今年の高校野球は、新型コロナ禍によって前代未聞の中止が相次いだ。「代替大会」が甲子園や全国で行われることになったが、高校球児の気持ちは複雑だろう。

 しかしこうした大きな災難は、変革への転機になりうる。高校野球も1世紀が経ち、いろいろと問題がでてきたのは間違いがない。“コロナ明け”に新たな展開が始まってもいいのではないかと思う。

 高校野球において、現状で最大の問題点と筆者が感じるのは「トーナメント制」だ。

 もともとアメリカの東海岸で始まった野球はリーグ戦だった。参加したチームが総当たりで対戦して優劣を決めるものだった。

 日本にもたらされた当時も大学野球はリーグ戦だったが、大正期に始まった全国中等学校優勝野球大会というトーナメント戦の大会が、全国的な人気を博した。この大会のために甲子園球場が開設され、人気はさらに高まった。現代に連なる高校野球はこうして始まったのだ。

一戦必勝が生むドラマ性と弊害。

 トーナメント戦は「一戦必勝」だ。負けたら後がないから選手も観客も過熱する。これが数々の「甲子園のドラマ」を生んできたのだが、弊害も多い。

 負けられない試合が続くから、常にエースが投げることになる。球数が嵩み、肩やひじの負担も大きくなる。甲子園で活躍した投手がプロで伸びないケースが多いのは、トーナメント戦で消耗するからだ――とも言われている。

 これは野手陣にも当てはまる。一戦必勝のため、常にベストメンバーになるのだ。レギュラーの経験値は上がるが、控え選手はベンチを温め続けることになる。

 エースやレギュラーの負担が大きくなる一方で、控え選手の経験値はなかなか上がらない。これがトーナメントの弊害だ。

年間の公式戦、約40試合と3試合。

 またトーナメント制は、勝てば試合数が増えるが、負ければそれで終わりだ。

 日本の高校野球の公式戦は、都道府県レベルでは春季大会、選手権の地方大会、秋季大会があるが、すべてトーナメント。勝ち進めば春夏の甲子園や神宮大会などの全国大会を含め公式戦は40試合ほどになるが、初戦で負け続ければ年に3試合だけだ。

 そしてトーナメント制は一戦必勝だから、指導者はどうしても「勝利至上主義」になってしまう。度を越した厳しい指導や、スポーツマンシップにてらして疑問が残る戦術、戦法に走る指導者もいる。

 いろんな意味で、トーナメント制は、日本野球をゆがめてしまっているという見方があるのだ。一部の指導者から「高校野球にもリーグ戦を」という声が上がっている。

 そして各地で、実際にリーグ戦が始まっている。

大阪の有力公立、香里丘高の取り組み。

 大阪府立香里丘高校は、数年前から近隣のチームとリーグ戦を行っている。この学校は2018年には北大阪大会で準々決勝まで進むなど、公立では有力校だ。

 もちろん非公式戦だが、藤本祐貴部長は手ごたえを感じているという。その藤本部長に話を聞いた。

「僕は今の甲子園中心の野球に疑問を感じていました。甲子園で活躍した選手、特に投手がプロなどその先で活躍できていないこと、金属バットの反発係数が上がりすぎて打高投低が顕著になりすぎていることも問題だと思っていました。今の金属バットでは、アウトサイドインなど間違ったスイングでもバットの性能が良すぎるので打ててしまいます。そのために上のレベルで伸び悩んで野球を断念する選手もいます。

 トーナメント制に加えてこうした問題が、野球人口の減少につながっているのではないかと考え、同じ考えを持った6校の指導者で構想をまとめ、いろいろ改革を盛り込んだリーグ戦を始めることにしたのです」

日程、グラウンド確保は難しかったが。

 リーグ戦を始めるにあたっては、堺ビッグボーイズ中学部の阪長友仁監督に指導助言をあおいだ。リーグ戦では、従来の金属バットではなく、アメリカのアマチュア野球で使われているBBCOR仕様の低反発バットと木製バットを併用することにした。

