の舞台でした。ただ、その一方で我々も人気に押されて評価にバイアスがかかってしまうケースもある。そういう意味では地方大会というのは、選手を評価していく上では一番、大事な場所。その場がなくなったのは痛いですね」

 こう語るのは別のチームの編成担当だった。

選手を集めて実技を披露する場所は必要。

 特に高校生の場合は2年生から3年生になる1年間で急成長する選手が出てくるケースがある。その点が大学生や社会人の選手の持つ1年間とは、意味合いが大きく変わってくる。

 それだけに高校3年生の夏の実戦を観ることは、選手の実力判断の大きなポイントとなる訳である。

「甲子園大会が中止となったいま、各県で開催される代替大会なりトライアウトなり、何らかの方法で選手を観る機会を作ることは、獲る側だけでなく選手の側にも必要なことだと思います。

 しかしまだ代替大会を、我々プロのスカウトが観戦できるかどうかも分からない。そこを何とかしていただきたいというのは、切実な要望ですね」

 その編成担当は訴える。

 高校卒業後に大学で野球を続けるためにはスポーツ推薦などの制度を利用することが1つの方法だ。ただ、その判定の基準となるのが高校時代の公式戦での成績で、それが無くなってしまった。

 企業に就職して社会人野球を続けるにしても、採用側の基準は2年生までの実績となってしまう。そうなると採用を手控えるケースが出てくることさえ考えられる。

 だとすれば尚更、プロだけではなく大学や社会人の関係者のためにも、高校、大学を卒業して、その先でも野球を続けることを希望する選手を集めて実技を披露する場所は必要となるはずなのである。

 プロ、アマは関係ない。

 プレーヤーズ・ファーストでこの秋に、そういう舞台を整えることは急務のはずである。

文=鷲田康

photograph by KYODO