“It is what it is”

 八村塁(ワシントン・ウィザーズ)が取材でよく使う英語のフレーズだ。7月3日に行われたオンライン会見の前半、英語で行われた10分余りの質疑応答でもこのフレーズを2回使っていた。

 最初は新型コロナウイルス感染拡大のためにリーグが中断となったことについて語ったとき。2回目は、別の質問で東京オリンピックについて聞かれたとき。延期になったことに「悲しいけれど、僕らがどうこうできることではない」と言い、「もし来年も中止になったとしたら……It is what it is」と続けた。

"It is what it is"は、日本語にすると「それが現実」「そういうものだ」「しかたない」といったような意味合いを含むフレーズだ。

 その意味だけ聞くと投げやりに感じる人もいるかもしれない。しかし、少なくともこの受け答えにおいて、八村は決して投げやりではなかった。それよりは、自分ではどうにもならないこと、自分ではコントロールできない現実を受け入れ、そのうえで、今何をやらなくてはいけないのかという方向に目が向いていた。自分でコントロールできることとできないことの切り分けができ、切り替えができることは、アスリートとしても大事なメンタリティだ。

「まったくクレイジーな状況だった」

 3月11日に、ユタ・ジャズのルディ・ゴベアが新型コロナウイルスに感染していることがわかりNBAシーズンが突然中断されたとき、八村は、『新人の壁』とも言えるスランプから調子を取り戻したところだった。ここからシーズン終盤、そしてプレイオフ進出を目指してラストスパートと思ったところでの、突然の中断。家にこもり、チーム練習場も使えない日々が続いた。

「まったくクレイジーな状況だった」と八村は振り返った。

 さらに、シーズン中断後まもなく、八村にとって「夢で、大きな目標」だった東京オリンピックも延期が決まった。

 NBAシーズンに東京オリンピック。目の前から目標がすべて消え、いつ再開されるのか、オリンピックも果たして来年開催されるのか、先がわからない、未体験の世界に突入した。

 NBAがシーズン再開に向けて準備し始めてからも、ウィザーズがその再開プランに入れるかどうか、最後までわからなかった。感染拡大のためには参加チーム数を減らす必要があり、16チームでの再開案、20チーム案、22チーム案の3つが検討されていた。中断の時点でNBA30チーム中22位の成績だったウィザーズは、再開組に入るか入らないかぎりぎりのところにあったのだ。

目標はNBAで長く活躍すること。

 そんな先行き不透明ななかで、八村は、気持ちを切らすことなくトレーニングを続けていた。いったい何をモチベーションとしていたのだろうか。そう聞くと、彼は今シーズンだけでなく、長い目で見ていい選手になることがモチベーションだったと語った。

「ルーキーシーズンということで、僕はまだまだこれからだと思っているので。このシーズンを終わらせるためと思ってトレーニングをやっていたというのもあるんですけれど、それ以上に、これからのことを考えてずっとトレーニングしていた。そういうところをモチベーションにできていたんじゃないかなと思います」

「NBAのシーズンとして(再開するかどうか)50/50になっていた中で、僕としてはそこだけが目標じゃない。来年のオリンピックがもしできれば、というのもありますし、あとNBAで長く活躍していくっていう目標があってやっているので。それに向けてモチベーションをあげていけば、いつシーズンが始まっても準備ができていると思う」

 ルーキーシーズンや今夏開催されるはずだったオリンピックという短期的な目標がなくなっても、長いNBAキャリアを送るという長期的な目標さえ忘れなければ、モチベーションを失うことはないというわけだ。

体重は4.5kg増加、コロナ禍を有効に。

 シーズンが中断してまもなく、オフシーズン中に過ごすことが多いロサンゼルスに戻った八村は、家でウェイトトレーニングをして身体を鍛え、中断していた3カ月半で10ポンド(4.5kg)増量した。ふだんは、オフシーズンになっても代表活動があるため、まとまって3カ月以上も身体を鍛えることに集中する機会はなかなか作れない。早くに気持ちを切り替えたことで、コロナ禍の期間を有効に使うことができたのだ。

「体重も増えて、体つきも大きくなったってよく言われます。そういう身体を鍛える時期が欲しかったので、それに関しては、今回、こういうことになってしまったんですけれど、時間を無駄にせずにできたんじゃないかなと思います」

「まだ対人(の練習)はやっていないんですけれど、身体ができているっていうところが出ると思う。身体ができてくると、もっといろんなことができるので、これからもっと楽しみになると思っています」

 さらにはZoomを使ったチーム主催のスキルワークや、LAで体育館を借り切ってのワークアウトで、ボールハンドリングやシュート練習にも励んだ。シュート練習では、ウィザーズのアシスタントコーチで、女子日本代表のアドバイザリーコーチでもあるコーリー・ゲインズのもとで練習し、課題の3ポイントシュートを安定させるため、シュートの打ち方を微修正。より自信をもって打てるようになったと胸を張る。

プレイオフ出場権獲得のチャンスは?

 ウィザーズはアメリカ時間7月7日に、開催地であるフロリダ州ディズニー・ワールド・リゾート内のESPNワイド・ワールド・オブ・スポーツ・コンプレックスに移動。トレーニングキャンプと3試合の練習試合を経て、7月31日のフェニックス・サンズ戦を皮切りに、8試合のシード決め試合を戦う。

 中断前の成績を引き継ぐため、現在は東カンファレンス9位のプレイオフ圏外だが、8試合が終わった時点で東8位のチームとのゲーム差を4ゲーム以内に詰めることができれば、プレイオフをかけたプレイイン・ゲームを戦うことができる。8位チーム相手にプレイイン・ゲームで2戦2勝することができれば、プレイオフ出場権を獲得できる。現在7位で、ウィザーズとのゲーム差が6ゲームのブルックリン・ネッツが、故障者や辞退者続出で戦力ダウンしていることもあり、中断時には遥か遠くに感じたプレイオフが、少し近くに見えてきた。

 NBA1年目の終わらせ方について、八村はこう抱負を語った。

「僕らもプレイオフに行けるチャンスがあると思う。8試合しっかりと戦って、シーズンもこんな感じになってしまっているんですけれど、僕としてもルーキーシーズンをしっかり終わらせて、次のステージに行けたらいいなと思います」

文=宮地陽子

photograph by Kyodo News