 もちろん、リーグ戦の実施は簡単な話ではなかった。

「まず日程の確保です。秋季大会が終わった9月下旬から11月下旬の2カ月にわたって実施しているのですが、その間にも修学旅行や模試などがあり、全校足並みを揃えて日程を確保するのが難しかった。また、グラウンド確保にも苦労しました。大阪は試合ができるグラウンドを持つ高校が多くなく、試合会場が一部の学校に集中してしまうこともありました。各校の先生方と調整しながら、ひとつひとつ問題を解決していきました」

 リーグ名は『Liga Futura』、“未来を見据えたリーグ”というニュアンスだ。

 リーグ戦を導入したことで、選手たちの野球に取り組む姿勢は大きく変わった。

「選手は、個人個人で自分の課題は何なのかを考え、それを克服するために考えて取り組むようになりました。低反発バットになったら打てない選手、低反発バットに変わっても苦労せずに打てる選手がいてその違いは何なのか、指導者に聞いてきたり、自分で調べたりして自発的に取り組む姿が増えました。

 あと、打者はフルスイングできる選手が増え、投手はストレートで勝負しようという姿勢が随所に見られたのもプレー面での良い変化だったかなと思います」

二番手以下の投手が投げ、重圧も軽減。

 目先の勝利を追い求める野球では、犠打や走者を送る戦法が多くなりがちだ。投手もかわす投球が多くなる。それ自体は悪いとは言えないが、選手個々が実力を発揮する機会が狭くなることにもつながる。

 その点、リーグ戦は「負けてもあとがある」から、選手は思い切った野球ができるのだ。

 実はトーナメント制で最もプレッシャーがかかるのは指導者だと言われる。

 試合で二番手以下の投手を抜擢しようとしても、それで負けたら周囲から「なぜエースを出さなかったのだ」と責められる。このために肘、肩に懸念があったとしても、エースを無理して起用せざるを得ないのだ。

 リーグ戦にすれば、控え選手にもチャンスを与えることができる。プレッシャーも軽減され、指導者も伸び伸び采配を振るうことができるのだ。

個人タイトルなどデータが残せる。

 もう1つ、リーグ戦の良さは、チーム、個人の様々なデータが残ること。

 今の高校野球では、強打者は「高校通算何本塁打」などの報道が載るが、公式戦だけでなく練習試合なども含めた玉石混交な数字であることが多い。しかしリーグ戦をすれば、投打の客観的なデータが蓄積する。これらを比較すれば、チームや選手の特性、個性が見えてくる。改善点や努力すべきことも具体的にわかってくる。

 2019年の『Liga Futura』は、11校が参加。それぞれ12試合を戦い、その後決勝トーナメントを実施した。

 また、個人タイトルも決めた。首位打者は33打数17安打の打率.515、最優秀防御率は42.2回、自責点7の1.48だった。

 こうした数字が、選手にとって大いに励みになるのは言うまでもない。

「クリエイティブな思考で意見を」

 藤本部長は、今後もリーグ戦を発展させていきたい考えだ。

「今季も1、2校参加校が増えそうです。周りの学校から参加したい、と言ってもらえるような魅力あるリーグ戦にしたいです。そのためにも、まずは今参加している学校の指導者がコーチングスキルを上げるために、学び続ける姿勢を持つことが大切だと思います。

 そして、子どもたちにとってプラスになることはスピード感を持ってどんどん取り入れていけるよう、指導者一同クリエイティブな思考で意見を言い合えるようなリーグ戦にしていけたらなと思っています」

『Liga Futura』だけでなく、こうした取り組みが全国で始まっている。

 新型コロナ明けには、経済環境の悪化も予想され、高校野球を取り巻く環境は厳しくなることが予想される。

 高校野球をより魅力的で、選手ひとりひとりの成長を促すものにするために、高校野球の指導者はリーグ戦の創設、参加を考えてみてはどうだろうか?

文=広尾晃

photograph by Kou Hiroo