難航した交渉の末、ようやく7月下旬(23日または24日)の開幕が決まったメジャーで、今季はプレーしない選択をする選手が相次いだ。

通算105勝を挙げているダイヤモンドバックスのマイク・リーク投手をはじめ、昨季世界一のナショナルズでは、通算270本塁打のライアン・ジマーマン内野手と先発候補のジョー・ロス投手、さらに球宴出場2回の経験を持つロッキーズのイアン・デスモンド外野手が、新型コロナウイルスの感染拡大への不安などを理由に、今季の出場を辞退する意向を発表した。

 今季の開催にあたり、MLB機構は過去の病歴などから重症化するリスクの高い選手が辞退した場合、年俸と登録日数を保証する方針を決めたが、今回の4人は該当せず、無給となる。それでも、彼らは幼い子供たちや妊娠中の妻、高齢の家族への感染リスクを回避するため、プレーしないとの決断を下した。リークの代理人が「マイクにとって簡単な決断ではなかった」との声明を発表したように、それぞれ断腸の思いだったに違いない。

OBから「黙ってプレーしろ」の声も。

 機構と選手会の間で交渉が長引いていた時期、一部の球界OBからは「黙ってプレーしろ」など、批判的な意見が聞かれた。「ファンのため」「野球を待ち望んでいる子供たちのため」などのフレーズが使われ、プレーすることを選手としての義務や美徳として捉える風潮が漂っていた。

 その一方で、米国内の状況は徐々に変わった。3月のキャンプ中止以来、3カ月が経過してもコロナ禍は終息へ向かうどころか、爆発的に拡大し、6月下旬は全国で1日平均4万人前後の新感染者が確認されるなど、危機的状況に陥った。

メジャー球団が本拠地を置くフロリダ、テキサス、アリゾナ、カリフォルニアなどで連日、最多記録を更新しただけでなく、多数の球団で感染者が出たこともあり、球界全体にも不安感は拡がった。

球団も選手の決断をサポート。

 今回、ナショナルズのマイク・リゾGMは、ジマーマンとロスについて「(2人は)自身と愛する人たちの健康と安全を考慮して決断した。我々は彼らの決断を100%サポートする」とのコメントを発表した。

 また、デスモンドはSNS上で昨今の人種差別問題にも触れ、全30球団のオーナーが白人で、黒人GMが1人、黒人監督が2人とごく少数である球界の現状、さらに労使闘争、サイン盗みなどの問題点を指摘したこともあり、その勇気ある言動には、多くの尊敬と称賛の声が集まった。そしてロッキーズも「我々はあなたの決断をサポートする」とのメッセージを公表した。

拡大感染地域への遠征に抵抗も?

 今後、「サマー・キャンプ」と呼ばれる第2次キャンプが各地で始まり、その後、無事に開幕した場合でも、辞退者が増える可能性は少なくない。MLBが作成した健康・安全面のガイドラインに従って行動したとしても、クラブハウス内に1人でも感染者が出れば、クラスターが発生する危険性は高く、不安視した選手がプレーを回避する選択をするケースはあるだろう。

 今季の60試合は、両リーグとも同地区内での対戦に限定されるとはいえ、フロリダなどの感染拡大地域への遠征に抵抗を示す選手がいても不思議ではない。

 感染の危機と背中合わせでプレーする今季。

 たとえ、プレーしない選択をしたとしても、彼らが責められたり、咎められたりする理由はない。

 父として、夫として、家族の命を守ることを最優先させる姿勢に、野球選手の肩書は関係ない。

文=四竈衛

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